【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第11回「聲の形」ほか

アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひと言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。


「聲の形」は、大今良時の同名コミックを、「たまこラブストーリー」の山田尚子監督が映画化した作品だ。
主人公・石田将也は小学校の時に、転校生の西宮硝子をイジメていた。硝子は聴覚障害者だった。その喋り方を笑い者にし、補聴器を奪って投げ捨てる。どんなにイジメても怒らない硝子に苛立ってさらにイジメる。
当然、イジメは表沙汰になる。その時、将也に同調していた友達たちは、将也だけが悪いという態度をとった。そして今度は友達にイジメられるようになった将也。中学になってもこの話を持ち出され、将也は周囲から孤立する。高校に入り自殺を決意した将也は、最後にある手話サークルをおとずれ、硝子に会う。
すべてを終わらせるための将也のこの決意が、新たな苦闘の扉を開くことになる。
イジメが人の自尊感情をいかに奪うのか。それを身をもって体験した将也は、硝子との再会を通じてどうのように自尊感情を取り戻すことができるのか。そして硝子自身はどんな思いを抱えて日々を過ごしているのか。映画はこのヘビーな物語を正面から描き、興行収入20億円を超える異例のヒットを記録している。

あたかも安いレンズのカメラで撮影したような撮影効果は、将也たちが悩み傷つけ合う姿をまるで盗み見ているような効果を与えている。そして物語のポイントで繰り返される「飛び降りる」アクション。それは大事なものを守るアクションであり、同時に自分への罰でもある。さらに、川へと飛び降りた後の水中の音は、音がよく聞こえない硝子の世界の中へと飛び込んだようでもある。こうした映画ならではのプラスαがこの映画を奥深いものにしている。

硝子は手話を使う。作中で大きな意味を持つのは、左右の手を握り合う「友達」と、握った右手の手首を返しながら、チョキの形に指を伸ばす「またね」。観客はこの2つの手話が登場するたびに、その意味の重さ尊さを突きつけられることになる。

というわけで今回のキーワードは「手話」

大地丙太郎監督の「まかせてイルか!」は、湘南で便利屋「イルか屋」を営む小学生たちを描いた作品。もともと大地監督が原作を手がけたマンガがあり、それを原作に自主制作された作品だ。大地監督らしくテンポよく笑わせてくれて、心にも響くそんな小品だ。
イルか屋の小学生は、空、海、碧の3人組。それぞれ家庭に事情があり、親元を離れて3人で“姉妹”として暮らしている(このあたりのことはアニメでは描かれないけれど)。“次女”の空は主人公で、ボーイッシュで元気な子。“長女”の海は華やかなルックスで「別れさせ屋」を引き受けたりする。そして碧は、知力抜群で経営分析までできてしまう頭脳の持ち主。この碧が、耳が不自由で手話で会話するキャラクターなのだ。
「まかせてイルか!」の魅力は、この手話を使う碧の存在が当たり前のこととして描かれていること。セリフでうまいぐあいにフォローを入れて、なんのひっかかりもなく見られるようになっていて、耳が不自由で手話を使うというということが自然なこととして受け入れられるようになっている。

そしてコースケ原作の「GANGSTA.」に登場する“便利屋”にも奇しくも手話を使うキャラクター、ニコラス・ブラウンが登場する。
ニコラスは、戦時中に使用された特殊な薬物の影響で、短命ながら高い戦闘能力を持つことになった「黄昏種(トワイライツ)」のひとり。黄昏種は能力を持つ代わりに、必ず何かが欠落しており、ニコラスの場合は聴力がそれにあたる。
アニメ化にあたっては、東京都聴覚障害者連盟が手話監修を担当しており、ニコラス役の津田健次郎は同連盟に取材をしたうえで聴覚障害者の喋り方を演じている。EDのラストで歌詞の意味を手話で語ってみせるニコラスの姿は印象的だった。

そして最後に紹介するのは、通常はなかなか見ることが難しい「どんぐりの家」だ。
原作は、ろう重複障害者の共同作業所を題材とした山本おさむの同名マンガ。ろう重複障害者とは聴覚障害に加え知的障害などを併せ持った人たちのこと。当然、手話のシーンも登場する。本作は自主製作・自主上映の方式でさまざまな人の草の根の協力で完成した作品で、VHS版しかリリースされていない。現状、自主上映を申し込むか、図書館などの啓発ビデオコーナーでVHSを探すしか見る手段がない。
制作は亜細亜堂で、スタッフは豪華だ。原作の山本が総監督と脚本を務め、監督は安濃“蝉時雨”高志。絵コンテは安濃高志、小林常夫、佐藤卓哉、小林治の名前が並び、キャラクターデザインは河内日出夫と柳田義明が連名となっている。原画には櫻井美知代、羽根正悦、湯浅政明といった名前も見える。

聴覚障害という題材をそれぞれのアプローチで描いていた4作。聴覚障害に限らず、もっとこういう題材に取り組む作品が増えてもいいと思う。


(文/藤津亮太)
(C) 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会

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