アニメ業界ウォッチング第27回:プロデューサーという職業の抱える理想とジレンマ 松尾亮一郎インタビュー
アニメーション監督が、夢を描く仕事だとしたら、アニメーション・プロデューサーは“夢を実務で具現化する”職業だ。アニメづくりには何百人というプロフェッショナルが関わるため、プロデューサーは1本の作品を完成させるため、彼らの力をひとつの方向へ導かねばならない。具体的かつ実現可能な方法論が必要だ。
松尾亮一郎プロデューサーは、現在公開中の「この世界の片隅に」をはじめ、「BLACK LAGOON」「マイマイ新子と千年の魔法」など、片渕須直監督の作品づくりを主にサポートしてきた。縁の下の力持ちであるプロデューサーの仕事の中身とは? 理想とは、悩みとは? 松尾プロデューサーに、限界まで語っていただいた。
監督のビジョンを汲みながら、予算配分を決めていく
──アニメーション・プロデューサーの仕事とは?
松尾 僕は現場のプロデューサーですので、予算やスケジュールの管理、それと人集めが主な仕事です。だけど、人によって、会社によって、作品によってもプロデューサーの職域はさまざまで、厳密に「ここからここまで」と決まっているわけではありません。他のプロデューサーに「どういう仕事してるんですか?」と、僕が聞きたいぐらいです(笑)。
──公開中の「この世界の片隅に」の場合、プロデューサーとデスクを並べる制作チームは、何人いたのですか?
松尾 制作進行が2人、もう1人、演出助手が一緒に仕事していました。厳密に制作チームとなると、僕をいれて3人でした。
──予算は、最初にいくらと決まっていて、その中から配分を決めていくわけですか?
松尾 今までの経験から、ざっくりと「これぐらい」と振り分けていきます。「この世界の片隅に」の場合、片渕須直監督のビジョンをどれだけ汲めるかがキモで。監督がイメージしている細やかな芝居を実現させるために、特に作画の予算を厚く配分しました。
──制作予算の中に、声優さんのギャラも入っているのですか?
松尾 はい、音響制作費に含まれます。ただし、主演声優は別。映画の主演声優はパブリシティで媒体に露出したり、舞台挨拶などに同行することも多く、出演費だけでは勘定しづらいので、宣伝予算から出してもらいました。そこは、作品によってケース・バイ・ケースですけどね。
効果音も、音響制作費から出ています。「この世界の片隅に」は一部、戦争を描かねばならない映画。臨場感を出すために、重低音で硬質な効果音が必要でした。なおかつ片渕監督のオーダーを実現できる人ということで、アルカブース代表の柴崎憲治さんを片渕監督におすすめしました。柴崎さんは実写映画の音響効果を主に担当されている大ベテランです。B-29の音など本物の音を持ってきてくださって、より戦争の迫真性が出たと思います。爆弾の音なんて本当に怖くて。ひとつの作品の中で、幅の広い音のグラデーションが出ました。柴崎さんのおかげです。
──「ここぞ」という時に柴崎さんを連れてこられるのは、松尾さんの人脈なわけですね?
松尾 以前、アルカブースさんとお仕事したことがありまして、柴崎さんのことも存じていましたし、今回の片渕監督のオーダーをうかがった時に、合うだろうと思いました。
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