アニメ業界ウォッチング第28回:株式会社キュー・テックに聞く、Blu-ray制作の最前線 「勇者王ガオガイガーFINAL」の場合

DVDソフトとBlu-rayソフト。われわれファンがもっとも期待し、もっとも身近に置きたいアニメ商品だ。かつて、DVDでしか発売されていなかったソフトがBlu-ray化されると、ホッとしたり、テンションが上がったりする。
では、Blu-ray制作の現場では、何が行われているのだろう? 今回は2000年から2003年にかけて、OVAとして発売された「勇者王ガオガイガーFINAL」を例に、Blu-ray化の現場担当者に取材してみた。「勇者王ガオガイガーFINAL」は、テレビシリーズ「勇者王ガオガイガー」(1997年)の続編で、ちょうど、アニメ制作がアナログからデジタルに移行する時期の作品だ。したがって、フィルム撮影とCGで作成されたカットが混在している。
さらに、「勇者王ガオガイガーFINAL」は、「勇者王ガオガイガーFINAL GRAND GLORIOUS GATHERING」(2005年。以下、ガオガイガーFINAL GGG)としてテレビ放送用に再編集された。今回のBlu-ray化では、「ガオガイガーFINAL」と「ガオガイガーFINAL GGG」の両方が、ひとつのBOXに収められて発売される。
では、実作業にあたった株式会社キュー・テックの営業担当、杉原聖さん、エディターの鈴木正実さん、株式会社サンライズ・ライツ営業部の木内拓馬さんに、Blu-ray-BOX制作の舞台裏を聞いてみよう。


フィルム、CGカット、DVDマスター、3種類の素材を組み合わせる


──キュー・テックで働いていらっしゃるお2人の、仕事内容を教えてください。

杉原 私は営業担当で、全体のスケジュールや編集方法・仕様について、調整する役目でした。鈴木には編集チームのメインとして立ってもらい、クオリティコントロールを含めた実作業を行ってもらいました。

──初歩的な質問ですが、DVDとBlu-rayは、どこがどう違うのでしょう?

鈴木 わかりやすくテレビ放送にたとえますと、DVDは、アナログ放送時代の映像信号のフォーマットです。Blu-rayは、デジタル放送になってからの映像フォーマットとなっています。大きな違いは、解像度の差です。DVDはアナログ放送ですから、640×480のSDサイズ。Blu-rayはハイビジョンですから、1920×1080のHDサイズです。DVDをBlu-rayに単純に置き換えようとすると、ただ拡大するだけになって、アニメだと細いトレス線にジャギーが出てしまいます。その点、弊社独自の“FORS(フォルス)”というアップコンバート技術を使うと、ジャギーが出ず、きれいにアップコンバートできます。
今回の「勇者王ガオガイガーFINAL」の場合、当時、全8話の制作のうち、前半4話はフィルム撮影で、後半4話はデジタル撮影となっていました。
前半4話の多くは35mmのフィルムで撮影されていたため、2000年当時の他のDVDと比べると、絵の情報量が多く、色の再現性、色ツヤでは格段の差がありました。
後半4話はSDサイズでのデジタル撮影のため、前半4話のフィルムの映像より解像度は低いものの、弊社のFORSを使うことで、通常のアップコンバートとは比較にならないほど、きれいな映像になっています。


──すると、画質の基準は、前半のフィルム撮影部分に合わせているのですか? それとも後半のデジタル撮影に準拠しているんでしょうか?

鈴木 つないだ時に違和感が出ないよう、当時発売されたDVDマスターをガイドとして、35mmフィルムの画質に合わせるかたちで、後半のデジタル撮影部分をFORSでアップコンバートしました。前半のフィルム部分は、今回あらためて、ネガフィルムをスキャンし直しています。なぜなら、現在の技術のほうが、高解像度でスキャンできるからです。そのスキャンデータを、DVDマスターを参考にしてカラコレ(色補正)します。その後に、再編集していくわけです。

──ネガフィルムを新たにスキャンして、それを発売当時のDVDと同じように編集したのですか?

鈴木 そうです。ネガからスキャンし直していますから、DVDを編集したときに加えられた効果などは、すべて外れてしまっています。「勇者王ガオガイガーFINAL」の場合、撮影された素材を単純にそのままつないでいるのではなく、米たにヨシトモ監督が編集の段階で、画面効果などを追加しているんです。DVD発売当時と同じ画面効果を、Blu-rayでも再現する必要があります。

──すると、入射光などの特殊効果を、1つひとつ入れなおしているのですか?

木内 今回、ネガを確認したところ、編集時に加えられた処理などがネガに反映されていなかった箇所が認められました。とは言え、DVDマスターからのアップコンバートではファンの皆さんのご期待にお応えできないと思い、イチから再現しようという方針をとりました。

杉原 ですので、DVDと見比べながら、オリジナルどおりの効果を入れなおしています。

──かなり大変だと思うのですが、Blu-ray商品としては、普通のことなんでしょうか?

杉原 普通の旧作タイトルですと、DVDマスターをそのままアップコンバートするか、フィルムをそのまま使ってリマスター作業を行うかの、どちらかです。
「ガオガイガーFINAL」は制作当時、色々な方法を駆使して編集されていたので、サンライズさんで保管されている、3種類の素材の一番良いところを使用してBlu-ray化してほしい、とのご要望がありました。

──その「3種類の素材」の内訳を教えてください。

杉原 まず、35mmネガフィルムからスキャンしたデータ。もうひとつ、当時、CGで作成されたCGカットと呼ばれるデータ。最後に、DVDマスター。「この3種類の素材をうまく組みあわせて、最高のクオリティで再現してほしい」とのことでした。それぞれの素材のもつポテンシャルを、もっとも良い状態で使う必要があったので、CGカットもDVDマスターも、35mmフィルムの画質に合わせて、違和感なく調整しなくてはなりません。


木内 さらに言うと、そこに16mmフィルムも入ってきます。というのは、「ガオガイガーFINAL」では、1997年のテレビ版「ガオガイガー」の映像を使った回想シーンなどがあり、テレビ版は16mmフィルムで撮影されているからです。

鈴木 回想シーンには当然、回想らしい処理が加えられています。ですから、テレビ版「ガオガイガー」のBlu-ray作業で作成したHDマスターを使用し、同様の回想効果を加えて、「ガオガイガーFINAL」に使いました。そうした変則的な流用カットが随所にありますので、作業量はかなりのボリュームになりました。

──過去に、そこまで膨大に作業した作品はあったのですか?

鈴木 いえ、私にとっては初めてですね。

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