【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第12回「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」ほか

アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひと言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。


火星。地球のすぐ外側の軌道を回る惑星。酸化鉄を含む岩石によって、夜空にひときわ赤く輝くその姿は、古来から戦いの神マーズに見立てられてもきた。地球人にとって身近な惑星だけに、1898年にH.G.ウェルズが「宇宙戦争」で火星人を登場させるなど、さまざまなフィクションの題材となってきた。アニメもまた例外ではない。少し前には「アルドノア・ゼロ」が火星と地球の戦いを描いていたし、現在放送中の「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」は、地球圏全体を巻き込む大戦争・厄祭戦が終結してから約300年後の火星から物語が始まる。

本作の火星は、テラフォーミングで地球とほぼ同じ環境が作り出され、実質的に地球の植民地となっている。ただ基幹産業のハーフメタル以外の資源はなく、貧困が蔓延し、民衆の中では独立運動の機運が盛りあがっているという設定だ。物語は主人公、三日月・オーガスらが所属する「鉄華団」が、独立運動の旗頭クーデリアを地球へ送り届けることになる――というのが導入。そして、現在放送中の2期では、鉄華団が、木星圏を拠点とする巨大企業テイワズの舎弟として、ひときわ存在感を増したところからのスタートとなった。

大きく成長していく鉄華団は果たしていかなる場所へと到着するのか。その時、三日月・オーガスたちの故郷である火星は、どのような状態になるのか。これからのクライマックスが気にかかる。

火星の直径は地球の半分ほど。重力も地球の4割ほどで、大気も非常に希薄で、寒暖の差も激しい。だからアニメで描かれる時は、「鉄血のオルフェンズ」のようにテラフォーミングされている、という設定で登場することも少なくない。

「鉄血のオルフェンズ」と同様、火星と地球の対立を背景にした作品「Z.O.E Dolores, i」で描かれる火星もテラフォーミングされているという設定だ。

こちらは謎のロボット・ドロレスと出会った中年(49歳)のジェイムスが地球と火星の両勢力から追い回されながら、元妻の死の真相を知ろうとするというストーリー。

ようやく火星にたどり着いたジェイムスたちが助けられたのは、火星の“海”にある酸素工場。“海”の中の海藻が光合成で酸素を生み出しているのだ。火星全域ではまだ酸素濃度は薄いのだが、この工場近辺では酸素濃度は30%。ジェイムスの娘・ノエルがついヘルメットをとってしまって酸素中毒になりかける描写が細かい。また、その次に訪れたドームではトウモロコシを育てている老農夫が登場するが、低重力下で育てられたトウモロコシが巨大に成長している、という描写がある。

こうしたSF的なディテールで「テラフォーミングされた火星」を描いているのも、「Z.O.E Dolores, i」の魅力のひとつといえる。

テラフォーミングされた火星といえば忘れてはいけないのが、天野こずえの「ARIA」を原作とするアニメ「ARIA」シリーズ。

ここでの火星はテラフォーミングの結果、水の惑星となり、アクアと呼ばれている。そしてアクアに築かれた街、ネオ・ヴェネツィアは地球のヴェネツィアを再現した観光都市となっている。このネオ・ヴェネツィアで一人前のゴンドラ漕ぎ(ウンディーネ)を目指す少女。灯里が本作の主人公となる。

19世紀、火星観測で発見された模様がイタリア語で「canali(溝)」と呼ばれたところ、これが英語に 「canal(運河)」と誤訳され、そこから「火星には運河がある」という話が広まることになった。「ARIA」はそんな火星に、本当の運河ができている、というところに設定のミソがある。

ちなみに地球の4割程度の重力しかない火星だが、本作では「重力石」という大質量を持つ特殊な石を使うことで、地球と同じ重力を得ているという設定になっている。

「火星の運河」という誤解は、火星に文明があるのではないかという多くの人のロマンを掻き立てた。そのバリエーションのひとつに、火星に古代文明があったというSF的アイデアがある。これが登場するのが「機動戦艦ナデシコ」

22世紀松に突如、木星方面から現れた謎の存在・木星蜥蜴。木星蜥蜴に制圧された火星から人々を救助するために、民間企業・ネルガル重工が浸水させたのが実験戦艦ナデシコであった。個性的なクルーを乗せたナデシコは木星蜥蜴と戦い、やがて木星蜥蜴の正体を知ることになる。

こうしたストーリーの背景に次第に浮かび上がってくるのが古代火星文明の技術。特に、ポゾンジャンプと呼ばれる一種のワープシステムが物語の重要な位置を占めることになる

火星が身近な惑星である限り、これからもさまざまなアニメの重要な舞台として火星は登場することになるだろう。

(文/藤津亮太)

(C) 創通・サンライズ・MBS

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