「ドリフターズ」はいかに「原作そのまま」の印象を紡ぎ出したか―TVアニメの常識を超えた職人技

原作のある作品をどこまで“忠実に”アニメ化するべきか。これはクリエイターたちが長年模索しつづけてきた課題だ。近年、その度合いが高まる傾向にあるが、「ドリフターズ」は極めて高いレベルでそれを実現し、熱狂的なファンからの喝采を浴びた。原作の面白さと映像化の容易さは必ずしも一致しない。一見して「原作そのまま」の印象を与えるために、スタッフたちがこの作品作りで乗り越えた、作画・構成などのさまざまな課題。その道程について鈴木健一監督と、プロデューサーの上田耕行氏に話をうかがった。


平野耕太「侠気(おとこぎ)あふれる」原作者としての姿勢


──まず本作の企画の経緯について教えていただけますか?

上田耕行プロデューサー(以下、上田) OVA「HELLSING」最終(10)巻の、おまけとして紫の部屋に繋がっていったら面白いかなと思って最後に付けたのが「ドリフターズ」アニメ化の最初ということになりますね。ただ、原作の担当編集である筆谷芳行さんともお話しして、本格的にアニメ化を進めていくのはコミックスが3巻分くらいたまってからにしようと考えていました(「HELLSING」第10巻発売時は「ドリフターズ」の原作は第2巻まで刊行)。本音を言えば、もっと作品の全体像が見えてからアニメ化したほうがいいのかもしれなかったけれども、最近は異世界系の作品がどんどん出てきているので、企画を寝かしすぎてもこの作品にとってよくないかなと思って。

──異世界系作品のブームはここ数年続いていますが、平野先生は「ドリフターズ」の大元となる原案はかなり以前から構想を練られていたそうですね。

上田 そうです。平野耕太的な面白さは他の作品とはバッティングするとは思っていないし、負けない自信はありましたけど、あれだけいっぱい出てくると「そろそろウチが本家だぜ!」と世の中にアピールするべきかなと思って(笑)。ですので、企画としてはTVアニメ12本分の原作がたまる前からスタートしています。鈴木監督が別の作品の現場に入っていたので、脚本打ち合わせやキャラクターデザインは先行して進めてもらいました。


──鈴木監督は「HELLSING」を第9巻から監督されていますが、その流れでしょうか?

鈴木健一監督(以下、鈴木) そうですね。10巻の監督もやらせて頂きますが、「ドリフターズ」もやらせてほしいと交渉しました(笑)。そのくらい、どうしてもやりたい作品だったんですよ。

──「HELLSING」を含め、鈴木監督はどんなところに平野先生の作品の魅力をお感じになりますか?

鈴木 僕は常に、ほかにはない作品をやりたいという思いがあります。今日び「ドリフターズ」のような強烈に濃い作品はありませんから、そこに魅力を感じています。あと、平野先生の独特な言い回しがやっぱりカッコいいんですよね。マンガを読んでいても、こういう風に映像化したいという妄想がふくららむので、ぜひやりたいという思いで読んでいました。

──全12話分の構成というのはどのように決めていきましたか?

上田 鈴木監督、シリーズ構成の倉田英之さん、脚本の黒田洋介さん、あと僕と筆谷さんとで決めていました。原作者にはひと言も相談していません(笑)。

──それは信頼関係あってのことでしょうか?

上田 平野先生の考え方として、「僕は一生懸命面白いマンガを描きます。アニメは皆さんが幸せになってくれればいいです。でも変なものだったら、いち視聴者として『クソつまんねぇ』と言います(笑)」という、ものすごく怖いスタンスなんですよ(笑)。ある意味で、侠気(おとこぎ)あふれる方ですね。
なので原作者チェックでそれまでのプランをひっくり返す、とかそんなことはないんですが、本当にお目にかなっているか? ソコソコ不安です(笑)。

鈴木 責任重大ですよね。会う度に「テキトーでいいですからー」っておっしゃるんですよ(笑)。

上田 先生的にはマンガはマンガ、映像は映像って思っておられるのか、専門家に任せるってスタンスだと思うですけどね。どうしても確認したい時は直接確認したり、筆谷さん経由で意見きいてもらったり……と映像に必要な情報を監督に伝えるのはプロデューサーの仕事ですので……っていっても、それもそんなに多くはありませんでしたけども。

──最近は原作者がアニメ制作に深くコミットして脚本を書くことすらありますので、これだけ原作に沿ったアニメですから平野先生も関わりが深いのかと思っていました。

上田 そんな暇があったらマンガの続きを描いてくれ、というのがアニメ製作サイドの総意だと思いますよ(笑)。

鈴木 それに「HELLSING」のスタッフだという信頼関係もあると思いますし。ただ「HELLSING」はOVAの作り方なので、それをTVシリーズとして展開していくにはどう作っていったらいいかと、キャラクターデザイン(+総作画監督)の中森良治さんとはお話をしましたね。


──それは主に作画にかける労力という面でしょうか?

上田 そうですね。全カットを総作監の中森さんの絵で見たいのはやまやまですが、そうするとOVAのように何か月かに1本という作り方になってしまいます。「ドリフターズ」では原作のテンポ感を生かしたアニメ化にしたかったんです。それに、より広いファン層を獲得している作品なので、クオリティのバランスを取ってでもTVシリーズでやるべきかなと考えました。そこで、企画当初から長めにタイムスケジュールを取ったり、早めにレイアウト作業に入ってもらいました。

鈴木 これだけ時間をいただいて作れるというのは非常にありがたかったです。

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