【犬も歩けばアニメに当たる。第25回】「ユーリ!!! on ICE」ミーハーにも深くも楽しめる!フィギュアスケートアニメ
心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。
10月から放送された「ユーリ!!! on ICE」が、12月で終了しました。初の「本格的フィギュアスケートアニメ」というふれこみでしたが、ふたを開けてみるとまず、コーチとなったヴィクトルと、選手である勇利の親密すぎる関係に、主に女性ファンの間で「キャー♪」と話題が盛りあがりました。
また、実際に観戦しているような感覚になるスケーティング描写、競技にかける熱い選手たちのドラマが、実際のフィギュアスケート選手を含む多くの人を惹きつけました。
まとめて一気見した筆者が、今から見ても十分楽しめる作品の魅力をご紹介します。
フィギュアスケートのスポ根もので、テーマは愛!
「ユーリ!!! on ICE」は、グランプリ戦を描いた本格フィギュアスケートアニメであり、スポ根ものであり、男性キャラ同士の距離がちょっと近すぎる(!)、「愛」がテーマのときめきいっぱいのアニメだ。
なんといっても、タイトルが「ユーリ!!! on 『愛す』」である(これはもう絶対かけていると思っている)。
「愛」という言葉には本当に広くて深いいろんな意味合いが含まれているから、「愛がテーマ」なんて旗印はめったに掲げられない。でも「ユーリ!!! on ICE」は、全12話という、テレビシリーズとしては短い構成の中で、綿密にやりたいことをやりきって、さわやかで素晴らしい余韻を残してくれた。
BL(Boys Love)に見える要素もあるが、それは一部で、ストーリーはコミカルかつ時々深いスポーツドラマなので、食わずぎらいをせず、これからでもぜひ幅広く男女問わず見てほしいと思う。
この作品には、いろんなかたちの、たくさんの「愛」があふれている。そのどれかが必ずヒットして、見る人の心を熱くするはずだ。
憧れのレジェンドが自分のコーチに!
視聴者の心をがっちりつかんだのが、主人公の「どこにでもいる日本のフィギュアスケート特別強化選手」勝生勇利(かつきゆうり)(23歳)と、そのコーチになったロシアの伝説的フィギュアスケート選手、ヴィクトル・ニキフォロフ(27歳)だ。
勇利はシニア5年目。初のグランプリファイナルで大敗して大学も卒業し、もう後がない状態でラストシーズンに挑もうとしている。
その勇利のコーチになったのが、ヴィクトル。世界選手権5連覇のリビングレジェンドの選手だ。そんな彼が、ふとしたことから勇利に興味を持って、日本の九州の温泉町・長谷津(はせつ)町までやってくる。
ジュニア時代から憧れていたヴィクトルがコーチをしてくれることになり、勇利はよろこび、必死にくらいついていく。また現役選手として人を驚かせることを常にモットーとしていたヴィクトルは、次の道が見えずにいたが、日本の温泉での暮らしとユーリを育てることに、新鮮さを覚え、指導に力を入れる。
このヴィクトルが、天才ならではの天然というのか、ロシア人だからなのか、いろいろおかしいというかおもしろい。非常に人懐っこいし、笑顔でぐいぐいくるし、勇利との挨拶は温泉で全裸だし、距離が近すぎるし、ボディタッチしすぎだし、こっぱずかしいことを平気でさらっと口にする。
いっぽうの勇利は、選手として自信がない未熟さ、放っとけなさがありつつ、崖っぷちの必死さから、思わぬ強さを見せたりもする。互いから刺激を受ける2人のやりとりや関係性の変化は、バディものに近い濃密さがある。
師弟愛、兄弟愛、恋愛、全部あり(!?)の唯一無二の関係
勇利とヴィクトルの関係は、コーチと選手という意味において「師弟愛」なのだが、わずか4歳違いということもあり、憧れ憧れられる先輩後輩選手として「兄弟愛」に近くもある。生活をともにする者同士の「家族愛」「友愛」ともいえ、時に過剰に思える好意とスキンシップは「恋愛」「性愛」とも紙一重だ。
ふたりの愛と信頼関係は総じて甘々で、ギャグもまじえてコミカルに描かれる。そのいっぽうで、勇利の選手としての立場の崖っぷちぶり、そしてヴィクトルがいつまで勇利のコーチでいてくれるのかという期限の問題が、スパイスとして効いてくる。相手を大切に思うからこそ、勇利もヴィクトルも思いは真剣だ。
ヴィクトル「世界選手権5連覇の俺が休んでまでコーチしたのに、今まで金メダルひとつ取れないってどういうこと?」(12話のセリフから)
こんなふうに責める言葉を、笑顔で耳元でささやかれたら、いろんな意味でドキッとせずにはいられない。
頼ったり支えたり、やさしくしたり厳しくしたり、笑ったり泣いたり怒ったりしながら、グランプリ優勝に挑んでいく2人の間には、唯一無二の関係が育っていく。
金髪の美少年は口の悪いロシアン・ヤンキー
さて、もうひとりのメインキャラクターが、シニアデビューに臨むロシアのフィギュアスケート選手、勇利と同じ名前を持つユーリ・プリセツキー(15歳)(通称、ユリオ)だ。
金髪の美少年で「ロシアの妖精」との異名を持つが、その実態はきわめてガラの悪い不良少年。同門の先輩で憧れていたヴィクトルが、勇利のコーチについたことで怒り、発奮し、大きな成長を遂げる。勇利もまた、ユーリの演技に触発され、奮い立たされる。2人はライバルであり、兄弟のようでもある。ユーリと勇利が仲良くケンカしているシーンは、たいていコミカルで楽しい。
ユーリのセリフで印象的なのが、こんなセリフだ。
ユーリ「俺は、この容姿でいられる時間が短いんだ。今利用できるものは全部つっこんで、絶対勝つ!」(4話のセリフから)
上を目指すユーリにとっては、自分の年齢も美貌も武器であり、いずれそれが失われることもわかっている。15歳にして、もう先のことを考えているところが厳しく、重い言葉だ。
有限の競技人生の中で、しのぎを削る厳しさ。同時に、その限られた時間と人生の中で、お互い出会い、影響を与えあい、競いあっていることの不思議さを、しみじみと感じる。
フィギュアスケーターとサポーターたちにも「愛」がある
このほかにも個性ゆたかな各国のフィギュアスケート選手たちが登場して、それぞれの愛と競技人生模様を見せてくれる。そのどれもが、どこか奇妙でおかしくて、ちょっと切ない。ひたむきな思いが、難易度の高い、あるいはきわめて美しいパフォーマンスに昇華されたとき、観客の心をつかみ、場を支配する力になる。
サポーターたちの愛も印象的だ。会場で、ベストの演技を祈って、垂れ幕を持って懸命に応援する観客。遠い日本の故郷の町では、家族やご近所の知り合いが集まって、ライブビューイングを見ながら声援を送ってくれている。
特に、5話までの前半の舞台となった勇利の故郷、九州の長谷津町がいい。さびれつつある架空の温泉町だが、幼い頃から勇利を知っている町の人がいて、結婚して今も応援してくれる幼なじみがいて、いつでも好きなだけ練習をさせてくれたリンクが近くにある。勇利を選手として育てあげてくれた環境が、実感をもって感じられる。
選手が結果が出せなかったり、悩んだり落ち込んだりしていても、応援してくれるサポーターは一喜一憂せず、ずっと信じて応援を続けてくれる。隣人愛や郷土愛も「愛」だなあ、と思う。
愛を胸に氷上で舞う! 感動の最終回
何よりもこの作品で印象的なのは、「フィギュアスケートへの愛」だ。
勇利、ユーリ、ヴィクトルをはじめ、選手たちすべてが、フィギュアスケートに心が痛くなるほど真摯に取り組んでいる。グランプリの舞台は、そういう人間でないとたどりつけない場所なのだ。
選手たちは、グランプリで金メダルを競い合うライバルであり敵だが、同時に、この唯一の価値を求める、誰よりもわかりあえる仲間でもある。だからこそ、国や立場の違う選手たちは、一度壁を乗り越えると「友愛」でつながることができるのだろう。
最終話のこんなセリフが印象的だった。
勇利「ひとりで抱えるには大きすぎる夢じゃなきゃ、たどり着けない場所がある。僕らは、愛と呼ぶ。氷の上のすべてを。」(12話セリフから)
「ユーリ!!! on ICE」は、コミカルな描写やファンサービスを惜しまないいっぽうで、競技シーンの映像がとても堅実だった。
現実に近いスピーディーな展開と、イメージや止めを使わないカメラワーク、そして選手の心情を切り取る表情やモノローグ。あたかも実際の競技をリアルタイムで観戦するかのような感覚を呼び起こすと同時に、選手のドラマと心情を、アニメでしかできない演出でくっきりと描き出した。実際の競技をテレビ観戦するかのように拳を握って応援し、キスクラで選手が見せる表情に感動し涙したという感想が、SNSにあふれた。
難易度を競いあい、美を競いあい、点数を競いあう。そんな不思議な競技「フィギュアスケート」のおもしろさと奥深さを、アニメで感じることができた。
最後になってしまったが、フィギュアスケートの動きの映像化が、本当に見事だった。あのすべるように舞う動きが、リアルにかっこよく美しく、そして気持ちよく描かれていなければ、笑いはあっても感動までは難しかっただろう。
1クール全12話というコンパクトな構成に、ありったけのお楽しみを詰め込んだ秀作。最後まで見たら、感動をもう一度味わい、見落としたあれこれを拾いに、また頭から見たくなる。
(文/やまゆー)
(C) はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
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