【アニメコラム】ときめき☆タイムトリップ第11回「バジリスク〜甲賀忍法帖〜」奇想天外な忍法勝負に恋愛ドラマ。時代劇アニメの傑作!

「今見ても、やっぱりいいわー!」
「なんでそんなに女性に受けたの?」
おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。

今回は、時代劇アニメの傑作「バジリスク〜甲賀忍法帖〜」(2005年)を取り上げます。

池波正太郎の人気時代小説をアニメ化したアニメ「鬼平」が、誕生50周年を記念して放送中。時代劇アニメの魅力に開眼する人が増えています。

数百年前の私たちの国に、こんなヒーローがいたとしたら。歴史の裏にこんな事件があったなら。時代劇の魅力は、現代のこの世界と地続きのファンタジーであるところです。

「バジリスク〜甲賀忍法帖〜」で山田風太郎作品の魅力に目覚めた筆者が、女性も引きつけるその楽しみをご紹介します。


徳川三代目の跡目をかけた、忍び20名の忍法勝負


「バジリスク〜甲賀忍法帖〜」は、誰もが知る歴史の裏のエピソードとして幕を開けます。

おなじみ、天下を統一した徳川家康は、二代将軍秀忠の息子である兄弟どちらを後継者とするか悩んだ結果、代理勝負として、甲賀一族vs伊賀一族の忍法争いに決断をまかせることにしました。

もともと、甲賀卍谷の一族と伊賀鍔隠れの一族は、ともに服部半蔵に従う忍びでありながら、数百年にわたる不倶戴天の仇敵同士。命令が下り、不戦の約定が解かれたことをきっかけに、双方10名ずつ、計20名の忍びが、人知を超えた忍術の限りを尽くして殺し合うことになります。

甲賀の頭領の孫である甲賀弦之介(こうがげんのすけ)と、伊賀の頭領の孫である朧(おぼろ)は、祝言間近の恋仲だったのですが、この降ってわいた運命に引き裂かれることとなります。

互いを狙い、あざむき、つぶしあっていく甲賀卍谷衆と伊賀鍔隠れ衆。最後に生き残り、勝者となるのはどちらなのか……?


異人・超人たちが活躍する問答無用の活劇エンターテインメント!


彼らが使う忍法が、ぶっとんでいます。手足が伸びるゴム人間、長い髪の毛を自在に操る者、顔を自在に変えて他人に化ける者、姿が見えなくなる者、何度死んでも生き返る者……。彼らの能力を数えあげるだけで、週刊少年ジャンプの看板作品を2つ3つ足して割らないほどの濃さを感じます。

集団戦としての彼らのバトルがまたおもしろい。1人ひとりがどんな能力を持っているのか、戦うまで明かされないうえ、タイミングと組み合わせの妙味が勝負に加わります。

まずは不意打ち上等、先手必勝。先にしかけたほうが断然有利です。そして異能vs異能となると、能力の相性がものをいいます。10人中9人に勝てる能力も、相性の悪い1人とぶつかったために敗北するということもありえます。

さらに、シチュエーションによって1人対数人になる場合もあります。そこにからむ策略、陰謀、だまし討ち、仲間割れ。非常にテンポよく、意外性に満ちた展開が続いて、息つくヒマを与えません。

バジリスクとは、ヨーロッパにおける想像上の蛇のような動物で、猛毒を持ち、見た相手を殺すと考えられていたそうです。本作では、弦之介と朧がそれぞれ、見ることで効力を発揮する無敵の「瞳術」を持っています。そこにこの動物の名前をかけてタイトルとしたのでしょう。



絶望と哀しみが支配する世界観が鮮烈!


言ってしまえばこの話は、登場人物がひたすら戦って数を減らしていく物語です。世界観と雰囲気が一発でわかる、各話の冒頭に入るアバンタイトルが鮮烈です。「愛する者よ 死に候え(そうらえ)」。

そして、炎とともに浮かび上がる「人別帳」。巻物に、甲賀伊賀双方の代表として指名された20名の名が記されています。そして、倒された者の名前が、血で塗りつぶされていくのです。話を追うごとに、消される名前が増えていきます。

見ごたえのある異能バトルと同時に、この作品の最大の魅力は、このやるせない悲劇性にあります。結末がどうであれ、見届けずにはすまないパワーがあり、有無を言わせず持っていかれます。



美男美女の悲恋、そして片想いに切なくじれる


この作品に女性ファンも心つかまれるのは、恋愛ドラマとしても多様な楽しみ方ができるから、というところが大きいと思います。

筆頭は、弦之介と朧の悲恋です。殺伐とした世界の中で、2人の想いは純粋で、哀しいくらいやさしくて美しい。ちなみに2人はまだ清い仲です。手をつないで一緒に歩いて、恥じらう姿が初々しい。

朧は天然のドジっ娘で、弦之介は、ありえないくらいさわやかなイケメン。互いに一途に相手を想い、2つの里が融和する平和を心から願っています。延々と戦いが続くこの物語の清涼剤ですが、その分、戦いたくないと悩み苦しむ姿が痛々しく切なく描かれました。

この主役カップルに、それぞれ片想いする相手も里の仲間にいます。朧を姉のように思っているのは、ともに育った幼ななじみの筑摩小四郎(ちくまこしろう)。朧が慕う弦之介に反感を抱き、自分が仕える薬師寺天膳(やくしじてんぜん)の暴走を前に悩みます。純朴でかわいい弟タイプです。

弦之介を慕っているのは、同じ甲賀卍谷衆の陽炎(かげろう)。男を愛すときに吐息が毒となる体質ゆえに、弦之介と結ばれることができません。好きな相手の一番近くにいるのに、キスもできない。朧を憎むライバル役ですが、女心が切なく、憎めません。


魅力的な女性キャラ、描かれる愛のかたち


ほかにもカップルがいます。伊賀鍔隠れ衆の美少年・美少女カップル、夜叉丸(やしゃまる)と蛍火(ほたるび)です。蛍火は恋人を思う乙女心と、敵に対する苛烈さのギャップがなかなか怖い。今で言うと、好きすぎて病んでしまうヤンデレといえるのかもしれません。

ほっこりするのが、甲賀卍谷衆の兄妹、如月左衛門(きさらぎさえもん)とお胡夷(こい)です。お胡夷はオープニングで胸を揺らしていて、お色気担当かと思いきや、実はお兄ちゃん大好きな無邪気でかわいい妹です。左衛門も、任務のために敵地におもむく妹の身を案じます。2人の兄妹愛はなごみ度が高く、それゆえに、別れのエピソードはひときわ泣ける話になっています。

しっかりものの姐さんキャラといえば、伊賀鍔隠れ衆の朱絹(あけぎぬ)。朧の世話係で、仲間思いで情に厚く、冷静で戦いでは頼りになります。「忍法のためならもろ肌脱ぎます。それが何か?」という潔さに大人の余裕あり。傷ついた小四郎(たぶん年下)に想いを寄せるところには、かわいさもあります。たぶんこの作品で一番いい女じゃないでしょうか。

女性キャラがとても立っていて、それぞれに異なり魅力的。さまざまな「愛のかたち」が楽しめるのが大きな魅力です。


オヤジたちが濃ゆい、しびれる、萌える!


もちろん男性キャラも魅力たっぷりです。

イケメン・美少年枠では、上で紹介した甲賀弦之介に、夜叉丸、筑摩小四郎。

冷静沈着な頭脳派の参謀枠では、甲賀卍谷衆の盲目の達人・室賀豹馬(むろがひょうま)に、温厚な策略家・如月左衛門がポイント高いでしょう。

伊賀鍔隠れ衆の頭脳派は、薬師寺天膳。勝利のために手段を選ばず、主筋の朧を手篭めにしようとするなど、参謀というよりは影の頭領、ラスボスの存在感です。スケベで女の敵で、本当に悪辣(あくらつ)なやつ! でも油断しがちでよく倒されるところが、かわいいというかおもしろいですね。

さらにいうと、この作品の男性キャラの魅力の真髄は、「こやつ、本当に人間か!?」という、濃いオヤジどもにあります。人間離れしすぎていて、愛嬌がある。

手足が伸びるジジイ、小豆蝋斉(あずきろうさい)。
体毛が濃すぎる、蓑念鬼(みのねんき)。
ナメクジのような体質の、雨夜陣五郎(あまよじんごろう)。
忍法のために裸族で過ごす、霞刑部(かすみぎょうぶ)。

こうした「なんじゃそりゃー!」なイロモノのオヤジたちが、だんだんかわいく見えてくるのが、不思議なところです。特に、ナメクジ男の雨夜陣五郎は、情けなかったり愉快だったりで、どんどんキモカワイくなっていくのが、放送当時も話題になりました。


小説からコミックに、そしてアニメへ。渡されたバトン、つながる楽しみ


原作は、1958(昭和33)年から翌年にかけて連載された、山田風太郎の傑作時代小説「甲賀忍法帖」。この作品をきっかけに、怒涛の「忍法帖」ブームが巻き起こったという代物です。これを、2003〜2004年にかけて、漫画家のせがわまさきがコミック化。2005年に、GONZOによりアニメ化されました(その後パチンコ・パチスロ化もされて、さらにファンを増やしました)。

本作は、異能力バトルをさんざん見慣れた今のアニメファンが見ても、新鮮でパワフルに感じるアニメではないでしょうか。異能の忍法勝負を、ケレン味にあふれ、見ごたえのあるアクションとして描き出した作画のクオリティは、非常にすぐれたものです。

登場人物に切なく感情移入させるしっとりとした演出も、完成度が高い。これがあってこそ、約半世紀前に小説として生まれた作品のよさが、いきいきと今によみがえるのです。「古い作品は大しておもしろくないのでは?」という思い込みがくつがえされます。

山田風太郎の「忍法帖」シリーズはその後、せがわまさきにより「柳生忍法帖」→「Y十M(ワイじゅうエム)〜柳生忍法帖〜」、「魔界転生」→「十〜忍法魔界転生〜」とコミック化が続いています。両シリーズの主人公、隻眼の剣豪・柳生十兵衛は、かつて時代劇で大人気のキャラクターであり、男も女も惚れるいい男。こちらもアニメで見てみたいものですね。



(文/やまゆー)

バジリスク ~甲賀忍法帖~ [Blu-ray]

(C) 山田風太郎・せがわまさき・講談社/GONZO

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