ユナは重要なキャラクターでした。──梶浦由記が語る、『劇場版 ソードアート・オンライン –オーディナル・スケール-』の音楽

2017年2月18日(土)から全国公開が始まった『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』。そのオリジナルサウンドトラックアルバムが、時を同じくしてリリースされた。音楽を手がけたのは、『ソードアート・オンライン』シリーズには欠かすことのできない作曲家・梶浦由記。劇場版の音楽は、いかに作られていったのか?


ユナのボーカル曲から作り始めました


──今回の劇場版の音楽制作には、どのように入っていったのでしょうか?

梶浦 最初に、アニメの制作陣の方々と打ち合わせをさせていただいたのは、ユナのボーカル曲についてでした。全部で5曲あるんですけど、その中で私は、よりストーリーに絡んでくる3曲を担当させていただくことになりました。

──劇場版には、新たなゲーム《オーディナル・スケール》が登場します。そのゲーム内に存在するARアイドルがユナ。ストーリーの鍵を握る新キャラクターですね。

梶浦 シナリオ、絵コンテと、アニメの制作作業が進むごとに資料を送っていただいていたのですが、絵コンテ段階で、ユナの歌が、どれだけ作品に大きく関わるかが実感できました。ユナというキャラクターに対する印象が、大きく変わりましたね。

──そこから具体的に、曲を作っていったわけですね。

梶浦 そうですね。曲作りを始めた頃は、まだ神田沙也加さんがユナを演じることが決まってなくて。私は歌い手さんに合わせて曲を書くタイプなので、どうしようかなと、最初はけっこう悩んでしまったんです。その後、神田さんになったというお知らせを受けて、彼女のいろいろな曲を聴かせていただいて。それまでに作った曲に修正を加えて、完成させていきました。

──神田沙也加さんのボーカリストとしての印象はいかがでしたか?

梶浦 まず感じたのは、声の美しさです。ミュージカルのご経験もあって、歌に対する勘もすばらしくて。レコーディングの時も、打てば響くという感じで、こちらの意図をすぐに理解してくださいました。とてもスムーズで、楽しいレコーディングになりました。

──梶浦さんが作曲された、ユナのボーカル曲とはどれでしょうか?

梶浦 「longing」、「delete」、「smile for you」です。

──それぞれ、解説をお願いできますか?

梶浦 「longing」と「delete」は、完全にバトル曲です。バトルが始まるという時に、ユナがプレイヤーの前に現れて、歌い始める。そのための楽曲ですね。「longing」は、最初にゲームに接する時のワクワク感をまずは表現した曲で、バトルがどんどんハードになっていくのに合わせて、曲の印象も途中から変わっていきます。

──「delete」は、重い印象のある曲でした。

梶浦 これは、シリアスなシーンでかかる曲ですね。ユナの曲ではありますが、テーマとしては、《ソードアート・オンライン》が持つダークな一面を取りあげました。

──それは、どんなことでしょうか?

梶浦 TVシリーズを見ていた時に思ったんですけど、あのゲームの中で消えていった人たちの虚しさ、やるせなさって、想像するとすごくツライものがあるなと。私たちが普段やっているゲームでは、けっこう「ながらバトル」をやっていると思うんです。何かを食べながらとか、誰かとしゃべりながらとか。それでも弱い敵だったらボタンの連打で倒せるし、強い敵と戦って、もし死んでしまっても、簡単にやり直せるじゃないですか。でも、《ソードアート・オンライン》では、ゲームオーバーが「死」なんですよね。「私、こんなことで死んでいくの?」って、自分だったら絶対にそう思っただろうし、そういうふうに死んでいった人が、あのゲームにはあまりにも多くいて。ゲームで死んでいった人たち、もしくは親しい人をゲームによって失ってしまった人たちの怨嗟(えんさ)を、曲として表現してみようと思いました。

──逆に、「smile for you」は温かさを感じる曲です。

梶浦 この曲と「delete」は対照的ですね。実は「smile for you」は、出だしのメロディと歌詞を、「delete」と同じにしていて、こちらは明るい方向に向かっていく。「delete」と対をなすということを、意識的にやった曲です。

──この3曲は、ユナのアイドル曲(「Ubiquitous dB」、「Break Beat Bark!」)とは、雰囲気がかなり違いますね。

梶浦 それはボーカル曲でありながら、BGMとしての働きをしている曲だからです。私が作った曲をユナが歌うシーンというのは、ユナが映るのは歌い出しの部分だけで、あとはバトルに焦点が移っていくんですよね。ですから曲も、間奏がもろにバトルのBGM風だったり、あえて造語コーラスを入れたりして、サウンドトラック的な作りをしました。実は、劇場でかかっているのとCDとでは、ボーカルのミックスも違っているんです。

──どう変えたのでしょうか?

梶浦 元々劇場でかかっている方は5.1サラウンドミックスなんですが、ユナの歌に関してはCDに収録するにあたってステレオミックスをやり直しました。ボーカルのバランスも劇場版ではセリフと当たらないよう小さめですが、ステレオミックスでは普通の歌物のボリュームです。せっかく神田さんにかっこよく歌っていただいたので、それを聴いていただきたいなということで。

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