【アニメコラム】ときめき☆タイムトリップ第12回「黒子のバスケ」イロモノに見えて王道!ファンに愛された幸せな作品

「今見ても、やっぱりいいわー!」
「なんでそんなに女性に受けたの?」
おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。

今回は、2017年3月18日から新作劇場版の公開が始まった「黒子のバスケ」(2012年)を取り上げます。

かつて帝光中学校に揃った5人の天才プレイヤー「キセキの世代」。そのチームには、幻のシックスメンとして活躍した「影」が存在しました。しかし「キセキの世代」はその後バラバラになり、別々の高校に進学。かつての彼らに一体何があったのか? 誠凛高校のバスケ部に入った黒子(くろこ)テツヤは、かつてのチームメイトがいるチームと対戦していくことになります。

アニメ化で大きなブームを巻き起こした本作の魅力を、続編新作劇場版の公開を機に、振り返ります。


アニメでブレイク! 萌えの連鎖が加速した


アニメスタート前の「黒子のバスケ」は、週刊少年ジャンプでも地味な作品という印象がありました。

第1期の放送がスタートしたのが、2012年4月。同じタイミングで、同誌連載の「めだかボックス」のアニメもスタートしており、2011年10月発売の週刊少年ジャンプ43号では、2作品が表紙を飾っています。しかし、「めだかボックス」はキー局、「黒子のバスケ」は地方局で放送ということもあり、最初の注目度は決して高くありませんでした。

そもそもアニメ化のタイミングは、遅いほうだったといえます。第1期アニメスタート時の2012年4月に発売されているのは、ウインターカップ2回戦のコミック17巻。作者の藤巻忠俊も、コミックの見返しで、「アニメ化が決まってから始まるまでが長かった」といったコメントをしています。

しかしその分、アニメ化は満を持して、作品の個性を十二分に生かし、さらに魅力を上乗せするかたちで行われました。

キャラクターデザインは、「純情ロマンチカ」「世界一初恋」などのキャラクターデザインを担当した菊地洋子。すっきりとした線で、端正な男性を描くアニメーターです。

キャラクターの声を演じるキャストには、「テニスの王子様」「うたの☆プリンスさまっ♪」など、女性に人気の作品でもおなじみの、人気声優が勢ぞろいしました。

こうした華、艶、スマートさが加わって、アニメは初見の人にも女性ファンにもとっつきやすいものになりました。

スター的なキセキの世代メンバーだけでなく、その他のレギュラーキャラクターの魅力も、アニメでは増幅されています。声がつくことで、個性が際立ち、やりとりにもおもしろみが増す。キセキの世代とは対照的な主人公の誠凛高校チームの、わきあいあいとしたムードも、アニメで生き生きと伝わりました。

きめ細かく、女子ファンの心をくすぐる工夫もふんだんに入っています。黒子にそっくりでかわいい犬の「テツヤ2号」は、原作どおりなら第2期に登場するのですが、より早く、第1期で登場しています。第2期1クールEDでは、週替わりの差し替えカットでいろんな相手と出会い、大活躍しました。

また、おまけのエンドカードイラストでは、ちょっと意味深な日常や過去回想、意外な組み合わせが週替わりで登場し、キャラ同士の関係性への期待を高めたものです。

オープニング主題歌をGRANRODEO、エンディング主題歌をOLDCODEX、小野賢章と、ゆかりのキャストがらみの人気アーティストが主題歌の多くを歌っているのも、ファンにはうれしいポイントでした。

さまざまに振りまかれるお楽しみに、pixiv、TwitterなどのSNSでファンが反応。どこから入ってもどんなふうにでも楽しめる作品の懐の広さに、萌えの連鎖が加速度的に広がっていきました。

バスケットボール選手の多くは背が高いものですが、アニメや版権イラストでは、キャラクターたちの身長差を正確に再現しているのも萌えポイントのひとつです。キセキの世代で一番巨大な紫原敦(むらさきばらあつし)が208cm、バスケ選手としては小柄な黒子が168cm。40cmの身長差が生む視界のギャップも、アニメではさらに強調されて感じました。



わかりやすさ×王道×想像をかきたてる関係性描写


主人公の黒子は、「存在感のなさが強み」という、異色のスポーツ選手です。これは、本人の影が薄いだけでなく、強みを生かす戦略スタイルを磨いた結果、身につけた技術ゆえ。スポーツものならではの設定です。

黒子が「影」なのに対して、火神大我(かがみたいが)は「光」。「君は光」で「僕は影」といったら、昔なら「ベルサイユのばら」ですが、今はすっかり「黒子のバスケ」になりましたね。

キセキの世代は名前に色が入っていて、見た目も色違い、髪の色も名前のとおり。まるで特撮ヒーローです。わかりやすいこと、この上ない。そしてそれぞれに、「〜っス」「〜なのだよ」「ヒネリつぶすよ」といった口癖があり、一度聞いたら忘れません。

極めつけが、キセキの世代の最後に登場した赤司征十郎(あかしせいじゅうろう)です。オッドアイのルックスに、突然ハサミを突き出すヤバさ。「この世は勝利がすべてだ」「すべてに勝つ僕はすべて正しい」「僕に逆らう奴は親でも許さない(アニメ版)」「頭(ず)が高い」といった中二病的全能感あふれるセリフで、見る人の心をわしづかみにしました。

こう数え上げていくとイロモノに見えますが、同時にこの作品は、「努力・友情・勝利」の、正しく週刊少年ジャンプ的な、王道のスポーツものです。

誠凛高校の火神大我は、普通の少年漫画なら主人公でもおかしくないキャラクターです。アメリカ帰りの帰国子女で、バスケに対してハングリー。勝負に熱く情に厚く、野生のカンを持つ発達途上の天才。黒子という「影」を得て、成長を重ねながら、キセキの世代のメンバーたちと対戦していきます。

味方もライバルも、ピンチと努力でそれぞれの必殺技が進化していくところは、正しく「キャプテン翼」などの後継作品といえます。バスケということで「SLAM DUNK」と比べられることも多い本作ですが、魔球や必殺技はスポーツアニメの華。「リアルかどうか」で比べることは無意味です。

もともと原作の持ち味は、一見地味にも見える、親しみやすくてちょっと抜けたところのあるキャラクターや、メインストーリーの合間のコミカルでゆたかな日常描写にあります。各話の間にはさまれるNG集や、読者の質問に答える設定Q&Aも、細かくおもしろい。キャラクターたちの多くは誠実でボケが多く、あたたかみがあります。表舞台に出てこない裏側やすきまを、つい想像してみたくなる連中です。

アニメはその原作のネタと持ち味を、ていねいに拾って広げてみせることで、ファンの心をつかんだといえるでしょう。

主人公チームから各ライバルチームまで、スター的なメインキャラはもちろんのこと、おとなしく見えるサブキャラ、ちょっとしか出番のないゲストキャラまで。細かくデータを揃えたうえで、想像の余地を残した人間関係は、どこをとってもおいしくて楽しい遊園地のようです。人気アトラクションはもちろんおもしろいし、それほど混んでいないアトラクションがまた、なかなか味がある。

入りやすくて奥深いこの作品を、さまざまなやり方で、第3部までの長い時間をかけて、ファンは楽しむことができました。



約束された未来へ収束していくストーリー


キャラクター人気ばかりに目がいきがちですが、ストーリーが強く、ぶれないところは、この作品の大きな魅力です。また、コミック30巻分を第3期までの75話で描き切ったアニメは、不必要に引き延ばす必要がなく、アニメの展開自体もテンポのいいものになりました。

物語がスタートした時点で、この作品は、中学時代にひとつのチームで活躍した「キセキの世代」と呼ばれる5人の天才と黒子の6人が、一度バラバラになった今、再び出会う話であることが示されます。

そして、黄瀬涼太(きせりょうた)や緑間真太郎(みどりましんたろう)との出会いにより、今後は対戦とある種の癒し、新たな関係性の構築が描かれていくこともわかります。

世界観の安定性は、大切です。ある程度方向性が示された展開の中で、それぞれの登場人物やチームの日常描写が重ねられていくことで、ストーリーの緊張感と、想像の余地のあるゆたかな世界観が両立する。これによって、ファンは安心して物語世界を楽しみながら、常に先を期待してわくわくすることができるというわけです。

黒子にとってバスケで戦うことは、自分が選んだバスケのありようや、勝ち方の正しさを証明する、いわば生き方を問うための戦いでもありました。

あたかも、夕日の河原で殴り合って互いを理解する不良少年のように、黒子とキセキの世代の仲間たちは、コートの上で全力で試合をして、すべてをぶつけあって和解していきます。



そして劇場版へ。ドリームチーム結成!


2017年3月17日から公開された劇場版「黒子のバスケ LAST GAME」は、すべてを乗り越えたキセキの世代と黒子、火神がひとつになる、ドリームチームの対戦を描きます。いわば、本編終了後のおまつりであり、ファンへのプレゼントです。

アニメ化でブレイクし、ファンに愛され、人気を保ったままラストを迎える。終わったあともいい記憶とともに、いつまでも生き続ける。幸せな作品というものはあるもので、「黒子のバスケ」はまさにそれだといえるでしょう。

アニメ化で人気に火がついたあと、2012年10月から2013年12月にかけて、本作の関係先に対する脅迫事件が発生しました。ファンは、好きな作品が盛り上がっているのに、イベントで取り扱われない、グッズが買えない、同人誌などの活動もできないという不安な時期を過ごしました。おもしろい作品をみんなで楽しめることは、時として当たり前でなくなると、気づかされた事件でした。

それもあり、原作、そしてアニメが大団円を迎えたときには、感慨があったものです。

劇場版では、本編終了後に連載された続編に、本編終了後に連載された続編を劇場化するにあたっては、さらに原作者による新エピソードも追加されているとのこと。シリーズを締めくくる、タイトルどおりの最後の試合を、ぜひスクリーンで楽しみたいと思っています。


(文/やまゆー)



(C) 藤巻忠俊/集英社・黒子のバスケ製作委員会
(C) 藤巻忠俊/集英社・劇場版「黒子のバスケ」製作委員会

おすすめ記事