作曲家・松尾早人 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第11回)

アニメ・ゲーム業界のクリエイターに貴重なお話をうかがう本連載。第11回は作曲家の松尾早人さん。アニメや特撮好きの人なら「魔法騎士レイアース」、「怪盗セイント・テール」、「黄金勇者ゴルドラン」、「仮面ライダー555」、「強殖装甲ガイバー」、「ジョジョの奇妙な冒険」(Part1)などで、松尾さんの音楽を一度は耳にしたことがあるはずだ。最近では、一風変わったスポ根アニメ「競女!!!!!!!!」の音楽を担当されたことで話題となった。当インタビューでは影響を受けた作品、経歴、仕事に対するこだわり、アニメ・ゲームの作曲家に求められる資質能力、今後の目標などについて詳しく語っていただいた。



「宇宙戦艦ヤマト」でアニメ劇伴に興味


─本日はお忙しいところ、まことにありがとうございます。早速ですが、松尾さんが影響を受けた作品を教えていただけますか?


松尾早人(以下、松尾)小学校1年の時にELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)にハマりまして、その辺りが音楽の原点になります。ELPやリック・ウェイクマンといったプログレ(プログレッシブ・ロック)と同じくらい好きだったのが、エウミール・デオダート、今で言うフュージョンですね。ELPとデオダートは、まさにテープが切れるまで聴きまくっていました。


その後、分岐点と言いますか、大きな影響を受けたのは「宇宙戦艦ヤマト」(1974~75)です。当時、本がすごく好きで、その中でも特に太平洋戦記ものとSFものが好きだったので、「宇宙戦艦ヤマト」が始まると聞いた時には、「自分のためのアニメだ!」と思い、ハマりました(笑)。宮川泰先生の音楽も浴びるように聴きまして、この時に劇伴、背景音楽のおもしろさというのを実感した記憶がありますね。


両親の影響で海外映画もよく観ていました。フランス映画ではミシェル・ルグラン、イタリア映画ではニーノ・ロータといった作曲家がものすごく好きで、アメリカ映画では「パピヨン」の作曲家ジェリー・ゴールドスミスが大好きでした。昔のゴールドスミスはああいったメロディックで、大変美しいものをたくさん書かれていました。



─東京芸術大学ご入学前から、西村朗教授に師事しておられたそうですね。


松尾 芸大の場合は、入るために芸大の先生につくというのがありまして、西村先生や野田暉行先生に見ていただいきました。西村先生は現代音楽で大変有名な方でいらっしゃって、芸大に入ってからは主に現代音楽を学んでいました。ただ、私はあまり曲を書いていかない学生でしたので、西村先生には大変なご苦労をおかけしたと思います。


─その時の東京芸大には、「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」(2009~10)や「バッテリー」(2016)の劇伴でも有名な、千住明さんもいらしたようですね。


松尾 千住さんは当時、作曲科の作曲教官室で助手をされていたんです。私は千住さんの次に助手をやることになっていて、卒業前の引継ぎの時にお会いしたのが最初になります。


─1990~91年には、インストゥルメンタル・バンド「G-クレフ」でもご活躍されています。


松尾 これはメンバーが芸大の同級生だったというのがありまして、ピアノの榊原大さん、私は大ちゃんと呼んでいるんですけども、大ちゃんがケガをして手が使えなくなってしまったことがあり、「悪いけどちょっと弾いてくんない?ついでに曲も書いてくんない?」といった軽いノリでお手伝いしました。ですので、非常に一時的で限定的なものになります。


その時に「何でもいいよ」と言われたので、ちょっとプログレ調の「アンブレラ・ロマンス」を書きました。学生の時はスタジオに入ったりしませんでしたので、いろいろと勉強になりましたね。


─目標とされる方はいらっしゃいますか?


松尾 あんまり考えたことはないのですが、やはり曲を聴いてすごいなと思うのは、ハリウッド系のサントラを書かれているジェリー・ゴールドスミスとか、ジェームズ・ニュートン・ハワードとか、マルコ・ベルトラミとか、そういった方々の曲は好きで、参考にもさせてもらっていますし、目標にもしていますね。


─普段はどういった音楽を聞かれるのでしょうか?


松尾 気になる作曲家のサントラが出た時には必ず聴いています。アニメ音楽は番組で観て、その場で聴くというのが多いです。ゲームは大好きなので、実際にプレイしながら聴いています。ゲームはプレイを止めて、じっくり聴けるのもいいですね。最近ですと、「DOOM」の音楽は素晴らしかったです。



オーケストラの比重が大きいが、何でも書ける


─得意なジャンルや作風を教えていただけますか?


松尾 オーケストラでも、リズムものでも、どちらも書きますし好きなんですけど、どちらかと言えばオケのほうが、少し比重が大きいかなと思います。個人的に重厚で暗くて悲しい、救いのない曲が好きなんです。ギターメインの曲に関しても、メタル調で少し重かったりとか、どうしてもそういう曲が増える傾向がありますね。


逆に、もともと明るいのはあまり得意ではなくて、「魔法騎士レイアース」(1994~95)の劇伴で初めて明るい曲を書いて、「もっと書かなきゃいけないな」と思うようになりました(笑)。今は全然問題ないですけど。


─「伝説のオウガバトル」の「Dark Matter」と「Accretion Disk」は、まさに松尾さんの強みが生かされた楽曲ですね。


松尾 フィールドや戦闘のシーンをイメージして書きました。あのゲームに関しては、20年来の友人である崎元仁くんから「数曲書いてよ」と言われ、書かせてもらいました。今の彼はベイシスケイプという会社の代表をされていますが、現在も親交があります。


─得意とされる楽器は?


松尾 基本、鍵盤楽器ですね。別にピアノが得意ってわけじゃないですけども(笑)、できるのは鍵盤楽器になります。ギターとかそういったものも好きなんですが、やはり根が鍵盤楽器なのでフレット楽器がどうもなじめなくて、うまく弾けないというのがありますね。ベースも好きで持ってはいるんですが、人前で弾けるようなものではないですね。


─フレット楽器の楽曲はどのように作っておられるのですか


松尾 譜面を書いて誰かに弾いてもらったりだとか、最近はソフトウェアが進化しているので、打ち込みで再現したりしています。


─監督やプロデューサーとはどういったやりとりを?


松尾 発注の際、最初にメニューというものをいただきます。その中でメインテーマにあたるものを先に書き、それを監督に聞いていただいて、「これで行きたいんですけど、どうですか?」と意思の疎通を図り、カラーを統一していくという形が多いですね。

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