世界を股にかけたレコーディング。横山克に聞く、「鉄血のオルフェンズ」サウンドトラックのすべて

第1期、第2期合わせて全50話。主人公・三日月・オーガスら鉄華団の戦いと成長を描いた『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』が、ついに完結する。それに合わせて、「Original Sound Track II」が発売。2枚組全55曲収録(うち4曲は、OP&EDのTV size)という聴き応えのあるものになった。音楽を担当したのは、横山克。今までに手がけたTVアニメで、もっとも曲数が多い作品になったという。そして、参加ミュージシャンは世界各国にわたることに。制作秘話をうかがった。


長井監督から最初に与えられたイメージは、マリアッチでした


──『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のサウンドトラックは、第1期も第2期もCD2枚組というボリュームです。曲数がとても多いですね。

横山 僕が手がけたTVアニメとしては、一番多くなったと思います。最初に来た発注は第1期分で、2クールのTVアニメとして一般的な量だったと思いますが、大河ドラマ的な展開ということもあって、作品の進行により、どんどん曲が追加されていきました。

──そもそも、「ガンダム」の依頼を受けて、どう感じましたか?

横山 まさか、とびっくりしました(笑)。しかも長井龍雪さんと岡田麿里さんの作品じゃないですか。「あの花」はもちろん見ていましたので。このコンビで、さらに音響は様々な作品でご一緒してきた明田川仁さんで、「ガンダム」をやるのかと思うと、すごく不思議な感覚になりました。ちなみに、僕は「SDガンダム」世代でした。

──長井監督と岡田さんのコンビに、明田川さんの音響監督、そして、横山さんの音楽というと、2015年9月公開の映画『心が叫びたがってるんだ。』がありますよね?

横山 これは本当に偶然だったので、びっくりしました。

──長井監督や、明田川さんとは、最初にどのような話し合いをされたのでしょうか?

横山 長井さんから最初に伝えられたのは、映画「デスペラード」のような世界観があるとの事でした。砂漠の町の世界観ということで、マリアッチ(メキシコ音楽)のイメージがあると。長井さんのやり方は、監督として、音楽の核となるアイデアを出して、そこから先は(明田川)仁さんと僕のやり取りに任せるという形なんです。仁さんを信頼して、具体的にどんな音楽を作って、どうシーンに当てるかというのは、一任されていたように思います。このお2人もまた、いいコンビなんです。

──横山さんとしては、明田川さんから音楽メニューが来て、それを元に作曲をしていくという?

横山 そうですね。僕の作業としては、マリアッチという要素をどうやって構成しようかなというところから始めました。マリアッチにはギターが重要なんですが、それに加えてギタロンという楽器が入ってくるんです。アコースティックギターを大きくして音を下げた、ベースギターのような役割をする楽器で、「オルフェンズ」のためにギタリストに買ってもらおうと思ったんですけど、 断られちゃったんですね(笑)。ただ、ベースの人が弾いたほうがいいよ、というアドバイスを頂きました。結局、ウッドベースをナイロン弦に張り替えてもらって代用するという、チャレンジングなことをやりました。もう1つ、長井さんが最初に言っていたのは、オーケストラは使いたくないということでした。「オルフェンズ」はガンダムシリーズではあるけれど、ビームが出てきたり、荘厳な戦いがあるというわけではなく、ただ殴り合うだけなので、今までのガンダムの音楽にあったような、格式高いイメージはいらないということでした。


──しかし、結果的に、「オルフェンズ」の音楽には、オーケストラが使われていますよね?

横山 ガンダムには、やはりオーケストラは必要だろうと思ったんです。あれだけ大きなロボットが戦い合う映像の音楽に、オーケストラを使わなかったら、スケール感が足りなくなるだろうと。それに個人的な思いとして、海外でレコーディングしたいというのがあったんです。そこで、オーケストラを使うか使わないかよりも、格式高い音楽にしたくないというのが長井さんの希望だと、僕なりに解釈して、マリアッチとオーケストラを融合させた荒々しい音を作ろうと考えました。でも、それだけでは「オルフェンズ」の音楽を作るピースが足りなくて、さらにストンプを加えようと思いました。

──ストンプとは、なんでしょうか?

横山 デッキブラシやゴミバケツを楽器として使うパフォーマンスです。鉄華団は、その辺にあるものをうまく使って生活していそうなので、ストンプが合うなと思ったんです。そこで、ホームセンターにデッキブラシとゴミ箱を買いに行って、それをサンプリングするということもやってみました。マリアッチ、オーケストラ、ストンプの要素をうまく融合させたのが、第1期の音楽ですね。行儀のいい音楽にはしないということを、強く意識して作っていきました。

──まずは、どんな音楽の要素を取り入れるかを考えて、実際の制作作業に入っていったんですね?

横山 いろいろなジャンルの音楽の中から、作品にあったものを集めてアイデアを詰めていくということに、僕は時間をかけるんです。それが決まれば、実際の作曲作業は早いですね。集中して、一気に書き上げるタイプだと思います。

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