「ゼーガペイン」のノベライズなのにロボが出ない理由とは? 矢立文庫「エンタングル:ガール 」完結記念インタビュー【前編】
アニメーション制作会社・サンライズが運営するWebサイト「矢立文庫」(#)で連載中の小説「エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部」は、2006年に放送され人気を博したTVアニメ「ゼーガペイン」のノベライズ作品だ。
カミナギ・リョーコを主人公とした本作は、2016年10月にイベント上映されたアニメ「ゼーガペインADP」の作中の時間軸で、“カミナギ・リョーコがいかに行動していたのか”という、誰もが気になるポイントにスポットを当てた内容となっており、「ゼーガペイン」ファンからの注目を集めている。
アキバ総研では、いよいよ明日(4月27日)、最終回を迎える本作の宣伝担当、サンライズ・渋谷誠さんと著者である高島雄哉さんにインタビューを敢行した。ネタバレを防ぐため、前後編2回に分けて掲載する本インタビュー、前編は「エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部」が誕生した経緯についてお届けする。
あえて「ゼーガペイン」と銘打たない!
“ロボットが出ない”ロボットアニメのノベライズはどのようにして誕生したのか
──現在、矢立文庫で連載中の「エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部」(以下、エンタングル:ガール)。本作の執筆を担当されている高島雄哉さんは「ゼーガペインADP」(以下、ADP)にスタッフとしてクレジットされています。まずは、高島さんの経歴と「ADP」との関係を教えてください。
高島雄哉(以下、高島) 2014年に「ランドスケープと夏の定理」という作品で第5回創元SF短編賞を受賞しました。その後、東京創元社のWebサイトで「想像力のパルタージュ 新しいSFの言葉をさがして」というインタビューエッセイを連載していますが、その縁でAI研究者である三宅陽一郎さんと知り合いになったんです。その三宅さんから「ゼーガペイン」デザインディレクターであるハタイケ ヒロユキさんを紹介されました。ハタイケさんも僕も演劇や映画が好きで話が盛り上がって、後日ハタイケさんから声をかけてもらったのが、僕が「ADP」に参加することになったきっかけですね。
──ハタイケさんからの打診だったんですね。
高島 はい。「ゼーガペイン」は放送当時からのファンだったので、打診を受けたときにはふたつ返事でした(笑)。もともと「ランドスケープと夏の定理」は、「ゼーガペイン」を意識しつつ、超えようと思って書いた作品のひとつでしたから、そのあたりが「ADP」の方向性とマッチしたのかもしれませんね。そうして参加した「ADP」では、ソゴル・キョウが使っているホログラムディスプレイをはじめとする設定制作や、ストーリー展開などの考証を担当する「SF考証」担当として、さまざまな体験をすることができました。
──「ADP」のSF考証という仕事から、小説「エンタングル:ガール」の執筆に至った経緯とは?
渋谷誠(以下、渋谷) もちろん「ADP」のプロモーションの一環という部分もあるのですが、そもそものきっかけは私がハタイケさんから高島さんを紹介されたことですね。私はサンライズのプロモーション担当なので、商品化や書籍化ということはつねに意識しているんです。なので、高島さんが小説家だと聞けば当然「小説を書いてもらおうよ」となります。
⇒アニメ業界ウォッチング第21回:広報担当から見た10年目の「ゼーガペイン」 廣岡祐次(バンダイビジュアル)&渋谷誠(サンライズ)インタビュー!
──ということは、もともと矢立文庫とは関係なく進んでいた企画なんですね。
渋谷 書籍化する際にどこの出版社さんにお願いしようか……など、いろいろ考えていたんですが、そんなときに「矢立文庫」というものが立ち上がるというじゃないですか。そこで担当者をつかまえて、「エンタングル:ガール」の企画書を持ち込みました。といっても私が決めたのは「小説連載をやるぞ!」というところまでで、内容についてはまったく考えていませんでした(笑)。
高島 (笑) 内容についてはハタイケさんを含めたメンバーで、打ち合わせをしました。ハタイケさんからは「自由にやっていい」というお話をされて。そこで、僕からは「量子サーバー開発史」か「映画研究部でのカミナギのエピソード」のどちらかでどうでしょう、というアイデアを出して、映研のエピソードに決まった感じですね。
渋谷 ……実は、本来サンライズの作品でこういったスピンオフを展開する場合って、アニメのメインキャラクターはなるべく登場させないんです。というのも、いろいろな外伝にメインキャラが登場してしまうと全体としての整合性が取れなくなりますし、そもそもお話自体を自由に展開できなくなってしまう。
高島 あ、そうなんですか? 当時はそんな事情があるとは知らなくて(笑)。
渋谷 なので、私が内容を考えていたら、小説はこの内容にはなっていなかったと思います。ですから、これは高島さんの熱意の結果ですね。あと、カミナギの話なら、部活もの/青春ものになる、というのも大きかったですね。ハタイケさんも含めて、小説にロボット(ホロニックローダー)を登場させなくてもいい、という話はこの段階でしたと思います。
──たしかにホロニックローダーをはじめ、本作には一切のロボットが登場しませんよね。
渋谷 「ロボット」に、作品全体がそのイメージに引っ張られるじゃないですか。それがイヤだな、と。ロボットアニメにロボットが出る理由って基本的に「商業的理由」なんです。「ゼーガペイン」の場合はゲームを出すという理由があった。
でもそれって小説には関係ないな、と。
小説にロボットが登場すると、その描写に紙幅がとられますよね。そのわりには物語には直接関係しない部分じゃないですか。そう考えると小説においてはむしろ「ロボットはじゃまだな」って(笑)。
──高島さんは「ゼーガペイン」の小説にホロニックローダーが出てこないことについてどう思いましたか?
高島 出さなくてもいいの? って感じですよね。もちろん、書くのは大変かなー、と思ってはいたんですが。
──では、タイトルに「ゼーガペイン」と入っていないのも……?
渋谷 タイトルに「ゼーガペイン」とつけると、ただの“「ゼーガペイン」のノベライズ”になっちゃう。いや、もちろんノベライズなんですけど(笑)、ただ、そこで先入観を持たずに、「ゼーガペイン」という作品を知らない人が手にとってスッと入ってこられるようにしたかったんです。これは最初の書籍化の話にも関係してくる部分でもあります。
高島 タイトルについてはかなり強く、渋谷さんが主張されていましたよね。
渋谷 ちなみに高島さんはかなりタイトルで苦労していましたね。
──そうなんですか?
高島 はい。最初は映画研究部の話なので、「えいけん!」という仮称で呼んでいましたが、さすがにマズいので(笑)いろいろと考えました。ちょっとした微調整まで含めるとタイトル案は200個以上考えましたね。その中で、打ち合わせの際に出したのは20個ぐらいですけど。
渋谷 いろいろな案はあったんですけど「えいけん!」のインパクトが強すぎたのか、「なんか違う…」と。ちなみに9月末から連載スタートのはずなのに、8月半ばごろになっても、タイトルはまだ決まっていませんでした。
高島 ギリギリですよね。ちなみに最後まで残ったのは第1話のサブタイトルに使用した「なぜカミナギは映画監督になれないのか」でしたね。
渋谷 これはまずは手にとってもらおうと、最近のライトノベルの流行りを意識して付けたタイトル案ですよね。ちょっとズルいやり方かもしれませんが、「ADP」にも深く関わったSF作家が書いたものですから内容についてはバッチリじゃないですか。となると私としてはそれをいかに多くの方に手にとってもらうかということを考えたいわけです。
──そして、最終的に「エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部」というタイトルになったわけですね。
高島 ええ。最終話のサブタイトルに選んだ「からまる夏のカミナギ・リョーコ」は結構早く思いついていて、量子エンタングルメントとカミナギの関係を表すために“:(コロン)”で区切ることにしました。“:”には時間を表現する意味もありますので「ゼーガペイン」という世界観にはぴったりかな、と。
渋谷 ファンからしてみれば「エンタングル」「舞浜南高校」という単語が入っている時点で「ゼーガペインだ!」とわかる。「ゼーガペイン」を知らない人でも、高校の映研部の話ということで興味を持ってもらえる。そういうタイトルになったと思います。
高島 「エンタングル」という言葉が作品のメインテーマになったので、結果として良かったです。
──そんな「エンタングル:ガール」を書くにあたって、気をつけたところ、大変だったことを教えてください。
高島 前半はカミナギたち映画研究部の部活動を書いています。なるべく1話にひとつ以上アマネのガジェットを出すようにして。ただ天才理系少女が作るものなので、アイデア出しは頑張りました。
後半は世界設定と共に、カミナギが映画を撮る意味がだんだんと明らかになっていきます。この構成は予定通りでしたが、後半を書いていて、カミナギの映画にはもっと深い意味があるんだと気づいたんですよね。なので構成を修正するのは大変でした。でも結果的により良いものになったと思います。
渋谷 むしろ「ADP」のSF考証のほうが大変だったと思いますよ。アニメはいろいろな人の前で意見を言ったり、タイトなスケジュールに追われたりしますけど、小説はひとりで書けますから。
高島 そうかもしれません(笑)。「ゼーガペイン」には詳細な設定が本当にたくさんあって、すべてがきちんと整合的に作られているんですよね。それをスタッフ全員が共有していて、「ADP」の打ち合わせ中もいろいろうかがうことができました。そういう意味でもSF考証として「ADP」に参加したことは、本作を作るのに必須だったな、と思います。
(4月27日更新の後編に続く)
「エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部 」
・著者:高島雄哉
・イラスト:あきづきりょう
・作品ページ:#zega/zega.html
・第1回:#zega/1.html
〈あらすじ〉
夏を撮りたい――。高校一年生の夏休み前日、映画監督志望のカミナギ・リョーコは愛用のビデオカメラを手に、学校中を奔走していた。全国高校映画コンテストに出品するためだ。作品を彩るのは、幼なじみのソゴル・キョウ、親友のミズキ、そして一癖も二癖もある舞浜南高校映画研究部の先輩たち……。はたして彼女は「夏」を撮ることができるのか?
『ゼーガペインADP』のSF考証を務める新人作家・高島雄哉が本編ヒロインの視点で描く瑞々しい青春群像劇、ついに始動。
(C)サンライズ・プロジェクトゼーガ
(C)サンライズ・プロジェクトゼーガADP
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