「ゼーガペインADP」の裏側でカミナギは何を見たのか? 矢立文庫「エンタングル:ガール 」完結記念インタビュー【後編】

ついに本日(4月27日)12:00に公開された「からまる夏のカミナギ・リョーコ」4で完結となった「エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部」(以下、エンタングル:ガール)。

アキバ総研では、そんな本作の宣伝担当である渋谷誠さん(サンライズ)、および著者である高島雄哉さんへとインタビュー。昨日公開した前編ではロボットアニメのノベライズ作品にも関わらずロボットが一切登場しない理由など、本作のアウトラインについてお話をうかがった。
「ゼーガペイン」のノベライズなのにロボが出ない理由とは? 矢立文庫「エンタングル:ガール 」完結記念インタビュー【前編】


インタビュー後編となる今回は、いよいよ「エンタングル:ガール」のストーリー、その核心へ迫る内容となる。さらに「ゼーガペイン」の今後についても触れた内容となっているので、ぜひチェックしてほしい。

なおインタビューの性質上、物語の結末や核心について触れている個所がある。ネタバレ防止のため最終回を読み終わってから本記事を読むことを強くオススメしたい。

カミナギはなぜ映画を撮るのか──
「エンタングル:ガール」は“世界のもつれ”をテーマにした本格ハードSF作品


──ここからは実際の内容についてうかがっていきたいと思います。まずは「エンタングル:ガール」のコンセプトを教えてください。


高島雄哉(以下、高島) 「ゼーガペインADP」(以下、ADP)と同じく、これまで「ゼーガペイン」を見たことがないという方が、作品を知るきっかけになるといいな、と考えて「エンタングル:ガール」を書いています。その上で僕も「ゼーガペイン」ファンですから、熱心な「ゼーガペイン」ファンが読んでも楽しい作品になればいいな、と。
「ゼーガペインADP」、下田正美監督インタビュー【予習編】

渋谷誠(以下、渋谷) 初期から「ゼーガペイン」を知らなくても楽しめるという部分を重視していますね。「エンタングル:ガール」を読むために、「ゼーガペイン」という作品をおっかけ始めると大変ですから。


──「エンタングル:ガール」はカミナギから見た「ADP」のストーリーになっていますよね。


高島
 量子サーバーの研究機関ではなく、舞浜南高校映画研究部を舞台にすると決まった以上は「ADP」とうまくリンクして盛り上がるようにつくっていきました。ただ、さっき構成を調整したと言いましたが、最初に想定していた内容とはぜんぜん違うストーリーになっているんです。

──そうなんですか?

高島 最初考えていたのは“カミナギが舞浜南高校で七不思議を探索する”という展開だったんです。全7話構成で、毎回ひとつずつ“不思議”を見つけていく。そして最後の“不思議”を見つけたとき、カミナギは自分の体験が量子サーバーの中での出来事だということに気がつく……、そういう内容でした。「エンタングル:ガール」が全7話構成なのは、そのころの名残りですね。


──最初はカミナギが覚醒するまでの物語だったんですね。たしかにそちらのほうが「ゼーガペイン」という作品を知らなくても楽しめる内容なのかもしれません。ちなみに方向性が変わった理由は?


高島
 5、6、7話は途中で一気に書き上げた、というのが大きいと思いますね。実は第4話「シェルタリング・サマー」までは連載ペースにあわせて書いていたんですが、後半は年末年始で一気に書き上げたんです。何週間か、映研に向き合って。カミナギが映画を撮ることは、彼女自身にとって重要なのはもちろんですが、量子サーバー内の世界にとっても重要な意味があるというアイデアにたどり着いたんです。


──たしかに5話から大きくテイストが変わっています。


高島
 第4話で1回リセットがあって、そのあと5話「不可視であるはずの風景をわたしは確かに覚えている」以降はカミナギが半覚醒しますが、ここからは少し不気味で暗い雰囲気になりますね。4話まではジュブナイルSFでそこまでハードなSFというわけではないのですが、5話以降はエンタングルメントエントロピーという今も盛んに研究されている超弦理論や量子重力理論の概念を扱っていて、ゼーガファンに楽しんでいただけるハードなSFになったと思います。


──「エンタングルメントエントロピー」……、“世界のほころび”として、「エンタングル:ガール」中でたびたび登場する言葉ですよね。


高島
 「エンタングル:ガール」ではカミナギが映画を作ることで量子サーバーのエンタングルした(こみいった)情報が整理され、エンタングルメントエントロピーが抑えられた結果、量子サーバーの世界が維持されている可能性が示唆されています。
「なぜ情報体(幻体)であるカミナギ・リョーコは映画を作るのか」という理由がここにあるんです。


渋谷
 企画した段階では、“アニメのノベライズ”という枠を超えて、「ゼーガペイン」という作品を使ったピュアなSF作品が生まれてくれればいいな、と考えていましたが、結果としてかなりど真ん中のSFになったと思いますね。


──さて「ADP」との接点といえば、やはりカノウ・トオルですよね。「エンタングル:ガール」中では、ミステリアスな言動が印象的でした。


高島
 カノウは基本的には格好いい先輩なんですが、ミステリアスな部分があるという部分については、「ADP」のBlu-rayに収録されていた花澤香菜さん、川澄綾子さん、ハタイケさんのオーディオコメンタリーでのやり取りから取り入れた部分ですね。


渋谷 「ADP」のプロモーションとしては、カノウ・トオルが登場するのは必然だったんですが、まだ彼のキャラクターについて若干つかみきれていない部分がありましたので、彼の言動については下田正美監督やハタイケさんにチェックしていただいています。


──下田監督やハタイケさんもチェックしているんですね。


高島 はい。下田監督からは、カノウだけでなくキョウやシズノといったTVアニメから登場しているキャラクターのセリフについても指摘や修正をしていただいています。“キョウはもっと強い口調で”とか“キョウはここまで細かな物言いはしない”とか。そういう意味でも、しっかりと「ゼーガペイン」になっていると思います。


──なるほど。ちなみに「エンタングル:ガール」では新キャラクターが登場しますよね。


渋谷
 フカヤ・アマネ、ヒヤマ・チホ、ウズハラ・シンスケですね。新キャラについては全部高島さんのアイデアです。


高島
 科学オリンピックで優勝しているアマネやピアノの国際コンクールで入賞経験のあるウズハラなど、どのキャラクターもすごく突き抜けた才能の持ち主なんですけど、これは舞浜南高校がすごくレベルの高い高校ということで。TVシリーズで「東大理IIIが──」みたいな話がありましたし、さまざまな分野の優秀な生徒が集まっているんですが、明言されたのは「エンタングル:ガール」が初かもしれません。
実はチホのポジション(映研副部長)を、ハヤセの彼女であるツムラ・サチコにしますか? という提案もしたんですが、「ADP」とのリンクについてはすでにカノウやAIであるルーパがいるので、新キャラでいいですよと。そこで、チホが生まれました。


──ところで、「エンタングル:ガール」は、「ADP」のストーリーのタイミングで、カミナギがどのように行動していたかがわかるいっぽうで、キョウが何をしているのかは「ADP」を観ないとわからない構成になっていますよね。


高島 かなり初期にはキョウも覚醒していなくて、普通の高校生として映画を撮るバージョンも考えていたんです。そのほうがひとつの作品としての収まりは良かったかもしれませんね。今回キョウがあまり語らないのは、カミナギを完全覚醒にさせたくなかったというのもありますが、キョウやシズノそれから生徒会のみんなのことはもっと書きたいと思います。


──でも、キョウの戦いが描かれていないからこそ、「ADP」を観て「エンタングル:ガール」を読む、逆に「エンタングル:ガール」を読んで「ADP」を観る、という楽しみが生まれたような気がします。


高島
 「ADP」では、もちろん戦っているキョウの姿を楽しめますし、TVアニメを観れば「エンタングル:ガール」の後、カミナギがどうなるのかもわかる。そういう意味では「ADP」と同じく「ゼーガペイン」を知るきっかけというコンセプトは達成できたかと思います。


──さて、インタビュー前編では渋谷さんが“書籍化”というキーワードをたびたび口にされていましたが……。


渋谷
 皆さんの応援しだいですね。なので、ファンの方にはぜひ感想を教えてもらえると嬉しいですね。矢立文庫で現在やっているアンケート(#)もそうなのですが、我々はファンの皆さんからの反応を知りたいと常に思っていますし、チェックしていますから。

ぜひツイッターなどでハッシュタグ(#zega)をつけて呟いたり、それこそ、このアンケート(編注:2017年5月8日まで回答受付中)にコメントを寄せていただけると参考にします。

高島 書籍化が実現した場合には、展開も含めて連載時と大きく内容が変わるかもしれませんね。TVアニメでオープニング映像が少しずつ変わっていった「ゼーガペイン」ですから、小説も実際にどうなるかはわからない(笑)。そういった部分の違いを楽しんでいただけるようになるといいですね。

渋谷 「ゼーガペイン」は“変わること”を求められている作品ですから。


──「エンタングル:ガール」は応援次第では書籍化も……、とのことですが「ゼーガペイン」全体の今後としてはいかがでしょうか?


渋谷
 「ゼーガペイン」10周年はひとまず「エンタングル:ガール」の完結でひと区切りという感じになります。ただ、「ADP」のラストや公式ツイッターで「NEXT ENTANGLE!」というロゴが登場したように、当然これで終わりなんてことはありません。


夏には「スマイルfestivalちば」での特別イベントも開催されますし、千葉テレビで8月から放送されます。バンダイさんからはTシャツが2種類発売される(#)などまだまだいろいろな動きもあります。皆さんの声次第でいろいろと展開していけると思いますので、ぜひ応援をしていただければと思っています。


──応援次第……ですか。ちなみに個人的にはこちら(#)で紹介されていた「アイカツを踊るゼーガペイン」を見てみたいなぁ……なんて。


高島
 あれは僕も見ましたが面白かったです(笑)。たしか優勝したのもあの映像でしたよね。


渋谷 D.I.D.スタジオ製の映像ですね。あれも皆さんからの要望が多ければ何らかの形でお見せできるかも……しれません。


──(笑) それは気合を入れて応援したいですね。それでは高島さん、最後に連載が終わった感想をお願いします。


高島 小説家としての初めての長編小説の連載で、すごく勉強になりましたし、非常に充実した時間を過ごすことができました。書籍化が実現すると加筆・修正があるんですけど。自分自身、カミナギたちと一緒に成長できたかなと。連載中の応援メッセージには本当に勇気づけられましたね。
そして今年の星雲賞のメディア部門に『ゼーガペインADP』が、自由部門に“ゼーガペインADPおよび関連ムーブメント”が参考候補作として選定されています。スタッフ一同、大変うれしく思っています。ここで改めて深く感謝いたします。書籍がどのようになるのかはまだわかりませんが、楽しみにしていただければと思います。
また、皆さんが声援次第ではカミナギ監督の次回作もある……かもね? ということでぜひ今後とも「ゼーガペイン」「エンタングル:ガール」をよろしくお願いします。


──ありがとうございました。

(取材・文/編集部)

「エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部 」


・著者:高島雄哉

・イラスト:あきづきりょう
・作品ページ:#
・第1回:#


〈あらすじ〉
夏を撮りたい――。高校一年生の夏休み前日、映画監督志望のカミナギ・リョーコは愛用のビデオカメラを手に、学校中を奔走していた。全国高校映画コンテストに出品するためだ。作品を彩るのは、幼なじみのソゴル・キョウ、親友のミズキ、そして一癖も二癖もある舞浜南高校映画研究部の先輩たち……。はたして彼女は「夏」を撮ることができるのか?
『ゼーガペインADP』のSF考証を務める新人作家・高島雄哉が本編ヒロインの視点で描く瑞々しい青春群像劇、ついに始動。


(C)サンライズ・プロジェクトゼーガ
(C)サンライズ・プロジェクトゼーガADP

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