【アニメコラム】ときめき☆タイムトリップ第13回「新機動戦記ガンダムW」危険なガンダムパイロット!予測不能な5人の共演

「今見ても、やっぱりいいわー!」
「なんでそんなに女性に受けたの?」
おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。

今回は、Blu-ray Box“特装限定版”の発売が決定した「新機動戦記ガンダムW(ウイング)」を取り上げます。

1979年に「機動戦士ガンダム」いわゆる「ファーストガンダム」が放送されてから16年経った1995年。宇宙世紀の世界観の「機動戦士Vガンダム」(1993年)、ガンダムファイトでファンの度肝を抜いた非宇宙世紀の「機動武闘伝Gガンダム」(1994年)に続いて、非宇宙世紀第2弾として放送されたTVシリーズが、「新機動戦記ガンダムW」です。

この作品は、女性人気の高い大ヒット作となりました。「機動戦士ガンダムSEED」(20 02年)や「機動戦士ガンダム00」(2007年)を経た現在でこそ、「ガンダム」作品の女 性人気は珍しくありません。でも「ガンダム」シリーズといえばコアな男性ファン向けというイメージのあった当時としては、画期的でした。

キャラクター別総集編の「OPERATION METEOR(オペレーション・メテオ)」リリース(1996年)を経て、1997年には続編のOVA「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」(全3話)が制作され、人気を反映しました。

放送当時のブームを知る筆者が、この作品の楽しみを振り返ります。


自由すぎる!? 理解不能な美少年たち


「今度の『ガンダム』は一体何?」「アイドル戦隊なの……?」

村瀬修功氏のキャラクターデザインによる美少年5人のビジュアルは、発表当初から大きなインパクトがありました。

男くささがウリの感もあったそれまでの「ガンダム」シリーズに比べて(それは、新たなチャレンジの多かった前年の「機動武闘伝Gガンダム」も同じで)、「新機動戦記ガンダムW」は、明らかに路線がちがっていました。

しかし始まってみて2度びっくり。見た目がスマートなガンダムパイロットたちは、さすがコロニーから地球に送りこまれた秘密工作員、中身がとんでもない連中揃いだったのです。

「任務完了」が口癖で、みずからの死をまったく恐れないヒイロ・ユイ。
明るい死神を自称し、比較的常識人で苦労性のデュオ・マックスウェル。
体操選手なみの体術を誇る、寡黙なピエロ、トロワ・バートン。
宇宙の声が聞こえる、穏やかに見えて容赦のないカトル・ラバーバ・ウィナー。
女と弱者を歯牙にもかけない、孤高の戦士、張五飛(チャン・ウーフェイ)。

この、見た目は魅力的だけど感情移入を阻む少年たちが、互いの正体を知らずに任務のために地球に降り立ち、戦ったり悩んだり任務を遂行したり死にかけたりする。そんなふうにしてドラマは進行していきます。

5人のガンダムパイロットが気になるファンとしては、できれば早く5人そろってのやりとりが見たいのです。しかし宇宙は広い、地球も広い。5人はそれぞれがそのときの状況に応じて個人で判断して動くゲリラですから、ファンの願いなんてどこへやら、ガンダム同士でバトルもするし、状況によっては銃を向け合います。

そもそも、あいさつより前に殺意を向けるような連中ですから、なかなか会話が成立しない。会話ができるデュオとカトルがようやく出会えたとき、なにやらホッとしたのを覚えています。

さらに後半では、乗ると言動がおかしくなっちゃう悪魔的なモビルスーツ「ウイングガンダムゼロ」が登場、記憶喪失になるものも登場。いろんな意味で目が離せませんでした。


ヒイロとリリーナ、殺し殺されるトキメキの関係


「ガンダム」シリーズといえば、ごく普通の少年が、兵器としてのガンダムと出会い、戦闘に巻き込まれて物語が始まる。そんなイメージがありますが、この作品で、物語当初にその役回りを果たすのは、ヒロインのリリーナ・ドーリアンです。

リリーナは戦争をしらないごく普通の少女であり、育ちのいいお嬢様であり、王国のプリンセスでもあり、生き別れの兄がおり、しまいには地球の女王にまでまつりあげられる。戦いが進むにつれて境遇がドラマチックに変わり、まるでもう1人の主人公のようでした。

ガンダムパイロット5人の人気ももちろん高かったのですが、主役のヒイロとヒロイン・リリーナの〝恋愛要素〟もまた、「新機動戦記ガンダムW」の女性人気を盛り上げた大きな要因でした。

第1話で、リリーナは海辺に倒れている少年(ヒイロ)を見つけますが、彼は素顔を見られたことに衝撃を受け、そのまま去ってしまいます。まもなく、学園に転校生としてやってきたヒイロ。リリーナは彼に惹かれ、誕生パーティーの招待状を手渡します。しかしヒイロはそれを破りすて、リリーナがショックで涙ぐんだ涙を指先でぬぐい、次の瞬間、耳元でささやきます。「お前を殺す」と。

「なんなの?」と思いますよね。「なんなの……?」と、リリーナも思います。吊り橋の上で出会った2人は、ドキドキをトキメキと勘違いして恋に落ちるといいますが、ヒイロとリリーナはその最たるものです。しかし、無意識の恋はたぶんこの時始まったのです。

ヒイロは無表情で行動が突飛だし、リリーナはリリーナでお嬢様然としてやはり行動が謎。わかりにくくはあるのですが、このあと2人はずっと互いを意識し、「ヒイロー、早く私を殺しにいらっしゃーい」「何をしてるんだ、俺は。こいつは死んでくれたほうがいいはずなのに……!」と、名(迷?)台詞を多々残してくれます。

しかし視聴者にとっても、「よくわからない」というのは「知りたい」という気持ちにつながるもの。恋愛やトキメキの基本です。ガンダムパイロットたちもリリーナも、そのワケのわからなさが大きな魅力になっているのもまた、確かです。


我が道を突き進む美青年組、女性が好きになれるお姉さま方


「お子様だけじゃつまらないわね」というお姉さま方には、秘密組織OZ(オズ)の総帥トレーズ、そして、「ガンダム」といえばお約束の仮面の士官、ゼクスという美青年コンビが用意されています。しかしこの大人組がまた、謎まみれでした。

いつでも独特の優雅さを崩さない、若きカリスマ、OZ総帥のトレーズ・クシュリナーダ 。戦う人間に美を感じ、同時に、多数の犠牲を出す戦争を悪とみる彼は、戦いながら悪評を引き受けることに甘んじ、やがて戦争に幕を下ろすことを望みます。もってまわっ た言い回しが特徴的で、五飛やヒイロとの会話(の通じなさ)は、なかなかにおもしろいものでした。

そして、実はリリーナの兄でもあるゼクス・マーキス。彼も、悪になりきれないまま復讐を望み、独自の青くささを持ち、戦いのない世界を願うひとりです。最初はOZの士官だったのが、OZを追われてあちこちを転々。おかげで、変化する情勢や関係性がつかみにくかったものです。

「新機動戦記ガンダムW」では、リリーナ以外の女性キャラも魅力的でした。トレーズの部下で、軍人と聖女のふたつの顔を持つレディ・アン。ゼクスの同期で、ゼクスの秘密を知るルクレツィア・ノイン。思いを秘めつつ、政治や戦争で自らの役割を果たす彼女たちは、女性から見てもカッコいいものでした。

もう大抵のことでは驚かなくなった視聴者を、「早く戦争にな~れ♪」のセリフで喫驚させたドロシー・カタロニアも、なかなかの存在感でしたね。


疾走するジェットコースターに乗って、物語は未来へと進む


意味ありげなセリフ、予測のつかない展開、次々に変わっていく敵味方関係、裏切られる解釈。惹きつけられながらも、心情を読みきれない登場人物たちに、見る方は振り回され、その意味を追いかけるのが楽しみでもありました。

多くの作品では、現在起こっている出来事の原因や成り立ちを、過去に求めることが多いものです。だから、謎だらけの主人公が出てきたら、ある程度のところで、その過去が明かされたりします。

こんな生い立ちだから、こんな性格になった。家族はこう、秘めた心の傷はこう、今はこう見えるけれど、もともとはこういう性格、などなど。しかし、この物語では、それが明かされることは極めて少ないのです。

放送当時、シリーズ構成の隅沢克之氏は、インタビューでこんなことを語っています。こうだからこうなっているという図式的理解は、なるべく排除したい。見る人が感じたこと、思ったことはどれも正しい。アクティブに皆で考えたり議論したりしながら進む番組だと思ってほしい……と(「アニメディア」(学研)1996年2月号)。

出来事の原因を過去に求め、理由がわかればすべてが解明されたかのように考えて納得する向きには、過去の因縁の積み重ねの少ない「ガンダムW」が、「キャラクター中心の話」と感じられるのかもしれません。

でも、思いや個性のハッキリした登場人物が、それぞれの信じることを全力でやっていく中で、関係性が変わり、勝敗があり、未来が変わり、運命が転がっていくところに、この作品のおもしろさはあるのではないでしょうか。

美男美女による舞台劇を見ているようなケレン味は、「新機動戦記ガンダムW」ならではの味わいでした。コミックやアニメ作品の舞台化が流行る現在なら、この作品が「銀河英雄伝説」や「ルパン三世」のように宝塚歌劇で上演されても、似合うような気さえします。

作品タイトルのとおり、ヒイロが乗るモビルスーツは、のちに天使のようなふかふかした「翼」のある姿に進化して、これまたインパクトを残しました。この「ウイングガンダムゼロ(EW版)」の勇姿は、作画が特に美しいOVA「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」でぜひ確認してください。


(文/やまゆー)
(C) 創通・サンライズ

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