【懐かしアニメ回顧録第30回】躍動的な「破裏拳ポリマー」の世界と、視聴者とを媒介する“動けないキャラクター”
2017年5月13日より、実写ヒーローアクション映画「破裏拳ポリマー」が公開される。原作となったタツノコプロのアニメは、1974年に初放送された。同時期に前後して製作された「新造人間キャシャーン」「宇宙の騎士テッカマン」に比べると、深刻な要素は皆無で、軽妙洒脱な作風が魅力となっている。
ポリマーに変身する鎧武士は、私立探偵の車錠のもとで、助手として働いている。車の事務所の秘書として、南波テルという少女も働いており、事件に首をつっこむ。車もテルも、神出鬼没のポリマーの活躍に常に助けられてはいるものの、彼の正体が武士であることに気づいていない。
実は、武士は国際警察の鬼河原長官の息子である。武士は家出したきり連絡もしていないため、ポリマーの正体が父親にバレてしまうことを、最も恐れている。
「武士はポリマーに変身して悪人を倒しつづけているが、車にもテルにも正体を隠している」「武士は、父親の鬼河原長官にポリマーであることを知られたくない」――全26話をつらぬくプロットは、たったこれだけだ。
視聴者にもっとも近いキャラクターは誰か?
しかし、たった1人だけ、武士がポリマーであることを知っているキャラクターがいる。車の事務所で飼われているセントバーナード犬の“男爵”である。第1話で、男爵は武士がポリメット(ポリマーに変身するのに必要な赤いヘルメット)によってポリマーに変身する姿を目撃する。しかし、犬であるために車にそのことを伝えられず、イライラする。
男爵は、「破裏拳ポリマー」という作品の中で、特権的な地位を占めている。探偵映画といえばモノローグがつきものだが、この作品でモノローグを呟くのは、男爵である。犬なので、彼の言葉は周囲には聞こえない(声優は、たてかべ和也氏)。
「シャーロック・ホームズにかぶれて、車錠なんて名前だけはご立派で探偵らしいけど、やることはみんなドジで、誰も事件なんて頼みに来やせんじゃないかい」
「このカッコいいお嬢さんは、南波テル。この事務所の秘書兼電話係。ん? なんで探偵長が秘書にペコペコしてるかって? 彼女は、このナンバーワンビルの所有者なんじゃよ」
……こんな具合に、キャラクターの設定、ストーリー展開を説明するナレーション役が、男爵というわけだ。しかし、飼い主の車は男爵を「役立たずのうすのろ犬」と蔑んでいるので、男爵はいつもボヤいている。
確かに、車の言うとおり、男爵は寝てばかりいる「役立たず」かも知れない。しかし、ほとんど自発的に行動せず、他のキャラクターに意志を伝えることのできない男爵は、テレビの前の視聴者にもっとも近い存在とは言えないだろうか? テレビの前で、われわれはジッと座っていることしかできない。キャラクターたちに話しかけることもできず、もどかしい思いをさせられる。武士の正体を知りながらも、誰にも伝えることのできない男爵は、視聴者の身代わりであり、物語世界との唯一のパイプ役でもある。
“身動きのとれない主人公”に、視聴者は感情移入する
ところが、最終回で事態は一転する。武士が、父親の鬼河原長官とともに敵組織に捕まってしまうのだ。敵組織は、武士がポリマーに変身することを知っているが、鬼河原長官は「息子の武士がポリマーのはずがない」と信じようとしない。父親にだけは正体を隠していたい武士にとっては、危機一髪の状況だ。
そして、武士がポリマーに変身するのに必要なポリメットは、車探偵事務所に置かれたままなのだ。そのことに気づいた敵は、ポリメットを奪いに事務所に潜入する。ここで活躍するのが、男爵だ。「こいつめ、ポリメットを盗みにきたところを見ると、武士の行方を知ってるな」と見抜いて、ポリメットを頭にかぶったまま逃げ回る。さらに敵の飛行要塞に潜入し、基地に捕らわれた武士にポリメットを渡すまで、ダイナマイトに点火して飛行要塞を爆破するなど、大活躍する。その間、なんと18分もの間、武士は敵につかまったまま何もできないなのだ。
つまり、最終回のみ、いつも寝ている男爵がポリメットをかぶって奮闘し、身動きとれず変身もできないまま「父親に正体がバレてしまうのではないか」と葛藤している武士と、立場が入れ替わっているのである。視聴者は、自発的に行動できず、誰にも意志を伝えられないキャラクターにこそ感情移入する。ポリメットで変幻自在に活躍するスーパーヒーローに、最終回にちょっとだけ感情移入させるわけである。
「やれやれ、やっと武士がポリマーだとわかってくれたか。もう、イライラしなくてすむわい」と、男爵は誰にも聞こえない声でつぶやく。そのセリフはテーマの解決、物語の結末を端的に告げる。「破裏拳ポリマー」は全26話をかけて、「武士がポリマーである」シンプルな事実を伝えることを貫き通し、そのために「視聴者にしか言葉の通じないキャラクター」を必要としたのである。
(文/廣田恵介)
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