「夜明け告げるルーのうた」湯浅政明監督インタビュー 大切なのは「どう生きたいのか」。言いたいことが言いづらい現代におくるメッセージ

映画「夜は短し歩けよ乙女」に続いて、湯浅政明監督のアニメ映画「夜明け告げるルーのうた」が2017年5月19日に公開される。鬱屈した気持ちを抱えている中学生のカイが、人魚のルーと出会ったことをきっかけに、だんだんと周囲が変化していくファンタジックな物語。カイとルーとの交流や中学生バンドの模様、港町・日無町という舞台を生かしたストーリーなど、さまざまな要素が作品を盛り上げ、それを湯浅監督にしか出せないアニメーション表現で彩っていく。
世界の映画祭を含めた多数の受賞歴を持つ湯浅監督が、現代の空気をいかに感じ、作品にどのような思いを投影していったのか、お話をうかがった。


当たり前になりつつある「言いたいことを言いづらい雰囲気」


──本作の企画はどのようにスタートしましたか?

湯浅 最初にオリジナルの劇場アニメというお題をいただきました。子供の頃に見た「藤子不二雄さんの作品」のような雰囲気のアニメを、劇場のクオリティでやれたら面白いんじゃないかなと思って内容を作り始めました。当初は人魚とは別の生き物を考えていて、主人公も中学生ではないタイミングがありました。そんな中、脚本会議を通じて、今のかたちに落ち着きながら、心に溜まったものがあるんだけどそれを言えない子が、音楽を通じて何かを発信するという映画にしようと思いました。


──公式サイトのイントロダクションを見ると、湯浅監督が「ほんとうに作りたかった物語」と書かれています。その真意をうかがえますか?

湯浅 もちろん今までの作品も作りたかったものばかりですけどね(笑)。やっぱりオリジナルとなると今の僕が考えているテーマがストレートに出ますし、原作がない分、僕自身から発するメッセージが強くなるとは思います。昨今、言いたいことを言いづらい雰囲気があると思うんです。普通に気持ちを言えばいいのに、言い方が難しいのですが、あまり正直にモノを言わないことが板についているというか。好きなものに対して「人には言えないけど」とか「勧められないけど」とか、自分が好きならそれでいいはずなのになぜ前置きをするんだろうとすごく疑問に感じます。話を聞く側にしても、「変なことを言っているな」という空気を作らないで、もっと寛容に言いたいことが言えるといいなと考えながらこの作品を作りました。

──言いたいことを言いづらい雰囲気は、主人公のカイたちのような思春期の中高生から感じるものですか?

湯浅 身近にいる大人から感じることもありますが、たしかに若い人には多い気がしますね。若者が集う学校やSNSにはそういう空気を感じますし、そこから逸脱しようとするのはなかなか難しそうです。でもその空気はいまや当たり前になっているので、当人たちはあまり気にしていないのかもしれません。とは言っても、急に強くモノを言う人とぶつかるとビックリしてしまう。なんだか複雑ですよね。賢く生きるために養われた感覚なのかもしれませんが、そもそも賢いとは何なのでしょう。どうも僕には窮屈そうに見えるし、結局は自分がどう生きたいかでいいと思うんです。


──そんな湯浅監督の思いをストーリーに乗せるうえで、脚本の吉田玲子さんとはどんな相談をされましたか?

湯浅 基本的に今回は“聞いていこう”という姿勢でやっていました。吉田さんのアイデアはできるだけどんどん取り入れて、また中高生の雰囲気についても良い雰囲気を出していただきましたね。吉田さんは「カスミン」(2001年)で間接的にご一緒して以来、「こんな面白い人がいるなら、いつか一緒に仕事をしてみたい」とずっと思っていたのですが、気づけば20年くらい経ってしまいました(笑)。とてもしっかりした脚本を書かれる方で、僕にはない方法論や蘊蓄を持っている方ですので、できるだけ吉田さんの考えをもらいうけながら調整していきました。ルーも、実は最初は二面性があるヴァンパイアの設定だったのですが、吉田さんが「映画館に会いに行きたくなるようなかわいらしいキャラがいいんじゃないですか?」とおっしゃったのをきっかけに人魚になってゆきました。人魚なら水中と陸地という対立ができるし、二面性を押さなくとも、自分たちがやろうとしているストーリーができると思いました。ルーが日に弱いのはヴァンパイアの頃の名残だったりします。

──登場人物たちがとても個性豊かです。キャラクター描写で気をつけたことは?

湯浅 カイたちのような若者だけでなく、日無町に住む大人たちもたくさん出てきます。気をつけたのは、ステレオタイプな人間にならないようにすること。何か裏があるけれどたまたま映画には映っていないだけ、という片鱗が見えるようにしました。言いたいことを言えない空気は大人たちの中にもあって、正直にモノを言っている人が変わり者とされ、また変わり者扱いをすることで安心できる人もいます。親は子供に弱いところを見せられないと思ったり、押し付けてはいけないと思い込んだり、気にしすぎて本心が逆に見えなくなってしまっている感じが出るといいなと思いました。


──日無町の住人もいろんなシーンで面白い動きをしていますよね。気に入っている住人キャラクターはいますか?

湯浅 千鳥の大悟さんが演じてくれたガラの悪い漁師がいるんですが、あの人が出てきてしゃべると耳を持っていかれちゃうんですよね(笑)。アフレコでは最初もっとおとなしかったので「もっともっとガラが悪い感じで」とお願いした気がします。自由に演じていただいてとても面白かったです。日無町は地域を断定していないので、好きな言葉でしゃべってくださいという感じでやっていただきました。

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