【アニメコラム】アニメライターによる2017年春アニメ中間レビュー

スタートから約2か月が過ぎた2017年春アニメを中間レビュー。思春期の中学生を描いた「月がきれい」、手塚治虫の名作が原案の「アトム ザ・ビギニング」、東映アニメーションのオリジナルCGアニメ「正解するカド」、人気トイを映像化した「トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察」、徳井青空のマンガが原作「まけるな!! あくのぐんだん!」の5作品をラインアップしました。


月がきれい


中学生の恋愛をテーマにしたオリジナルテレビアニメ。小説家を夢見る主人公・安曇小太郎と陸上部のヒロイン・水野茜が互いに惹かれ合う様子をていねいに描いている。実際の中学生たちに取材を行っており、等身大のリアルな学校生活が見どころだ。
本作では学校を他人の声が聞こえてくる場所として表現している。教室ではクラスメイトのしゃべり声が響き、グラウンドでは部員のかけ声が飛び交い、始業式の最中であっても生徒たちの口が閉じることはない。その喧噪が特別な関係になろうとする小太郎と茜を妨げてしまう。2人が会話が禁じられた場所である図書室で落ち合い、文字と絵を使うLINEでは連絡を取るのは、声から逃れるためかのようだ。誰にもじゃまされない場所を求める2人はどこに行き着くのだろうか。


→「月がきれい」岸誠二監督ロングインタビュー
→「月がきれい」OP・ED「イマココ/月がきれい」東山奈央インタビュー


トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察


タカラトミーのミニカーブランド「トミカ」が誕生47年目にして初のテレビアニメ化。二足歩行形態に変形するマシン・ドライブヘッドを駆使し、街の平和を守る小学生たちが活躍する。コクピットは体育館の跳び箱や音楽室のピアノに繋がっていて、緊急時には学校からそのまま出動できるなど、どこか懐かしい世界観に目が行ってしまう。主人公の車田ゴウという名前からも、シンプルさだけがたどり着ける力強さを感じられる。
キッズアニメの魅力と言えば主人公のお母さんだが、本作では保健室の先生兼オペレーターの新門めぐみ先生がその役割を担っている。クラスメイトに正体をバラそうとするゴウをヘッドロックなどの実力行使で止めるという毎話挟まる寸劇が次第に病みつきになる。さらにTBSの笹川友里アナウンサーは本人役でレギュラー出演。OPアニメでは拳を振り上げるカットが尋常ではない迫力で描かれており、エンドロール後の実写コーナーにも登場する。基地にTBSのシンボル・ビッグハットが描かれているのも含めて、TBSの本気度が伝わってくる1作。



アトム ザ・ビギニング


「月刊ヒーローズ」連載の人気コミックをアニメ化。のちに鉄腕アトムを生み出す天馬午太郎とお茶の水博志。若き天才たちの大学院生時代が舞台となっている。2人が開発した自律型ロボット「A106(エーテンシックス)」には、次世代の人工知能「ベヴストザイン」が搭載されており、彼が自我をどのように獲得していくのかを軸にストーリーは進展していく。
A106は原作に比べて言葉遣いがたどたどしく、饒舌すぎる午太郎たちと好対照をなしている。第2話の敵ロボットとのバトルシーンではお互い無言で殴り合いを披露し、張り詰めたような緊張感が生まれている。パイロット同士が口論しながら戦うロボットアニメを見慣れている身としては、機械音だけが響く戦闘シーンは逆に新鮮に映る。A106に魂が芽生えたとき、その内心はどう表現されるのかが楽しみでならない。



正解するカド


東映アニメーション初のオリジナルCGテレビアニメ。羽田空港に出現した巨大立方体・カドの中に取り込まれた外務省の首席事務官・真道幸路朗。彼は謎の存在「ヤハクィザシュニナ」と出会い、日本政府との仲介役を引き受ける。SFアニメではあるが巨大ロボットなどは一切存在せず、知的生命体とのファーストコンタクトにとまどう人類の様子が、世界情勢を交えながら描かれている。
カドはなぜ現われたのか、ヤハクィザシュニナの目的は何なのか、そして人類に求められた「正解」とは何なのか、謎が謎を呼ぶミステリアスな展開が視聴者を作品世界に引き込んでいく。主人公の真道は人類でありながら異方存在であるザシュニナ側の交渉人としてふるまうことになる。最終的に彼は人類と異方のどちらを選ぶのか、それともまた違った別の道を歩むのか、その行方に要注目だ。



まけるな!! あくのぐんだん!


声優の徳井青空が手がけた4コママンガ原作のショートアニメ。宇宙征服の第一歩として地球にやってきたドン様、ペプちゃん、チクちゃんが地球人に翻弄される日常SFコメディだ。侵略の手始めに商店街から狙いを付けたり、宇宙船が燃えて泣いてしまったりと、コミカルな3人が実にキュート。全編デジタルで制作されており、やわらかな輪郭線とカラフルな色使いも、ほのぼのとした世界観と絶妙にマッチしている。
宇宙征服に燃えつつも内心は気弱なドン様役は玄田哲章が担当。「こんなこいるかな」でさまざまな性格のキャラクターを演じ分けた手腕が本作でも光っている。各話のナレーションは徳井と縁が深い声優陣で構成された「KAKUWA☆なれ~しょんず」が務めており、ドン様の侵略をキュートなボイスで応援している。徳井自身は声の出演はしないと明言しているものの、声優として登場するのかが気になってしまう。



(文:高橋克則)

(C) 2017 「月がきれい」製作委員会
(C) TOMY/ドライブヘッド・TBS
(C) 手塚プロダクション・ゆうきまさみ・カサハラテツロー・HERO’S/アトム ザ・ビギニング製作委員会
(C) TOEI ANIMATION/KINOSHITA GROUP/TOEI
(C) 徳井青空/ブシロードメディア

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