【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第18回「サクラクエスト」ほか
アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かが一言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。
「花咲くいろは」「SHIROBAKO」に続くP.A.WORKSの「お仕事シリーズ第3弾」としてスタートしたのが「サクラクエスト」。田舎町「間野山」の町おこしを縦軸に、5人の女性が奮闘する姿を描く作品だ。
主人公は短大生、木春由乃。就職活動が全滅状態で困っていた由乃は、以前仕事を受けたことのある派遣事務所から連絡をもらい、単発のバイトと思ってその仕事を引き受ける。それは間野山にある「チュパカブラ王国」の二代目国王(観光大使)という仕事だった。
間野山に到着し、人違いで依頼されたうえ、二代目国王の任期は1年だと知らされる由乃。一旦は東京に戻ると言った由乃だったが、やがて決意を固め“国王”を引き受けることにする。そんな由乃の周囲に集まることになったのが、観光協会に勤める四ノ宮しおり、元女優の緑川真希、商店会会長の孫の織部凛々子、WEBデザイナーの香月早苗。5人は力を合わせ知恵を絞りながら、間野山を活気づけようと行動していく。
「SHIROBAKO」もそうだったように「登場する問題やトラブルは現実にありうること」で「その解決はおおむねハッピーエンド」というバランスのとりかたが、エンターテインメントとして絶妙。たとえば第4話、第5話で描かれた、地元の工芸品・間野山彫刻をいかに盛り上げるかというエピソード。問題を大きく解決することにはならなかったが、それでも最後は小さな一歩が刻まれる。その後の第8話、第9話で描かれた、間野山を新たに印象づけるメニューの開発についても、同様の落としどころで締めくくられている。
「地域おこし」というテーマは現実と深く結びついているだけにその落としどころは難しい。だが制作会社のP.A.WORKSは「花咲くいろは」をきっかけに、作中に登場するお祭り「ぼんぼり祭り」を実際に開催するようになったという実績を持っている。「ぼんぼり祭り」はアニメ終了後も行われ、10月には7回を数え、昨年は15,000人を動員している。
おそらくこうした経験が「サクラクエスト」に反映されているだろうし、だからこそ描ける“ラストシーン”というものがあるのではないだろうか。今後の展開が楽しみだ。
というわけで今回は「田舎」を舞台にした作品をピックアップ。
「ひぐらしのなく頃に」は同名の大ヒット同人ゲームを原作にしたアニメ。舞台となるのは人口2,000人に満たない寂れた村落、雛見沢村。村に伝わる夏祭り「綿流し」の日に毎年発生する1人死んで1人失踪するという怪事件の謎を軸に物語は進行する。
同作の設定で印象的なのは、過去のダム建設を巡って村人の間で対立が続いているというところ。過疎の村だからこその煮詰まった人間関係が、謎の事件に独特の陰影を与えることになる。「サクラクエスト」でも(コミカルなテイストではあるが)商店会と観光協会の対立が、物語のひとつの軸となっている。人口が少なければ少ないだけ、対立の持つ意味も大きくなるわけだ。
「ひぐらしのなく頃に」は前原圭一が雛見沢へと引っ越してきたことから始まるが、「ばらかもん」も若き書道家の半田清舟が、島を訪れるところから始まる。
半田は、自作を酷評した書道展示館の館長を殴ってしまい、人間として欠けている部分を見直すために、やはり書家である父の命令で“島”で暮らすことを命じられる、島で暮らすうちに、自由奔放な小学1年生・琴石なるなど個性的な島民たちと親しくなった半田は、自分の「書」というものを改めて見直していくことになる。都会のエリートが田舎町で“自分を取り戻す”というスモールタウンものの王道ともいえるストーリーと、合間に挟まれるギャグの緩急が実に楽しい。アニメは、なるの声を子役の原涼子があてており、そのリアルな雰囲気も聞きどころだ。
最後に取り上げるのは「星空へ架かる橋」。こちらは弟の転地療養に付き添って山比古町に引っ越してきた、星野一馬が主人公。同名の美少女ゲームが原作だが、アニメ版はその設定を逆手にとって、一馬とヒロイン・初の関係を縦軸に、「昭和の青春ドラマ」のようなテイストで作品を作り上げた。田舎町という設定が、作品の持つ“昭和の雰囲気”とうまくマッチしていた。
田舎町を舞台にした作品は案外多い。思いつくままに名前をあげても「のんのんびより」「くまみこ」「ヨスガノソラ」など名前がいろいろあがる。映画でも「おおかみこどもの雨と雪」や「おもひでぽろぽろ」、「夜明け告げるルーのうた」などがある。田舎町はどうして物語の題材に選ばれるのか。過疎の進む現実の反映なのか、過密化が進む大都市圏が抱くあこがれなのか。
いずれにせよ田舎がそこにあるかぎり田舎町のアニメもまた作り続けられるに違いない。
(文/藤津亮太)
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