【犬も歩けばアニメに当たる。第31回】「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」帰ってきたキンプリに、ノンストップで酔いしれろ!
心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。
今回ご紹介するのは、公開中の劇場版「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」。2016年に公開された「KING OF PRISM by PrettyRhythm」の続編で、前後編ともいうべき2部構成になっています。
「キンプリ」の愛称で親しまれた、前作の「KING OF PRISM by PrettyRhythm」は、2013年4月〜翌年3月に放送された女児向けテレビアニメ「プリティーリズム・レインボーライブ」のスピンオフ作品として誕生。ファンの口コミと応援上映が話題になり、動員約48万人、興行収入約8億円を記録しました。
6月10日に公開された本作は、26日現在で14万人を動員し、興収2億円突破したとのこと。この勢いで、今回はどこまでいくのでしょうか。
前作に引き続いて応援上映を体験してきた筆者が、今回いきなり見ても楽しめる、この作品の魅力をご紹介します。
濃くて速い! 疾走するアトラクション型の映画
映画が終わったときに感じていたのは、心地よい興奮。血流が速くなって、身体中を駆けめぐっている。
いやもう本当、ワケがわからない。いい意味で。
前作に比べたら、「キンプリ」という作品がどういうインパクトを持っているのかはわかっているつもりで見にいったのに、やっぱりしてやられた。これがわずか70分の作品なんて、冗談でしょ?
劇中で世界観の中心になっているのは、アイドルとアスリートとアートの要素を合わせもつ、エンターテインメント「プリズム・ショー」。ステージに立つプリズムスタァたちは、4年に1度開催される「プリズムキングカップ」のトップを目指している。
前作の「KING OF PRISM by PrettyRhythm」では、人気ユニット「Over The Rainbow」(通称・オバレ)の3人の絆と、新人であるプリズムスタァ養成校「エーデルローズ」の後輩たちの成長、そして彼らを襲う苦境が描かれた。後編の本作は、どん底からの出発になる。果たしてトップに立ち、プリズムの王となるのは誰なのか……?
改めて「キンプリ」に触れて、その密度の濃さに圧倒された。
まず、メインの登場人物が多い。
主役の3人組ユニット「Over the Rainbow」の3人、速水ヒロ、神浜コウジ、仁科カヅキ。前作から登場の新人、一条シンと、謎めいた少年、如月ルヰ。
そしてエーデルローズのシンの6人の仲間たち、太刀花ユキノジョウ、香賀美タイガ、十王院カケル、鷹梁ミナト、西園寺レオ、涼野ユウ。
かつてのライバルで因縁を引きずる大人組、氷室聖、法月仁、黒川冷。
前作から引き続いてのライバル、大和アレクサンダー。
これでもう15人。この人数でまともに群像劇をやろうと思ったら、120分でも忙しく、下手をすればもの足りなくなるところだ。
それを70分でやって、バッサバッサと切り、力技でつなぐ。当然、展開が強引なところも、説明が足りないところも大いにある。
しかし、本編はそれらを気にせず突き進む。だから見ているほうの頭の中は、マジメに考えるほど「???」となる。
しかし突っ走る展開の速さに、それでいいんだと思う。というか、そう思わないとついていけない。立ち止まって考えてはいけない!
実際、この演出とテンポは、ジェットコースターに乗っているのに等しい。それも、スタートと同時にすでに最高速度にのっているヤツだ。
前作では、裸が無数に宙を飛ぶ「無限ハグ」や尻から出るハチミツ、突然始まるアフレコ劇場に初めて接してたまげたけれど、今度は2作目、こっちもそうそう同じ内容で驚かないぞと構えていると、別のところで足をすくわれる。
前半の山場、劇中のキャラクターが歌唱する「CRAZY GONNA CRAZY」が流れるシーンでは、意味深で重要な出来事が、別々の4組の登場人物の間で、同じタイミングで平行して展開していく。泣いたり微笑んだり激怒したり叫んだり愛したり殺したり、そりゃもう大変なのだ。「えっ? えっ? ええっ!?」と思っている間に、曲が終わるとすべてが終わって次のシーンに移っている。総集編か!
70分間、ずっと疾走しているようなこのペースはすごい。ストーリーを味わう、キャラクターにときめくというより、アトラクション、もしくはライブの感覚に近い。とにかくハイなのだ。
夢かうつつか。常識を力技で越えていけ!
本当に、何が起こっているのかワケがわからない。この自由闊達すぎる映像表現はなんだ? ある意味これが、1年間続くテレビシリーズで培われた「ジャパン・アニメーション」の真骨頂かもしれない。
アニメでも漫画でも使われる手法に、「イメージ背景」がある。たとえば、美しい少女のまわりに、花が出る。偉大な人物の登場に、後光が輝く。「タイガーショット」というサッカーの技の背景に、フィールドにかぶって猛獣の虎が出てくる。あるいは「なんだってー」と驚く顔の背後に流線が走る。
それはそういうものがそこにリアルに存在するわけではなく、心象風景を描いて見るものの印象を導く「あくまでイメージ」なのだ。そんなに特別な演出ではなく、スポーツものでもグルメものでも恋愛ものでも、ポップなコメディやギャグでもよく見られる。
しかし「キンプリ」では、その「イメージ」が単なる心象描写にとどまらず、画面を支配する。メインキャラを飲み込み、あふれだす。キャラクターたちはイメージと一体となって、違和感なくそれに手で触れ、乗りこなす。
見ている側も早い段階で気づかされる。これはすでに「イメージ」ではなくて、もはや「劇中のリアル」になってしまっている、ということに。
だって、おかしいのだ。ダンスバトルで起こったインパクトの表現たる爆発で、実際の会場が破壊しつくされ、観客は人質にとられ、新たなパフォーマンスのキラメキで会場が新たな姿で瞬時によみがえり、あろうことか建設費が浮いちゃった、なんてことは、物理法則的にも経済学的にもおかしい。
それを魔法とも超能力とも呼ばず、その奇妙さを積極的に肯定し押し通してくるから、しまいにはこれが地球の話かどうかすら疑わしくなってくる。
ああそうか、だから今回地球を包み込むような大技があんなに炸裂したのか。やっぱり地球の話だったんだね──って、そういうことではない!
いろんなアニメのパロディがふんだんにちりばめられているのも楽しい。ひとつネタバレすると、「魔神英雄伝ワタル」ネタにこれは!と思ったあとで、クレジットに、「プリティーリズム・レインボーライブ」のシリーズ構成・脚本をとつめた故・井内秀治氏(「魔神英雄伝ワタル」監督)の名前を見たときには、ぐっときた。
誰もが熱く、愛に一直線な姿が愛しい
映像のタガが外れていて、登場人物たちが時に熱くなりすぎる分、話は比較的シンプルだ。
アイドル性たっぷりに女性をときめかせるプリズムスタァたちが、4年に1度の祭典で「プリズムジャンプ」の技と美を競い合い、トップのキングを目指すという舞台仕立て。そう、これはスポ根だ。
そこにはパフォーマンスするよろこびがあり、上を目指す向上心があり、仲間たちとのチームワークがあり、試行錯誤と修行がある。教える者と受け継ぐ者、勝者と敗者がある。
そして、わかりやすく、誰もが誰かを愛している。それは友愛でだったり、執着だったり、敬愛だったり、性愛だったりする。
その愛の前に、思いはあらわになり、喜怒哀楽がむき出しになる。「ああ、この子はこれが強みであり、弱みなんだな」とハッキリする。そうなると、なんだかその子が愛しくなったりする。
このあたりには、「プリティーリズム・レインボーライブ」を通しで見ていないとわからないネタもふんだんに詰まっているようだ。キンプリを見て、「プリティーリズム・レインボーライブ」をこれから見たくなる人も多いだろう。
70分だから何度も見られる。ちょうどCD1枚分の長さ
通常のアニメ映画は、120分前後のものが多い。それに比べたら、6割程度の長さでこの密度というのはやっぱりすごい。
この濃さで120分の長さがあったら、胃もたれしてしまうのではないだろうか!?
映画は長いほうが内容が充実しているように思いがちだが、考えてみると70分だからいい、というところもある。
70分だから、何回も見られる。70分だから、前後編一気に見られる(この機会に、前作を上映している映画館もある)。
70分といえば、ちょうどCDアルバム1枚分の長さでもある。好きな音楽をエンドレスで聴くように、何回でも好きなだけ楽しむことができるのも、この長すぎないボリュームのためだといえるかもしれない。
密度が濃いので見落としがある。だから何度見ても新発見がある。
菱田正和監督は、もともとこの作品を二部構成で考えていた(パンフレットより)とのことで、なるほど、今作までみると、いろんな問題にひとつの決着がついている。クレジット後に登場する最後の仕掛けも実にキレイなものだ。少し寂しく感じるくらいだ。
二部作として考えると、前後編のバランスはとてもいい。特に後編では、ファンに人気のタイガに見せ場があったのはもちろん、ルイ、カケル、ユキノジョウのキャラに深みが出た。前作のプリズムジャンプでは、派手さやケレン味、バトルといってもいいパワーやインパクトが印象に残ったが、今回の華のひとつは繊細で美しく色っぽいルイのショー。じっくり見てひたりたい魅力を感じた。
アニメと対話するように観客が一斉に大声でコールをかける「応援上映」の人気は変わらない。予告からサイリウムが揺れ、制作会社のロゴに「ありがとうー!」の声が飛ぶ。
いっぽう、通常上映も静かに盛り上がっている。息を詰めて何ひとつ見逃すまいと熱中した観客は、終了と同時に笑顔で早口で、感想を勢いよく語り合っている。
声を出したい回と、全部をあまさず楽しみたい回が、分かれているように感じた。
終わったあと、こんなふうに笑顔になり、人と話したくなる映画っていいなあと心から思う。待っていたファンを裏切らない作品。今回も見る人の輪を広げながら、長く上映されてほしい。
(文・やまゆー)
(C) T-ARTS/syn Sophia/キングオブプリズム製作委員会
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