撮影監督・中西康祐 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第15回)

アニメ・ゲーム業界で活躍するクリエイターの生の声をお届けする本連載。第15回は撮影監督の中西康祐さん。「乃木坂春香の秘密」のポップでユニークなオープニングアニメーション、「バカとテストと召喚獣」や「のうりん」の絶妙なパロディ、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の躍動感あふれる魔法演出などは、中西さんの撮影技術があってこそのものだろう。旭プロダクションのアートディレクターでもある中西さんは、現在もアニメ撮影の新たな可能性を追い続けている。当記事では影響を受けた作品、経歴、仕事に対するこだわり、撮影監督に求められる資質能力、今後の目標などについて語っていただいた。

3DCGも扱う撮影監督


─このたびは「アキバ総研」のインタビューをご快諾いただき、ありがとうございます。最初に基本的な質問で恐縮ですが、アニメの撮影とはどのようなお仕事なのでしょうか?


中西康祐(以下、中西) 仕上げさんに色を塗っていただいたセル(編注:動きのある部分の作画)と背景さんに描いていただいたBG (編注:背景の作画)を合成させ、タイムシートという設計図をもとに組み立て映像にする仕事です。


─画面全体の色合いや光の調整なども撮影のお仕事と考えてよろしいでしょうか?
中西 そうですね。主にフィルター処理が多いのですが、監督からの要望に応えて夕景のための斜がけとか、回想時のセピア調などをよくやっています。影の形とか、照り返しとか、BGにセルを載せたところで初めてわかる違和感もあるので、そういったところは撮影で調整しています。


もっとも、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」シリーズ(2013~16)に関しては、ほぼフィルターを入れておらず、セルをちょっとなじませる程度に抑えています。というのも、「イリヤ」は「現実に近づけたい」というのがありまして、フィルターワークで色を変えたりするのではなく、環境光や周りの光の影響を受けるような形で画作りをしたかったんです。1カットごとにやらなければいけなかったので大変でしたが、以前から挑戦したいと思っていました。


─構図やカメラワークに対して助言されることは?


中西 アニメーターさんや演出さんが指示した通りにやることもありますし、画に力がなかったり、演出意図とずれているようであれば、こちらで直すこともあります。


─ 過去のインタビューによりますと、中西さんは「イリヤ」でシーン参考、CGエフェクト、2Dエフェクトといったお仕事をされていたとのこと。


中西 これがですね・・・この編成が特殊ということもあって、取り上げられたのが大きいんです。2Dエフェクトは昔からオーダーが多かったのですが、撮影がCGエフェクトをやることは普通ありません。この時は「撮影でCGエフェクトができれば、最終ラインでいろいろ盛れるかな」と思い、3Dさんと密に打ち合わせをして、やらせていただきました。ufotableさんの「Fate/Zero」(2011~12)でもCGエフェクトがたくさん使われていたので、それに近づける意味でもいい機会だと思い、SILVER LINK.さんに相談しました。


─ 「3DCGも扱う撮影」という考えは、今後定着しそうですか?


中西 実写やハリウッドの映画ですと、「VFX」(編注:「ビジュアル・エフェクツ」の略)というポジションがちゃんとあるのですが、アニメの撮影はアナログから始まっているので、そういうのがないんです。あいまいなままやってきたツケが回ってきたのかなと思います。


3DCGといってもリギング、モデリング、アニメーション、CGエフェクトを全部できるという意味ではありません。将来的には撮影も、コンポジッターとエフェクターに分けられるようになればいいなと思っています。


─「のうりん」(2014)では「テクニカルディレクター」となっておりますが、これはどういった役職で?


中西 これもアニメ業界のうやむやなポジションと言いますか、作品ごとで変わる肩書きでして、「スタッフロールにどう書きましょうか?」と聞かれ、僕が独自に考えた肩書きになります。撮影監督は弊社の寺本友紀で、僕はワークフローの決定やセル処理、あとはすごく重いカットを担当しています。たとえば、1話冒頭のゆかたんのライブシーンは僕のほうでやらせてもらい、音符やハートのエフェクトを制作しました。

「監督の要望+α」を目指す


─得意な表現はございますか?魔法少女ものは十八番でしょうか?


中西 魔法エフェクトは、得意になってしまいました(笑)。会社に入って初めて担当についたのが「ふしぎ星の☆ふたご姫」(2005~06)でして、その当時には珍しく必殺技が全部撮影処理で、作画がない状態だったんです。シリーズ的にも担当した期間は1年半ありましたので、変身シーンに対するアプローチとか自分なりに考えて、いろいろと試してみました。それから魔法少女もののお話をたくさんいただくようになりまして、現在に至っています。


表現としては川だったり、波打ち際だったり、水だったり、火だったり、自然にあるもののほうが実は得意だったりします。もともと大学時代にはマッドペインティング(編注:実写映像と背景画を合成する技術)に興味があったので。最近になって、「虐殺器官」(2017)というフォトリアルな作品をやらせてもらい、すごく楽しかったですね。


あと表現といいますか、「監督の要望に100%応えるというわけではなくて、+αする」というのも、売りにしています。「こうしてくれ」と言われたら、「こうですね」と応えるんじゃなくて、「こうなんですけど、こういうこともできますよ」とプレゼンできるようにしています。たまに「なんじゃこりゃ!」と言われてしまうこともあるんですけど(笑)、僕としてはそういう挑戦を常にしていきたいなと思っています。


─影響を受けた作品は?


中西 実写映画が好きでして最近ですと、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「レヴェナント: 蘇えりし者」です。撮影監督のエマニュエル・ルベツキさんが参加される作品はよく観ています。あとは、コーエン兄弟の「ノーカントリー」、クリストファー・ノーラン監督の「インターステラー」と「ダークナイト」、ミヒャエル・ハネケ監督の「隠された記憶」なんかですね。フィルムで撮っている作品も好きですし、「インターステラー」のような宇宙論とか量子力学とかも好きですね。


昔に影響を受けた作品は、フランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」、リドリー・スコット監督の「エイリアン」、デヴィッド・フィンチャー監督の「セブン」とかです。画作りのところでも、子供のころから気になっていました。「セブン」はOPの映像が衝撃的で、「こういうのはどうやったら撮れるんだろう?」と思っていました。


実写映画やマーベル作品はエフェクト制作の参考にもしています。僕も使っているのですが、「Houdini」(編注:3DCGソフトウェアの名称、「フーディーニ」と読む)を使っている作品はやはり観てしまいますね。


ピクサーの3Dアニメでは、ブラッド・バード 監督の「レミーのおいしいレストラン」が大好きで、DVDを買った時は毎日のように観ていました。日本のアニメですと、一番好きなのが大友克洋監督の「AKIRA」(1988)です。画集も拝見したのですが、「あいうえおの参考の作画がある」という時点で、どうかしていると思いました(笑)。ガラスが割れるシーンも、全部作画なのかと思うと衝撃的でした。


業界に入るきっけになった作品は、渡辺信一郎監督の「サムライチャンプルー」(2004)で、弊社・旭プロダクションの山田和弘が撮影監督なんです。白黒じゃないですけど、彩度を限りなく落としていて、かっこいいなと思いました。その後、山田さんとは「虐殺器官」でご一緒させていただきました。

─目標とされる方は? ツイッターには木船徳光さんのお名前がございますね。


中西 僕は東京造形大学の木船ゼミ出身なんですよ。当時の大学にはアニメーション専攻がなかったのですが、木船先生がアニメーションの授業をされていると聞いて、入ゼミしました。


最初のゼミでアニメスタジオを見学することになり、うかがったのがサンライズさんの「スチームボーイ」スタジオでした。入口でいきなり「AKIRA」Tシャツを着た大友監督にお会いできたのも嬉しかったのですが(笑)、そこでデジタルの画作りを目の当たりにした時には、かなりの衝撃を受けました。


画作り的な意味で目標とする人は、山田さんですね。ルベツキさんは画作りの参考にさせていただいていますが、アニメの撮影はデジタルで、実写の撮影マンのようにカメラを持つことはありません。ただ、いつかアニメをワンカットで撮ってみたいなとは思います。

─作品参加は監督からのオファーで?


中西 「乃木坂春香の秘密」(2008~09)を終えたあたりから、オファーをいただくようになりました。名和宗則監督や「乃木坂」スタッフとは今でもお付き合いがあります。大沼心監督とは「バカとテストと召喚獣」(2010~11)以来、一緒にやらせていただいています。もともとフォトリアルな作品が得意だったのですが、名和監督や大沼監督の作品に参加させていただいたことで、表現の幅を広げることができました。


アニメの撮影はデジタルになってからまだ10数年しか経っていないので、どこまでできるのか手探りの状態なんです。なので、常に何か課題を出して、今できていないことを終わったころにはできるようにしています。女性向け作品などもお話があれば、やってみたいですね。

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