ホビー業界インサイド第25回:タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店から見える“模型趣味の現在形”

東京・新橋と聞いて、どんなイメージが思い浮かぶだろうか? 超高層オフィスビルの汐留シティセンター、昭和の香りを残すニュー新橋ビル……右を向いても左を向いても、ビジネスの街、サラリーマンの街である。
そんな新橋駅から歩いて数分のところにある「タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店」は、交通量の少ない赤レンガ通りに面した、落ち着いたたたずまいの店舗だ。1階はプラモデル、地階はRCカーとミニ四駆が並べられ、2階は多目的イベントスペースになっている。
客層は中高年が多いと思いきや、お母さんに連れられた小学生の姿も見かける。それにしても、なぜ新橋に模型店があるのだろう? ストアマネージャーの半谷孝道さんにお話をうかがった。


子供のころ買えなかった模型と「再会」できる場所


──「タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店」さんは、タミヤの直営店なのですか?

半谷 いえ、タミヤの子会社が運営していまして、直営店というわけではありません。私はタミヤ社員として、当店に出向している形です。「タミヤ プラモデル ファクトリー トレッサ横浜店」さんも、当店とはまた別の業者さんが屋号を借りて運営しています。もちろん、お互いに情報交換して、協力しながらお店を盛り上げています。


──新橋に模型の専門店を出すことは、どなたが決めたことなのですか?

半谷 今年5月に逝去されてしまった田宮昌行社長です。私も何軒か模型店で働いてきましたが、新橋にお店を出すと聞いたときは「ええっ?」と驚きました。やはり、サラリーマンの街というイメージがあったからです。しかし、昌行社長は「すでに模型文化が根づいている、タミヤが認知されている場所にアンテナショップを出しても意味がない」という意向でした。かつてタミヤの模型を作っていた人たちに、もういちどタミヤを思い出してもらう。もしくは、タミヤの名前は耳にしたことはあるけど、はっきりとは認識していない方たちにアプローチしたい。それがコンセプトでした。オープン初日に、すぐに昌行社長の意図がわかりました。入ってきたお客さんが「うわ、懐かしい!」とおっしゃるんですよ。模型店で働いてきて、初めて耳にした言葉でした。
なぜなら、模型店に来る方は、現在進行形で模型を作ってらっしゃる方であって、「今日は○○を買いに来た」と目的をもって来店しますよね。ところが、当店のオープン日に来た方は「懐かしい」とおっしゃる。昌行社長の目指していた「模型の復帰組をもう一度、しっかりキャッチできる場所」が、まさに新橋だったわけです。

──店内のインテリアも、大人向けでシックですね。

半谷 そうですね、我々としては買ってもらうことより、とにかく間近で模型を見てもらうことに重点を置いています。手にとって箱をあけて、匂いまで含めて商品を感じてもらいたい。ですから、有名なモデラーさんが制作したジオラマを展示したり、バイクのプラモデルの発売前には、店内に実車をディスプレイしたり、“見ていただく”ことに力を入れています。ここに来れば、ずらりとタミヤ製品が並んでいますが、見て確認して、あとは別の店舗や通販で買われても構わない……というスタンスです。


──お店に入って「懐かしい」と言ったお客さんは、かつてプラモデルを作っていた人たちですよね?

半谷 そうです。タミヤの商品群は、年代別にきっちり分かれていまして、ミニ四駆は20~30代後半ぐらい。30代~40代中盤ぐらいまでは、RC(ラジオコントロール)カー。40代~70、80代の方たちはスケールキット、プラモデルを作られている方たちです。新橋店に来られて「懐かしい」とおっしゃるのは、30~70代の層ですね。
もうひとつ、「懐かしい」という言葉を引き出す要因は、当時のタミヤ製品がまだ現役で売られていることです。微妙な金型の修正があったり、ちょっと値段が上がったりはしていますが、当時のボックスアート(箱絵)のまま、現行商品として売られています。「昔は買えなかったけど、今なら、ちょっとお酒を我慢すれば買える」――それに気がついてもらえるのも、新橋という場所ならではかもしれません。

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