アニメ業界ウォッチング第35回:カップヌードルがCMで「魔女の宅急便」をアニメ化した理由

カップヌードル「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」のCMが2017年6月19日にオンエアされはじめてから、ちょうど1か月が経過する。17歳になった「魔女の宅急便」のキキとトンボが主人公で、舞台は日本である。漫画家の窪之内英策氏によるキャラクターは大人びた雰囲気で、緻密に描きこまれた背景は写実的。桜並木、プール、花火、雲間からさす薄日……とシズル感のある豊かな絵づくりに、誰もが感嘆したことだろう。
しかし、そもそもなぜ「魔女の宅急便」が選ばれたのだろう? なぜアニメーションでCMを作ることになったのだろう? 日清食品ホールディングス・宣伝部主任の岡崎俊英さんにお話をうかがった。


原作とも過去の映像作品とも違う“パラレルワールド”


──今回のCMはアニメーション映像ですが、最初から「アニメのCMをつくろう」と決まっていたのでしょうか?

岡崎 いえ、最初から決まっていたわけではありません。「今年のカップヌードルのCMは、このような内容を考えています」というオリエンテーションの結果、あがってきた企画の中から選ばれたのが、たまたまアニメCMの企画だったのです。

──「魔女の宅急便」の原作本のうち、第四巻「キキの恋」をベースにしているとうかがったのですが?

岡崎 それについては、少し説明が必要ですね。電通のクリエイターである佐藤雄介さんと打ち合わせを重ねて「すべての人に青春はある」というテーマのもと、まだ誰も知らない青春をパラレルワールドで描くという企画に決めました。その第一弾として「魔女の宅急便」を題材に選ばせていただきました。原作本の第四巻で、17歳に成長したキキの恋を描いていたのが、着想の大きなヒントになっていたのは確かです。企画は「もし、あのキキが現代の日本に暮らす高校生だったら?」という「if」の世界ですので、原作者の角野栄子さんと打ち合わせしながら17歳のキキのイメージや、プロットを固めていきました。たとえば、原作のキキとトンボは遠距離恋愛のような状況ですが、今作では同じ学校に通っている設定にするなど、原作にも過去のアニメ化作品や実写化作品にもない独自のシチュエーションに挑戦しています。ですので、まったく新しい「魔女の宅急便」、原作本から生まれた一種のアナザーストーリーとお考えください。


──キャラクターデザインの窪之内英策さんは、どういう理由で選ばれたのでしょうか?

岡崎 今回のCMのテーマが「青春」だったので、そのテーマにふさわしい画風の方を探しました。窪之内さんは漫画「ツルモク独身寮」でブレイクされた方ですが、現在もイラストレーターとして若い女性のファンも多く、老若男女問わず受け入れていただけると思いました。ただ、鉛筆の繊細なタッチが持ち味の方なので、アニメにするとき、窪之内さんのキャラクターデザインを崩さず、ベタッとした質感の絵にならないよう、制作現場は苦労したと聞いています。


──すると、アニメ化しやすい絵柄かどうかはさておき、キャラクター原案を窪之内さんに決めて、それから制作会社を探したということですか?

岡崎 同時進行でアニメの制作会社も探していたのですが、今回は非常に制作スケジュールがタイトでした。そのスケジュール感の中で、高いクオリティを維持できるタツノコプロさんがベストという結論にいたりました。

──非常にクオリティの高い映像に仕上がっていますが、ディレクターの柳沢翔さんは、アニメ専門の方ではないんですね。

岡崎 柳沢さんは、油彩画家としても活動していた、アニメにも造詣が深い第一線のCMディレクターです。クリエイティブディレクター兼CMプランナーの佐藤雄介さんが企画の部分を固め、柳沢さんが現場で具体的な演出を決めていきました。

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