【犬も歩けばアニメに当たる。第32回】「徒然チルドレン」泣き笑いの恋にじれじれ萌えるラブコメ・メリーゴーラウンド

心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。

今回ご紹介するのは、7月からスタートした「徒然チルドレン」。どこにでもいるような高校生たちの、さまざまなかたちの恋とトキメキをつづったラブコメ群像劇です。

特別なことなんて何もないのに、すべての瞬間が特別。力が入りすぎて真剣でこっけいで泣けてきて、キュンとする。そんな等身大の恋模様が、次から次へと展開されます。

原作が好きでアニメ化を楽しみにしていた筆者が、魅力をご紹介します。


登場人物のほぼ全員が恋愛中、しかも相思相愛……だと!?


このアニメは、前知識なく見始めるとびっくりするかもしれない。

登場人物のほぼ全員が恋愛中、しかもどれもが「おまえら、付き合っちゃえよ!」と後ろから蹴っ飛ばしたくなる相思相愛なのだ。

告白、ドキドキ、赤面、じれじれ。大きな事件はほとんど起こらない。でも、気になる相手の前では言葉のやりとり1つひとつがドラマチック。時には涙も見せるけど、1つひとつは決して重すぎない、日常のひとコマ。それが、延々続く。まるでラブコメのメリーゴーラウンドだ。

ジェットコースターのように、勢いよく上がったり落ちたりはしない。穏やかにゆるやかに上下しながら、回っていく。

ぐるぐる回るのを見ているうちに、同じ顔ぶれと再会することに気がつく。彼らの関係は、登場するたびに少しずつ深まって、変わっていく。

それぞれが、長編ラブコメの主人公にもなれそうでいて、それほど特別ではない。どんなクラスにも、似たタイプの子を知っている、と思える。

きっと誰でも、「このふたりが好み」「見ていて楽しい」「思わずキュンとした」「わかる」と、気持ちがのっていくふたりがいるだろう。


特別なことはないのに、恋をしたら毎日が特別


たとえば、感情表現に乏しい高野千鶴と、彼女が気になっている菅原卓郎。

千鶴は自己評価が低くて、菅原を「いい人」と思っているが、自分が好かれていることには気づいていない。菅原はかなり押しているのだが、千鶴に違うほう違うほうに勘違いされて、ガックリしてしまう。実は千鶴も、ちょっとだけ菅原のことが気になっているのだが、何も言わない。この果てしない距離を、ふたりは詰めることができるのか?

たとえば、寡黙なスポーツマン剛田武と、内気なもじもじ屋の上根綾香。

なかなか思ったことが言えないいっぽうで感情が突っ走ることもある綾香と、鈍感だが誠実な剛田は、たがいに異性が何を考えているかなんてさっぱりわからない。あっさりつきあいはじめるけれど、思い込みや誤解からのすれ違いもあってあぶなっかしい。しかしなかなかこれがどうして、幸せカップルになっていくからおもしろい。恋は人を成長させる。

たとえば、どう見ても相思相愛なのに、なかなか告白までたどりつけない高瀬春彦と神田沙希。

あと一歩を詰められない高瀬と沙希は、スマホでがっつりメッセージし合う間柄なのに、告白だけがどうしてもできない。今の関係が壊れるのを恐れてもいるし、とにかくタイミングが悪い。何につけてもタイミングは大事だ。間が悪くして失敗したことのある人間は「わかる……」とトラウマを刺激されてしまいそう。

片思いでも両思いでも告白でもキスでも、恋のありようなんて100人いれば100通り違う。どんなかたちが幸せかなんて、ふたりが探っていくもので、正解なんてどこにもない。
普通でもいいし、ちょいマニアックでもいい。どんどん関係が進むかもしれないし、ゆっくりでもいい。

「みんな違ってみんなイイ」を体現しているのが、「徒然チルドレン」のいろんな「ふたり」たちなのだ。


恋は人を変える。恋はドラマチック!


ネタ的にキャッチーでおもしろいカップルもいる。

たとえば、生徒会長の赤木正文と不良娘の梶亮子。

赤木はSで変態チックで、いっぽうの亮子は意外に純。つきあいは、亮子の弱みをにぎった赤木がキスを迫って……という、かなり人非人な始まり方をする。しかし、以前から亮子が気になっていた赤木は、意外な方向に亮子を変えていく。筆者が一番応援しているカップルでもある。

たとえば、自分をブ男だと思っているオタクの山根隆夫と、彼に好意を持つ栗原ちよ。

ふたりの恋は、乗り物の中で山根がちよを迷惑好意から助けたのがきっかけという点で、「電車男」に似ている(古いか)。山根はちよにどんなに好意を向けられても、現実を認められない。もしマジにとったら、やっぱり現実に裏切られたときにどん底に落ちるから、予防線を張っているのだ。劣等コンプレックスというのは恐ろしい。目の前にとびっきりの宝物があるのに!

恋をしたら、毎日が特別になる。自分が変わる。
毎日って、トキメキの積み重ねだ。だから恋はすばらしい。
そんなふうに、したこともないのに、したかもしれないような恋の話が、ぐるぐると回って展開されていく。


クラスメートのように、恋の進展を見守りたい


原作は、読み切りのWeb4コマ漫画としてスタートした。最初はネタと笑いとインパクト重視だったのが、次第にキャラクターとドラマが育ち、世界観ができてストーリー漫画化していった。

Webで無料で読める作品だが、コミックで読んでもおもしろい。Web公開の続きのエピソードも、コミックでは読める。

アニメ序盤はそうした原作の中から、ストーリー性のあるカップルを中心にセレクトしている。

モノクロの漫画だと若干区別がつきにくかった男子生徒たちは、アニメで色がついて個性が立つようになった。

コマとコマの間がスパッと切れていて、コマ間のリズムが心地いいのが原作。いっぽうアニメは、音楽と間合いでていねいに1つひとつのセリフがつながれて、空気感が味わえるのが魅力だ。

目で読んでいたセリフに声がつくと、気恥ずかしさが加速する。

進展していくラブストーリーは、ついつい先が気になる。
告白は一大クライマックスだが、告白して終わりではない。いやそこからが始まりで、付き合いはじめてからがまた大変なのだ。

ひと言を言ったり言わなかったりして、それに反応があったりなかったり。それを受けてまたドキドキしたり、気をそらされたり、落ち込んだり……そうして、ときには特大級のハッピーがやってくる。

もう学生時代なんて記憶の彼方に置いてきたオトナが、「青春っていいなあ」とノスタルジックに楽しむもよし。クラスメートみたいな「ねえ、なんでおまえら付き合わないの!?」と、ニヤニヤ、じれじれ、あきれながら見守るもよし。

気づけばあなたも、ゆるやかでハッピーなメリーゴーラウンドを、ずっと見ていたくなっているかもしれない。


(文・やまゆー)


(C) 若林稔弥・講談社/徒然チルドレン製作委員会

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