子安秀明 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第16回)

本連載はアニメ・ゲーム業界の現場の声を、余すところなくお伝えしている。第16回は子安秀明さん。子安さんはさまざまな媒体で活躍しているが、アニメでは「夜明け前より瑠璃色な」、「みなみけ」、「ゆるゆり」、「干物妹!うまるちゃん」、「ガヴリールドロップアウト」などの脚本でファンに知られている。自身がシリーズ構成を務めた「ぬらりひょんの孫〜千年魔京〜」、「GJ部」、「三者三葉」では、全話数の脚本を執筆するという偉業を達成。2015年には自身のライトノベル「ランス・アンド・マスクス」もアニメ化され、話題となった。当記事ではアニメ脚本の経歴、書くことへのこだわり、心構え、今後の抱負などについてうかがった。

脚本で投げ、監督・プロデューサーが止める


─日々の執筆でお忙しい中、まことにありがとうございます。多方面で活躍されている子安さんですが、アニメ脚本の執筆で意識されていることは何ですか? 実写映画では「語るな、見せろ」テクニックというのがあるそうですが。


子安秀明(以下、子安) 表現や描写は監督さんや演出さんの仕事ですから、あんまり口を出さないようにしています。ある意味、自分が一番書けるところがセリフです。多過ぎたら現場なり絵コンテなりで削っていただけますが、逆は大変ですからね。


─注釈を付けてプロットや脚本を提出される作家さんもいらっしゃるようですね。


子安 自分の場合は「これは無理だろう」というのも、思いついたものはとりあえず投げてみます。こっちは「投げる」役割であって、「止める」のは監督さんや制作プロデューサーさんにお任せしています。暴投することも多々あるんですけど(笑)。


─原作付きの作品はその魅力を引き出すことが重要になってきます。原作設定を変更せざるを得ない場合、どのような点に気を付けられますか?


子安 「GJ部」(2013)では男性キャラを京夜1人にすることにしましたが、基本的には変えないようにしています。変えるのではなく、どこを見せるかということです。


─脚本会議では監督以外に、原作者の方とも話をされるのでしょうか?


子安 その時々によります。

原作者でも改稿、アニメは監督の作品

─改稿はどのくらいされますか?


子安 3稿ぐらいは出しています。1発で決まると、逆に不安になっちゃいますね。


─ご自身原作の「ランス・アンド・マスクス」(2015)でも改稿を?


子安 もちろんです。アニメはイシグロキョウヘイ監督の作品ですから、「ここをこうしてほしい」と、いろいろご指摘をいただきました。


─得意分野はございますか? 美少女ものや日常もの作品への参加が多いようですが。


子安 意識しないようにしています。「自分は〇〇が得意」なんて決めつけが、書いているものを強張らせてしまいますし、勘違いも多いんですよね。なので、最近は「何が得意かわからないけど、周りがそう言うなら書いてみよう」という感じでやっています。


─子安さんは千葉大学文学部史学科を卒業されていますが、歴史ものは昔からお好きなのですか?2014年には「双燕の空」という、オリジナルの時代小説も書かれています。


子安 時代小説は初めてだったので、時代小説っぽくしようと意識して書きました。でも、意識すると、何をやるにしてもわざとらしくなっちゃうんですよね(苦笑)。


─小説とアニメでは、やはり書くことも異なってきますか?


子安 小説は内面書きたい放題ですからね。アニメでそんなに書いたら、さすがに怒られます。あと、小説に比べて、アニメは止まったままだと成立しないので。


─キャラクターの掛け合いで気を付けられることは?


子安 ドラマCDはキャラが多すぎるとわけがわからなくなっちゃうので、昔は気を付けていました。今はあまり意識せず、現場におまかせしています。


─昔と今でお仕事のやり方に違いがあるということでしょうか?


子安 自分でやろうとすることを減らしている気がしますね。「自分が正しいんだ、こういう技術が正解なんだ」というのは怪しいなと最近はよく感じています。


─キャラの仕草や演技でこだわっておられることは?


子安 お姫様だっこが好きなので、隙あらば入れています(笑)。男性キャラや自分より体の大きな相手をだっこしたりすると、おもしろいんですよね。


─アフレコにも参加されますか?


子安 その時々です。

流行に左右されない話を作る

─影響を受けた作品はありますか?


子安 なるべくものを知らないようにしておきたいので、観ないようにしています。観ると引っ張られちゃうじゃないですか。周りが知っていることは、周りに聞けばいい。知らないことのほうがおもしろいなって。そうなると、流行と全然関係のない話ができあがるわけです。


─「ランス・アンド・マスクス」もそうした手法で生まれた作品ですか?


子安 アイデア自体は昔からあって、ラノベの話が来たので「これどうですか?」と投げてみたら、企画に乗ったという感じです。


─子安先生の作品には、家族的な温かさを書かれた作品が多いように感じます


子安 意識したことはないんですけど、自分で見返すと、そうなっているなと思うことはありますね。


─ご自身の創作とは関係なく、記憶に残る作品はありますか?


子安 その時々で違うんですが、村上春樹先生のエッセイは好きですね。
初めて買ったライトノベルは、あかほりさとる先生の「NG騎士ラムネ&40EX ビクビクトライアングル愛の嵐大作戦」でした。あの頃のラノベはおもしろかったんですよ。「ロードス島戦記」や「スレイヤーズ」も、世代だったので読んでいました。


漫画は富沢ひとし先生の「エイリアン9」を読んで、頭をぶん殴られるような衝撃を受けました。映画だと、ブライアン・デ・パルマ監督の「ファントム・オブ・パラダイス」がおもしろかったですね。「こんなスピードで進めちゃうんだ」と驚きました。


─目標とする方はいらっしゃいますか?


子安 作品は作品で楽しみますけど、目標にはできません。たぶん真似しても同じようには絶対になれないですし。まあ、せっかく自分がいるんだから、自分をそのまま楽しもうかなと。

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