名作アニメ「聖戦士ダンバイン」スペシャルトークショーレポート! 二大アニメクリエイター・湖川友謙&出渕裕が濃厚トーク

サンライズ作品をセレクション上映するイベント、「サンライズフェスティバル2017翔雲」が新宿各所の映画館で開催中。2017年8月19日(土)には、テアトル新宿にて「聖戦士ダンバイン」のオールナイト上映が行われた。「ダンバイン」は1983年に放映されたロボットもののテレビアニメ。ファンタジー世界を舞台に展開する骨太の物語、昆虫をモチーフにしたロボット兵器・オーラバトラーなど、当時においても非常に革新的かつ挑戦的作品だった。

本日のプログラムでは、キャラクターデザイン担当の湖川友謙さんとメカニカルデザイン担当の出渕裕さんを招いたスペシャルトークショーも併せて開催。途中、湖川さんのライブドローイングも交えつつ、1時間たっぷり話をしてもらうという趣向だ。ここではそのトークショーの様子をレポートする。


もっとかっこよかった!? ビルバイン制作秘話


22時、MC担当のアニメ研究家・氷川竜介さんの呼び込みで、湖川さんと出渕さんが拍手と共に登壇。まずはお2人の出会いについてからトークはスタートした。なんでもお2人が初めて共に参加した「戦闘メカ ザブングル」(※ダンバインの前番組)では、接点がほとんどなかったとか。いっぽう「ダンバイン」では、出渕さんと湖川さんで、中盤以降のメカ部分の世界観作りをある程度分担して行っていたという。(※当初メカニカルデザインを担当していたのは著名なメカデザイナーの宮武一貴さんで、出渕さんは宮武さんが諸事情により降板したあとの後任だった)

湖川さんはそのセンスと才能を見込まれてか、富野由悠季監督からキャラクターデザインの枠を超える注文をあれこれされていたそうだ。ちなみに主人公が搭乗する2台目のオーラバトラー「ビルバイン」のメカデザインも湖川さんが手がけたが、最初に出した案(とてもかっこよかったと出渕さんも太鼓判を押していた)は、富野監督から「オトナの趣味」と言われて却下されてしまったらしい。
またビルバインのデザインについては、玩具会社もからんだ事情もあったという。「ダンバイン」の曲線主体の生物的フォルムは、当時角張ったデザインが主流だった業界では非常に斬新だったが、玩具会社からはもっと玩具っぽいものが望まれていたとのこと。その結果、作中唯一の可変式で玩具向きデザインのビルバインが生み出されたのだそうだ。


また湖川さんといえば、「伝説巨神イデオン」におけるアフロヘアの主人公、鼻や顎の下を黒く塗る特徴的な影の入れ方など、大胆なデザインをすることでも有名。ご本人いわく、それらは全部実験だったとか。影のベタ塗りは、鼻や顎の下をうまく描ける人がいなかったから、黒くすればごまかせるかもと思ってやってみたらしい。だが、結局それでも鼻の穴は見えてしまい、「失敗だった」と湖川さん。現状に満足しないプロの熱意と研鑽ぶりがうかがえるエピソードだ。



質感あるイラストストーリーが後日談的OVAに転生


湖川さんの職人的挑戦の数々、「ダンバイン」の音楽についてなど話題は移り変わり、トークショーも後半。湖川さんによるライブドローイングが開始され、その間、氷川さんと出渕さんは本日上映予定のOVA版について話すことに。OVA制作に出渕さんが参加したのは、当時出渕さんがバンダイ出版の雑誌「B-CLUB」で連載していた、「ダンバイン」を題材にしたファンタジックなイラストストーリー「AURA FHANTASM」がきっかけだったという。それを見た滝沢敏文監督(※「装甲騎兵ボトムズ」「ダーティペア」などに参加したアニメ監督・演出家)から、「これでOVAをやりたい」と言われたのだとか。


出渕さんは絵画調の作品をアニメでやるのは無理ではないかと思ったそうなのだが、ハーモニー処理(※美術スタッフによる背景素材を、セルに転写・貼り付けてアニメーションさせる技法)で質感を出して、こだわってやりたいと話され、関わることになったのだそう。ちなみにストーリー的な部分には、あくまでも大まかなイメージアイデア提供をした程度に留まったようだ。


ところで実はショーの間、壇上のテーブルには近日発売予定である羽根を広げた「ズワァース」(※敵方のオーラバトラーのひとつ)のフィギュアが、どーんと鎮座していた。このズワァースは悪役らしさを出すために、特別にドラゴン的な羽根を付けたという機体。出渕さんのファンタジー好きな面がよく出ている造形といえるだろう。


そんなこんなのうちに、湖川さんは鮮やかな手腕で合計5枚のイラストを完成! じゃんけん大会で来場者たちに絵を渡したところで、ちょうど時間切れとなった。湖川さんのあくなき実験・職人的アニメーター魂と、出渕さんの独特のセンスによるビジュアルイメージ。それらの出会いが、ロボットアニメ史において特異な魅力を「ダンバイン」に持たせたのだと感じられる、実に濃密なトークショーだった。



(取材・文/遠藤智子@TRAP)

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