沈黙を統べる魔力と、王国の再誕!「アニサマ2017」初日後半戦レポート

2017年8月25日~27日、世界最大のアニメソングの祭典「Animelo Summer Live(アニメロサマーライブ:通称「アニサマ」) 2017 -THE CARD-」がさいたまスーパーアリーナにて開催された。今回は初日後半戦を、注目ポイントにフォーカスしながらレポートしていく。

⇒1日目前半の様子はこちらの記事でご覧になれます。


近年、バンドと二次元コンテンツの融合が花盛りだ。先日日本武道館に到達した「BanG Dream!」や、バンドサウンドと音楽性が声優キャストの歌声の新たな可能性を引き出した「覆面系ノイズ」など、タイトルをあげれば枚挙にいとまがない。
「声優キャスト自身がバンドとして演奏する」というスタイルの源流を探ると、2000年以降では2009年のアニメ「けいおん!」に行き当たるのは言うまでもない。だが楽器を繊細に演奏する描写や、音楽とシンクロした動きの描写で京都アニメーションの評価を高めたのは、2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」のED「ハレ晴レユカイ」のダンスであり、挿入歌「God knows...」のライブ描写だった。


「涼宮ハルヒの憂鬱」から「けいおん!」を経て生まれたあまたのバンド作品。SOS団のサプライズライブからスタートしたアニサマ初日の後半戦トップバッターが、ガールズバンド系2.5次元コンテンツの最新形である「BanG Dream!」だったのはとても興味深い。


特記すべきは、アニサマのステージに立ったのがスマホゲーム「ガールズバンドパーティ」発のバンド・Roseliaだったことだ。アニメやさまざまなコンテンツで中心に描かれてきた「Poppin'Party=ポピパ」の物語が、数年の時間をかけて日本武道館という舞台に結実したのと並行して、Roseliaはポピパのライブゲスト、duo MUSIC EXCHANGEでの単独公演、同公演の圧倒的な入場倍率を受けての有明コロシアム追加公演と、ファンの圧倒的な支持を受けて道を切り開いてきたのである。スクリーンに紫の薔薇の刻印が印された瞬間に会場にあふれた圧倒的な期待感が、Roseliaの出演がファンの熱烈なる後押しを受けたものであることを実感させる。
さいたまスーパーアリーナの最後方まで貫くようなボーカルを放つ相羽あいなさんに、遠藤ゆりかさんと工藤晴香さんが左右から寄り添うようにベースとギターを奏で、バックから櫻川めぐさんと明坂聡美さんが、さいたまスーパーアリーナの音と光を心から楽しむかのように音を刻む。楽曲と演奏が創り出す世界観の確かさと、MCからにじみ出る5人の仲のよさと人柄とのギャップが彼女たちの魅力かもしれない。


わずか4日の間をあけて行なわれたポピパ日本武道館公演とRoseliaのアニサマ出演はカードの裏表。ポピパの武道館を客席から見つめたRoseliaのメンバーがモチベーションと熱量を高めたように、今日Roseliaがさいたまスーパーアリーナを紫に染め上げた光景は、きっとポピパにとっても大きな刺激と糧になるはずだ。


初日のオープニングを飾った「ハレ晴レユカイ」は、キャラクターが楽曲に合わせてダンスを踊るMVのようなエンディング映像でも話題となり、現実のSOS団のダンスも可能な限り映像を再現している。実写に近い、あるいは実写の動きを取りこんだMVを制作し、そのMVのダンスと現実の声優キャストの動きをシンクロさせて、次元の境界を越えたステージを現出させたのが「ラブライブ!」の初代μ'sだった。
それを思えばアニメソングの歴史の大きな流れの中では「ラブライブ!サンシャイン!!」のAqoursもまた「涼宮ハルヒ」からの流れの中にある、最新最高の形のひとつではないかと個人的には思う。


それにしても素晴らしいのは、エンターテインメントとしてのAqoursの強度だ。スクリーンには「Aqoursスーパーライブ」と表示されていたが、まさにそこはAqoursの世界。
「ラブライブ!」のステージは物語を共有することでより感動を増すものだと思うが、ツアーの中で磨き上げられたAqoursのパフォーマンスは彼女たちをよく知らない誰かが見ても、そのかわいさとキラキラに心奪われ、ひとりひとりの向こうにキャラクターを見るだけのパワーがあったと思う。アニサマ初日のトリを務めたGRANRODEOもまた、笑いを交えながらもAqoursのパフォーマンスを絶賛していた。


客席も含めたアニサマという空間の素晴らしさを感じたのが、早見沙織さんのステージだった。Roseliaのステージでも感じたのだが、「BLACK SHOUT」や「LOUDER」の曲中には、盛り上げどころをより劇的にするための、一瞬の空白の溜めがある。その真空の時間を2万数千人の観客が共有して守ることで、その後より鮮烈な体験が待っていることを客席が肌で知っているのである。一色に染まる光の海に目が行きがちだが、こうしたところにもアニサマの客席の素晴らしさを感じる。


早見さんのステージに話を戻そう。アコースティックバージョンの「Installation」はどこまでも深く、深く入りこんでいくような表現だ。そのボーカルの間に落ちる沈黙が……長い! 早見の「ふう……」という吐息すら響く緊張感に満ちた空白に客席がたっぷり息を呑んだ後の圧巻の歌い上げ。「あなたは宇宙の引力」というフレーズがあったが、まさに「早見沙織」というアーティストの宇宙に引きずりこまれるようなパフォーマンス。さいたまスーパーアリーナという空間そのものが早見さんに呑み込まれた瞬間だった。竹内まりやさん作曲の「夢の果てまで」は大正浪漫漂うあたたかい歌声で、早見さんの引き出しの多彩さを感じさせた。


前半戦のレポートで茅原さんの原点のひとつが「雪、無音、窓辺にて。」だと記したが、それだけに彼女のステージの1曲目がこの曲だったのには鳥肌がたった。締めの「Paradise Lost」は茅原さんの魅力がもっともストレートに伝わる楽曲のひとつ。ゴンドラで会場を巡りながらの力強く、客席全体とコミュニケーションしながらのパフォーマンスは今の「茅原実里」ならではの表現だった。
また、このステージではSOS団再集結の経緯や想いを語ったのだが、限られた時間の中に思いの丈をしっかりとこめて、誠実に語った言葉に、パフォーマンスだけでなく人間・茅原実里としてもより深みと魅力を増した存在になっていることを再確認した。


終盤戦は、FLOWからGRANRODEOへとつながる怒涛の流れ。2013年にアニサマに初出場したFLOWだが、「GO!!!」の絶対的な盛り上がりをみれば今やアニサマの夏に欠かせない存在となったのは明らかだ。
ステージではFLOWから、12月21日に日本青年館でアニソンオンリーライブ「FLOW THE CARNIVAL 2017 ~アニメ縛り~」を開催することが告知された。FLOWは10月8日に徳島マチ★アソビでライブを行なうことも発表しており、今年後半はアニソンの担い手としてのFLOWにも要注目だ。


2014年のオープニングでもコラボしたFLOW×GRANRODEOだが、この組み合わせといえば、コラボユニットで担当したTVアニメ「七つの大罪」のED「7 -seven-」だ。これしかない楽曲で最後のバトンを受け取ったGRANRODEO。アニサマを最初期から知る、アニサマを象徴すると言ってもいい2人が、「Glorious days」「move on! イバラミチ」という2017年最新のGRANRODEOを見せたのは、歩み続けるアニサマの初日ラストを締めくくるのにふさわしかった。


だがあえて、今回の記事の締めは「ゆかり王国」の姫・田村ゆかりさんの帰還について書きたい。田村さんは2014年以来、3年ぶりの待望のアニサマ出演となった。前半戦、OxTとコラボした「バラライカ」の時点で盛り上がりも圧倒的だったが、後半戦ソロのステージで彼女が登場した時の会場の歓喜の爆発たるや。黄色いドレスを身にまとった「田村ゆかり」という存在は、満場のファンの愛と歓喜と熱を受けた時、本当に世界一かわいい存在になる。それは彼女だけが持つオリジナルな魔法だ。
アニサマとゆかり姫といえば、盟友・motsuさんの存在も欠かせない。“秘密の扉を通って”登場したmotsuさんと姫、そして“おまいら”は、声をひとつに「You & Me」を熱唱したのだった。

アニソンとひとくくりに言っても、年齢や世代、性別、ジャンルによってライブの楽しみ方や盛り上がり方はさまざまだ。だが、田村さんのステージでは客席がピンク一色に染まり、万民が声を枯らし、PPPHのリズムに支配される。
それは、時代を超越した熱。アニソンファンの身体には、ピンク色の血液が脈々と流れている。


【取材・文:中里キリ】

【お詫び】(8/31修正)
※初掲時、「覆面系ノイズ」のタイトルを「覆面ノイズ」と記載しておりましたが、正しくは「覆面系ノイズ」でした。「SOS団」の表記について、「S.O.S団」と記載しておりましたが、正しくは「SOS団」でした。FLOWの楽曲を「Go!!!」と記載しておりましたが、正しくは「GO!!!」でした。お詫びして訂正いたします。


●「Animelo Summer Live 2017 -THE CARD-」
2017.08.25.初日後半セットリスト
M22:BLACK SHOUT/Roselia from BanG Dream!
M23:LOUDER/Roselia from BanG Dream!
M24:Break your fate/西沢幸奏
M25:帰還/西沢幸奏
M26:空色デイズ/西沢幸奏×鈴木このみ
M27:Installation(Acoustic)/早見沙織
M28:夢の果てまで/早見沙織
M29:秘密の扉から会いにきて/田村ゆかり
M30:You & Me/田村ゆかり feat. motsu & おまいら
M31:青空Jumping Heart/Aqours
M32:HAPPY PARTY TRAIN/Aqours
M33:恋になりたいAQUARIUM?ユメ語るよりユメ歌おう/Aqours
M34:雪、無音、窓辺にて。/茅原実里
M35:SELF PRODUCER/茅原実里
M36:Paradise Lost/茅原実里
M37:INNOSENSE/FLOW
M38:WORLD END/FLOW
M39:GO!!!/FLOW
M40:7 -seven-/FLOW×GRANRODEO
M41:Glorious days/GRANRODEO
M42:move on! イバラミチ/GRANRODEO
M43:The Other self/GRANRODEO
M44:Playing The World/アニサマ2017出演アーティスト


(C)Animelo Summer Live 2017/MAGES.
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