作曲家・橋本由香利 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第17回)

本連載はアニメ・ゲーム業界の一流クリエイターにスポットを当て、彼らの素顔を紹介している。第17回は作曲家・編曲家・作詞家の橋本由香利さん。橋本さんは主題歌、キャラクターソング、劇伴で琴線に触れる数々の名曲を生み出し、音楽面から日本アニメの発展を支えてきた。参加作品は「らき☆すた」、「さよなら絶望先生」、「ストライクウィッチーズ」、「とらドラ!」、「生徒会の一存」、「おとめ妖怪 ざくろ」、「THE IDOLM@STER」、「まよチキ!」、「輪るピングドラム」、「ささみさん@がんばらない」、「月刊少女野崎くん」、「ユリ熊嵐」、「おそ松さん」、「3月のライオン」、「ひなこのーと」など、いずれも傑作ぞろいだ。当記事では影響を受けた作品、創作スタイル、キャリア、今後の挑戦についてたっぷりと語っていただいた。

核となるのはヨーロッパのインディー音楽

─このたびはアキバ総研のインタビューに応じてくださり、まことにありがとうございます。最初に、橋本さんが影響を受けた作品を教えていただけますか?


橋本由香利(以下、橋本) 昔から80~90年代のヨーロッパのインディーレーベルがすごく好きで、実際の音楽制作で影響を受けたのは、ネオアコと呼ばれるジャンルのものが多いです。


バンド名をあげると、ザ・サンデイズ、ステレオラブ、フレーミング・リップス、エヴリシング・バット・ザ・ガール、レーベルだと、ベルギーのクレプスキュールやクラムドディスク、イギリスの4AD(フォーエーディ)やél(エル)というのが、今自分が得意としている音楽の核になっている気がしますね。


─映像作品ではいかがでしょうか?


橋本 実はハリウッド映画はあまり観ていなくて、ヨーロッパ、特にフランスの映画をよく観ていました。監督で言うと、ダニエル・シュミット、ジャン=ジャック・ベネックス、レオス・カラックス、エリック・ロメールがすごく好きです。音楽がメインになるような映画ではないので、サウンド的に影響を受けたかといえば、そうでもないかもしれないです。バンドの音楽を聴くのが好きだったので、映像音楽を意識して聴くことはなかったですね。



ネオアコからフレンチポップ、エレクトロニカ、昭和歌謡まで


─月に何曲ぐらい聴かれるのでしょうか?


橋本 音楽を作りながら音楽を聴けないのが、一番のジレンマです(笑)。それまでは演奏するより聴くほうが好きだったので、たくさん聴きたいのですが、時間的な問題がありまして・・・。


自分の好きなものを聴くというよりは、作品を作るための資料として聴くことのほうが最近は多くなっています。「ユリ熊嵐」(2015)の音楽にはエレクトロニカの要素も入れていて、その時に調べながら聴いたヘイワイヤー(Haywyre)の曲はすばらしかったですね。今ではすっかり彼のファンで、個人的な趣味としても聴いています。


─どのような基準で参加作品を決められますか? 美少女アニメが比較的多いようですが、「おとめ妖怪ざくろ」(2010)、「K」(2012、2015)、「月刊少女野崎くん」(2014)、「おそ松さん」(2015)といった、女性向けアニメにも楽曲を提供されています。


橋本 こちらから選ぶことはほとんどないんです。お話があれば、いろんな作品をやってみたいですね。


─お得意な音楽ジャンルは?


橋本 個人的に作りやすく、趣味にも近いものですと、やっぱりネオアコ、ギターポップ、フレンチポップなどですね。実際にオーダーされるものは全然違ったりしますが、音の質感であるとか、細かなサウンドの彩りですとか、そういった部分では影響あるのかなと思います。


たとえば、「月詠 -MOON PHASE-」(2004)のエンディングテーマ「悲しい予感」は、フレンチポップのテイストになっています。女性声優の方が歌う予定で作りましたが、デモで歌ってくれたyukaちゃんの歌を新房昭之監督がすごく気に入ってくださり、このままいこうということになりました。yukaちゃんとはインディーズの活動を通して知り合い、彼女のウィスパーがアニメにも合っていると思ったので、「一緒にやろうか?」と声をかけました。


それから、「さよなら絶望先生」(2007~09)で初めて昭和歌謡テイストの曲を作りました。最初は作ったことのないジャンルに躊躇しましたが、いざ曲を作り始めると違和感なくできたので自分でも驚きました。その後、「おとめ妖怪ざくろ」でもオーダーをいただくようになり、後づけではあるけれど自分の中にあったものなのかなと思っています。


─男性ボーカルと女性ボーカル、どちらが作りやすいですか?


橋本 個人的にインディーユニットをやっていましたし、かわいらしい声も好きなので、女性ボーカルの曲のほうが作りやすいですね。


─劇伴ではピアノ曲やオーケストラ曲も作られていますね。


橋本 劇伴はいろいろなジャンルのサウンドをオーダーされるので、やりながら自分のスキルを広げていった感じですね。「この曲はちょっとハリウッドっぽい雰囲気にしたいんだよね」といった形でオーダーが来たり、「こういうのはどうですか?」と、こちらから提案したりもします。


「ささみさん@がんばらない」(2013)は曲数が多くて、ジャンルも純邦楽からオーケストラ、プログレっぽいものまで、いろいろ書かせていただきました。キャラクターに合わせてジャンルを変えていて、「かがみはエレクトロニカっぽいもので」というようなオーダーがありました。


「おそ松さん」はギャグアニメなので通常使う楽曲以外にもパロディの楽曲、シーン専用の楽曲など、細かいオーダーが多かったですね。楽しんで作っていたら、いつの間にか結構な数になってしまったという感じです(笑)。

作曲はメロディーから


─橋本さんの作曲スタイルをうかがってもよろしいでしょうか?


橋本 メロディーから作ることが多いですね。その時、テンポをどうするのか、キーをメジャーとマイナーどちらにするのか、というところで悩むことが多いです。それが決まってメロディーができたら、バックトラックを作っていきます。


次にDTMでデモを作り、それをもとに監督やプロデューサーと相談します。デモを作る時に「この曲はギターでやりたいです」とか、「ピアノをメインにしたいです」など、ある程度形を見せて作っていくことが多いですね。映像があるものですと、映像と合うかどうかも見てもらいます。その後で、楽器をどのくらい入れようか、生演奏にしようか、といった肉付けを考えます。歌ものの時は、最初に言葉があったほうがクライアントにも雰囲気を伝えやすいので、デモに仮の歌詞で歌を入れることが多いですね。


コードから作っていくこともありますが、全体の1~2割くらいです。メロディーにあまり変化がなくて、ちょっとEDMとかそういう感じにしよう、という時にはコードから作ったりしますね。


─原作などの資料はどのように活用されますか?


橋本 劇伴は事前に資料をいただけるので、それを読みこんでいます。原作があれば原作を最初に、それから脚本を読んで、どういうところが残って、どういうところが省かれるのかを確認します。


歌ものだと資料をいただけることもあるし、ないこともありますね。どういう作品なのか把握してから作りたいので、資料をいただけない場合でも、自分で探して読んでいます。


あとは、その時々の打ち合わせで音響監督からどういう感じなのか、全体的なイメージをいただいて、それを頼りにしていく感じです。

おすすめ記事