「プリンセス・プリンシパル」橘正紀監督インタビュー 愛されるキャラクターがストーリーへの関心を呼ぶ
女子高校生によるスパイミッションというキャッチーなオリジナルTVアニメ「プリンセス・プリンシパル」。放送は先頃最終回を迎えたばかりだが、放送中は数々の謎や設定、そしてキーワードである“嘘”に翻弄され楽しんだ視聴者も多いことだろう。そんな本作の橘正紀監督に話をうかがったところ、ファンに愛されるキャラクターたちをいかにして描くかに細心の注意を払っている姿勢が印象に残った。キャラクターがストーリーへ誘うという作品作りの哲学、そしてそれを作り上げるクリエイターの愛情がそこには詰まっていた。
ミッションとキャラクターが映し鏡になりドラマが生まれる
──本作は企画の骨子として”スパイもの”というお題が最初にあり、そこにヴィクトリア時代を設定として採り入れたのは橘監督だったそうですが、これはどのような思いからだったのでしょうか?
橘正紀監督 最初に5人の女の子がスパイをするというところまで決まっており、プロデューサーと相談した結果、スチームパンクを採り入れるというアイデアにまとまりました。スチームパンクというモチーフは実は結構ゆとりがあって、蒸気が吹いていて少し風変わりなメカが登場すれば、それでスチームパンクとして成立します。つまり、“様式美”がある世界です。ただ、そこにしっかりと19世紀のロンドンの時代考証を踏まえて組みあわせた作品はこれまで見当たりませんでした。たとえばインダストリアルデザインにおいても、出てくる機械の技術水準と職人の作るもののデザインが合致していなかった。そうした部分にしっかりとこだわりを持ってできるのであればTVシリーズとして初めての試みになりますし、自分としてもこの時代には興味があったので、それをプロデューサーにお話した結果、大枠の設定が決定したという形です。
──作品のそこかしこから美学が伝わってきましたが、その根源は橘監督から発信されていたんですね。
橘 まず自分自身が見たいと思えるような、美しいデザインの機械とか職人のこだわりといったものを作品に採り入れたいという考えがありました。作品のコンセプトデザインは六七質さんに、メカニカルデザインは片貝文洋さんにお願いをしましたが、打ち合わせの際にたびたび「デザインに色気を入れてほしい」と申し上げ、ヴィクトリアン・ゴシックの優雅さやアールヌーボー的な曲線を採り入れていただきました。自分でラフを描いたり、具体的なイメージを言葉でお伝えして微調整を繰り返してイメージの共有をしました。
──ストーリー作りについてもうかがわせてください。本作はスパイ特有の“嘘”を話の最後に用いて爽快感を出したり、ビターな味わいをもたせたりと、とても視聴者の感情に訴える作りでした。これらはどのように作られていったのでしょうか?
橘 ”嘘”をキーワードにするというのは、大河内一楼さん(シリーズ構成・脚本)がプロットの段階から盛り込んでいて、お話のサスペンスをシナリオで練り上げられていました。スパイのルールやディテールについては、白土晴一さん(リサーチャー)や速水螺旋人さん(設定協力)にアイデアを出してもらったり監修をしていただきました。シナリオ作りにおいてはまず、キャラクターがどこに潜入して何をするか、そこでどんな会話をするかといったキャラクターがらみのストーリーを大河内さんが考え、そこに付随するミッションの詳細を白土さんにお願いするという形です。つまりミッションとキャラクターとがきちんと映し鏡になるように作っていただいています。物語というのはどんなミッションをこなすかというよりも、そこで出会った人間がどういう関係になり、どんなドラマの着地を見せるかのほうが重要なんです。たとえば、好きだった相手をセクションが違うせいで片付けなくてはならい、というドラマを作る時は、そういう切ない感情が立つミッションを白土さんに考えていただきました。
──ドラマチックな展開を見せるスパイミッションは、キャラクターによる感情を誘発させた作りがあってのものだったんですね。
橘 脚本会議の段階から、キャラクターを好きになってもらおうという考えが統一見解としてありました。スパイのカッコよさは出していこうと考えていましたが、仕事としてのディテールが先に立ってしまうとドラマが立たなくなってしまう。スパイミッションだけ描いていても結局、単に他人の仕事を見せられるだけになってしまいます。その仕事をする女の子のたちはどんなバックストーリーを持っていて、どんな思いでこの仕事に従事しているのかと視聴者に興味や疑問をもたせることがシンパシーを生みます。ですので、できるだけキャラクターに寄り添う画作りをしようと考えていました。
──また、本作は全体としても非常に情報量が豊かな作品だったと思います。とくにアンジェとプリンセスの関係を、エピソードの時系列をシャッフルさせつつ示していく手法は視聴者に驚きと興味を呼ぶものでした。こうした演出はどのようにコントロールされていったのでしょうか?
橘 この作品がアンジェとプリンセスの物語だという事は最初の頃から示していて、この2人が最終的にどうなっていくのかをみんなに追いかけてほしいという思いがありました。たとえば第2話(case1 Dancy Conspiracy)のラストシーンですと、脚本には[アンジェ]「コントロールは(中略)やっきになって探している~」から[プリンセス]「答えは簡単、あなたが教えてくれたから」と書いてありますが、そこでどういう風にメモを渡したといったディテールは書いてありません。そのため、絵コンテで詰めていく必要があります。パーティーで「初めまして」と挨拶をした時は実は10年ぶりなのでそこに驚きがありつつ、でも互いに嘘をついている姿で会っているわけなので、そこではどんな表情をしているのかはコンテで拾います。つまり、後ろの展開から逆算して作っていて、このときの表情にはこんな理由があったのだというところはできるだけ拾うようにしていました。セリフを聞いて笑うときも、懐かしむ笑いなのか、うれしい感情を出すのか、表情変化を絵の中でかなり考えて作っていきました。感情がからむシーンやお互いを思って感極まる場面では、きちんと相手に気持ちが向いている部分を絵で拾って、視聴者がキャラクターを好きになってくれたらいいなと思いながらコンテを切っていました。
──資料を拝見しましたが、監督がこだわりをもって各話の絵コンテに注釈をつけていらした跡がわかりました。
橘 キャラクターの掘り下げというものは長く作品に付き合っていかないとわからない部分がありますので、このときこの子はどんな気持ちでしゃべっているのかといったところはある程度自分のほうでコントロールしていた部分ではありますね。笑うにしても、場を取りつくろう笑いなのか、心からの笑いなのかで絵の表現が変わってきますので、その機微はこちらから指示をさせていただきました。
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