【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第21回「メイドインアビス」ほか
アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひと言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。
「メイドインアビス」は、つくしあきひとさんによる同名マンガのアニメ化。
世界に、唯一残された秘境の大穴「アビス」。その深く巨大なその縦穴は、複数の階層にわかれ、奇妙な生物たちが生息していた。探窟家と呼ばれる冒険者たちは、何度もアビスへと挑戦し、今の人類では作ることのできない貴重な遺物を多数持ち帰っていた。
アビスの縁にある町に住む孤児のリコは、母のような探窟家に憧れる少女。ある日、リコは少年の姿をしたロボット、レグを拾う。
やがてリコは、10年ぶりに発見された探窟家の母の笛とそこに残された伝言をきっかけに、レグとともにアビスの底を目指すことを決意する。
本作のおもしろさのひとつに、アビスに生きる奇妙な生物の存在感がある。
アニメ第9話では、深界三層「大断層」まで降りたリコとレグの姿が描かれる。肉食の大型生物マドカジャクの巣に入り込み、ベニクチナワに追われる。そしてついには、甘い匂いで小型の動物を捕食していたアマカガメの胃袋に捕食されてしまう。第10話ではさらに、深海四層「巨人の盃」でタマウガチの毒針攻撃により、リコが深く傷つき、瀕死の状態になる。この時のリコの苦しむ様(そしてレグの苦悩する様)は、丸っこいキャラクターデザインだからこそ生まれる生々しさがあって、非情に痛々しかった。
と、いうわけで今回は“異界の生物”。印象的な“異界の生物”が出て来る作品を考えてみた。
「メイドインアビス」の生物たちがおもしろいのは、その造形もさることながら、命名が視聴者によく“伝わってくる”からだ。タマウガチは、おそらくその針に由来して「玉を穿つ」からきているのだろうし、ベニクチナワはそのまま「紅の蛇」であろう。マドカジャクの命名は想像がつかないが、語感が和名っぽくて違和感がない。
こういう命名から世界観が立ち上がってくるといえば、忘れられないのが「風の谷のナウシカ」。
「火の七日間」と呼ばれる最終戦争後の地球は、「腐海」と呼ばれる、猛毒の胞子を飛ばす菌類の森で覆われていた。残されたわずかな人類にとっては恐るべき脅威である腐海の中にも、外骨格で巨大化した、“蟲”と呼ばれる生物たちがいた。
巨大なダンゴムシのような姿をしているのが「オーム(王蟲)」。文字通り蟲たちの王ともいうべき存在で、そのままの名前となっている。ナウシカたちが住む風の谷に入り込んでしまった巨大な4枚羽の蟲は、ウシアブ。その体の巨大さが「ウシ」というネーミングととてもマッチしている。体全体は当然ながらアブっぽいのはいうまでもない。
腐海でナウシカが乗ったメーヴェ(エンジン付き小型グライダー)を尻尾で引っかけるのがヘビケラ。長い空飛ぶムカデのような姿をしているが、長いところから「ヘビ」の命名になったのがわかる。「ケラ」は「オケラ」からとられたのだろうか?
腐海の植物も同様で、ムシゴヤシ、ヒソクサリなどと呼ばれ、それぞれどうしてその名前になったか想像がつきそうな命名がされている。
「風の谷のナウシカ」の世界観は、こういう命名術からも立ち上がってくるのだ。
「新世界より」もまた文明崩壊後の遠い未来の姿を描くSFだが、こちらにもまた忘れられない異形の生物が登場する。それがバケネズミだ。
呪力と呼ばれる超能力を人間が持つようになった未来。文明は崩壊して長い時間が経ち、日本列島には数万人が、小さなコロニーを作って暮らしていた。
この人間が使役する動物として登場するのがバケネズミ。ハダカデバネズミから進化したとされる生物で、呪力を持つ人間を神とあがめ服従を誓っている。バケネズミは、ハダカデバネズミと同様に真社会性を持っており、女王を中心とした巨大なコロニーを形成する。コロニーの規模は数百匹から一万匹にも及ぶ。知能も人間並みで、一部の個体は日本語をしゃべったりもする。
彼らの外観はマスコット的なかわいさはまったくない。それだけにクライマックスでの役割も含め、インパクトをもった存在として強い印象を残す存在となっている。
最後に取り上げるのが「交響詩篇エウレカセブン」シリーズに登場する「スカブコーラル」。名前の通り、かさぶた状、珊瑚状の形態をしており、地表を覆っている存在だ。
ところがこれが実は生命体――情報生命体なのである。だから、生命体として扱う時は「コーラリアン」と呼ばれている。
彼らはなぜ地球に来て、地球を覆ったのか。コミュニケーションの方法がない人類にとって彼らの意思はまったく見通せない。そこが物語のひとつのポイントにもなったりする。
そして、そんなコーラリアンがある目的で生み出したのが、人型コーラリアンであるヒロインのエウレカというわけだ。
エウレカの命名は、1992年に打ち上げられた欧州宇宙機関のロケット「EURECA」にちなんだもの。スカブコーラルが接触した際、この名前を読み取り、名前としたらしい。ただし、ロケットに傷がついておりCがKに見えたため、ヒロイン・エウレカの綴りは「EUREKA」となっているという設定。
異質な生命体というのは、デザインや描写だけでなく、それを現す名前というものも重要な意味を持つのである。
(文/藤津亮太)
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