作家・待田堂子 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第18回)

「アニメ・ゲームの“中の人”」では、アニメ・ゲーム業界で活躍する一流クリエイターのインタビューをお届けしている。第18回は作家の待田堂子さん。待田さんを抜きにして、今のアニメ脚本は語れない。「無敵看板娘」、「らき☆すた」、「ティアーズ・トゥ・ティアラ」、「GA 芸術科アートデザインクラス」、「おおかみかくし」、「戦国乙女〜桃色パラドックス〜」、「THE IDOLM@STER」、「棺姫のチャイカ」、「長門有希ちゃんの消失」などでシリーズ構成・脚本を務め、「SHOW BY ROCK!!」では脚本を全話執筆、その独創的な世界観とストーリーでファンを魅了した。2017年も「チェインクロニクル ヘクセイタスの閃」、「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」、「DIVE!!」、「セントールの悩み」といった話題作に参加している。当記事では影響を受けた作品、創作スタイル、キャリア、余暇の過ごし方、今後の挑戦について、じっくりとお話をうかがった。

コメディ作品や古典に触れて育つ


─お忙しい時期にインタビューに応じてくださり、まことにありがとうございます。早速ですが、待田さんが影響を受けた作品からお話いただけますか?


待田堂子(以下、待田) 子供のころからお芝居が大好きで、野田秀樹さん、松尾スズキさん、三谷幸喜さんといった方々の舞台を観に行っていました。影響を受けたという意味では、今は超人気になっていますけど、劇団☆新感線とか、TVドラマだと古いところで、堺正章さん主演の「西遊記」とか、「池中玄太80キロ」とか、「やっぱり猫が好き」とか、「三番テーブルの客」ですね。こてこてのコメディのドラマが大好きなんです。


シェイクスピアやチェーホフといった古典も好きで、シェイクスピアは全作品読みました。


シェイクスピアと言えば、蜷川幸雄さんが始められた「彩の国シェイクスピア・シリーズ」で「リチャード二世」を観て衝撃を受けました。正直、戯曲で「リチャード二世」は私の中で全然おもしろくない部類に入っているんですが、舞台を観ると、「あれ?これ、こんなにおもしろかったんだ!」、「やっぱり芝居ってすごいなぁ……」って。とにかく芝居が大好きで、高校、大学のころは不条理演劇に夢中で、卒論も「ガルシア・ロルカ」について書きました。


─アニメはご覧になっていましたか?


待田 「機動戦士ガンダム」(1979~80)などもチラッとは観ていましたが、じっくり観ていませんでした。アニメの本読み(編注:脚本会議のこと)の時、ガンダムにたとえられることが多いので、脚本家になってからしっかり観たという経緯があります。


─現在、月にどのくらい作品を鑑賞されていますか?


待田 原作や原作にともなう資料を読んだりしなくちゃいけないので、昔にくらべると読書量は減っちゃっていますね。映像作品はNetflix、Amazonプライム、Huluに入っていまして、TVシリーズのものは週末にまとめて1シーズン観たりしています。海外ドラマは結構観ていますね。


なかなか外出する時間が取れないことが多いので、昔に比べると映画にはあまり行けていません。Netflixとかでカバーしています。演劇、歌舞伎、落語などに関してはせっせと劇場に足を運んで、それぞれ月に1〜2本くらいは観ています。その期間にしかやっていないものが多いので、映画より優先させちゃいますね。


「なりたい」より「書きたい」


─目標とする方はいらっしゃいますか?


待田 いないんですよね……。私がアニメの脚本家になったころは師弟制度みたいなものがあって、師匠の先生からお仕事をいただいたりとか、シリーズ構成される時に呼んでいただいたりとかあったんですけど、私にはそういう師匠がいなくて、最初は苦労しました。


今は、「こういう作品を書きたい」というのはあっても、「こういうふうになりたい」というのはなくなってきています。目標というのが、人から作品になってきている気がしますね。


─腕1本脛1本で、厳しいアニメ業界を生き抜いてこられたのですね。


待田 いやいやいや、そんないいもんじゃないですよ(笑)。「一匹狼は冬を越せない」と言いますから。

「笑わせて、ほろっとさせる」コメディが得意


─得意なジャンルやストーリーは?


待田 基本コメディが好きなので、吉本新喜劇的な「ちょっと笑わせて、ほろっとさせる話」がいいですね。落語や芸能の発祥というのは、畑仕事で疲れた人を笑わせて元気づけるところからきたそうです。自分の仕事に照らして考えると、夜遅くまで働いて帰ってきた人が深夜アニメを観て、「明日もがんばろう!」という気持ちになってもらうような感じでしょうか。


ピカレスクロマン的な「悪者だけど、応援したくなる話」も書きたいと思っています。「どこも救いのないような話」というのはあまり惹かれないのですが、そういう中にもどこか希望が見えるものがあれば……と思います。


─コメディということでいえば、「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」(2017)の第10話で、主人公のグレンが2度も白猫に空の彼方に吹き飛ばされていました。


待田 人の心の中にある涙のスイッチって、割と同じ場所にあると思うんですけど、笑いのスイッチはみんなそれぞれいろんなところにあって、だから笑いのスイッチはなかなか入りにくいと思っていまして。ちょっとしつこくやらないと、わかってもらえないことが多いなぁと。


─「SHOW BY ROCK!!」(2015~16)にはダガーという、個性的な敵役が登場しました。


待田 悪役として出てきていますけど、ダガーも、おもしろく魅力的になればいいなと思っていました。とくにダガーと小笠原とのかけあいとか……。

構成はロジック、セリフは感覚


─脚本の執筆スタイルを教えていただけますか?


待田 右脳と左脳じゃないですけど、構成とセリフは書き分けるようにしています。シリーズや脚本の構成は結構ロジックで考えていて、どこで盛り上げるとか、ここはちょっとびっくりさせるとか、ここは登場人物の心情をじっくり見せる、伏線をどこにはって、どこで回収するとか、計算しているつもりです。


私は感覚人間で、割と直観で決めることが多くて。自分の直観を信じてはいるんですけど、それで押し切っちゃうと万人に伝わらないこともあるので、1回構成を落とし込んで、普通の人が見たらどう思うかなと確認するようにしているんです。


でも、すべて理詰めでお話を作ると、それはそれであまりおもしろくなくなっちゃうので。柱を立てて何を書くか決めたら、セリフは結構感覚で書いています。たまにセリフとセリフの間がすっとんじゃって、監督から「ちょっとこれ飛躍しすぎていませんか?」と指摘をいただくこともありますけど(苦笑)。


─決まった作業スペースはございますか?


待田 自宅の自分の部屋です。静かな場所じゃないと集中できなくて。ファミレスとかだと、どうしても人の会話が気になってしまうんですよ。パソコンもノートではなくて、デスクトップを使っています。


─執筆はお早いのでしょうか?


待田 いつもギリギリなので、書き上げて即出すみたいな感じになっていますね。「なんか、すみません……」といつも思っています。


─原稿枚数は決まっているのですか?


待田 ものによります。しっとりした作品だと情感を出すために間を取らなきゃいけないので、枚数は少なくなります。会話劇が多いのも少なくなりますね。


─「GA 芸術科アートデザインクラス」(2009)では、200枚近く書かれたそうですね。


待田 ほかの作品ではあり得ないんですけど、桜井弘明監督のテンポ感では行けちゃいました(笑)。


─何稿くらい書かれますか?


待田 ものにもよりますので、一概には言えません。本当にスカッと終わることもありますし、オリジナルだと稿を重ねることもあります。

和菓子作りやフェルトアートで息抜き


─企画から参加されるケースは多いのですか?


待田 原作があるものがほとんどです。ただ、キャラクターだけあってお話がないものとか、ゲームのままではできないなというものは、ゼロからお話を考えています。「戦国乙女〜桃色パラドックス〜」(2011)や「SHOW BY ROCK!!」は、登場人物の会話劇みたいなものがあったので、お話は皆さんで打ち合わせをしながら考えていきました。


─アフレコには参加されますか?


待田 ご挨拶があるので、1話と最終回のアフレコにはなるべく出るようにしています。


─待田さんはコメディ好きとのことですが、「SHOW BY ROCK!!」で音響監督をされた三間雅文さんも、ドリフがお好きだそうです。(編注:#


待田 三間さんにはすごくおもしろくやっていただいて、細かいセリフの意図とか尋ねられたりしてドキッとすることなんかもあったんですが(笑)、とても勉強になりました。

─息抜きでされていることは?


待田 ご近所の奥様が和菓子教室をやっているんですよ。ある時、チラシを見つけて、行ってみたら、これがすごくおもしろくて。それからは月に1回、通っています。水まんじゅうとか、三色おはぎとか、道明寺桜もちとか、うぐいすもちとか、2時間くらいで簡単に作れちゃうんです。


あとは、半年に1回くらいフェルトアート教室に通っています。フェルトをぶすぶすと針で刺して形を成していくというのが、めちゃめちゃストレス解消になるんですよ(笑)。

─和菓子はスタジオに持っていかれたりしますか?


待田 いえ、防腐剤も入ってないので、自分で食べちゃいます。皆さん知らないと思うから、びっくりすると思いますよ。「キャラブレてるんじゃないの?」と言われそうで(笑)。

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