【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第22回「宝石の国」ほか
アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひと言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。
「宝石の国」は市川春子の同名原作漫画のアニメ化。
舞台は遠い未来。地上に生物の姿はなくなり。そこにいるのは28人の“宝石”たち。宝石たちは人型をしているが、体は宝石そのもの。28人はそれぞれにその宝石の名を名乗っている。そんな宝石たちを装飾品にしようと襲来するのが月人たち。宝石たちは、月人との間で戦いを何度も繰り返している。
宝石たちの体の特性は大きく2つの数値で計られる。ひとつは硬度、もうひとつは靭性(じんせい)。硬度は文字通り硬さで、靭性はそのものの粘り強さのこと。これは鉱物の特性を表すために実際に使われている尺度で、たとえばダイヤモンドの硬度は非常に高いが、靭性はやや低い。このためゆるやかに加重されていく圧力に対しては高い強度を持つが、ハンマーで叩くような瞬間的な力に対してダイヤモンドは弱い。宝石たちの体も、それぞれの硬度と靭性に従ってこのような特性を示す。
本作の主人公は好奇心が強く無鉄砲で、口は達者なフォスフォフィライト。
硬度は三半、靭性は最下級と非常にもろい。そのためフォスフォフィライトは、月人の戦闘に加わることは許されず、また特に秀でた才もないために、そのほかの仕事についても適性がないと思われていた。フォスフォフィライトは最終的に、宝石たちを束ねる金剛先生から、物事を記録する博物誌の作成を命じられる。本作は、キャラクターを基本的に3DCGで描いている。3DCGの持つ、手描きとはまた違う硬さとやわらかさは宝石たちのキャラクターとよくマッチしている、また宝石たちの個性を印象づけるカラフルな髪も、3DCGならではの表現で美しく描き出されている。
多彩な宝石たちの姿見ているだけでも楽しいシリーズだ。
というわけで今回のテーマは「宝石」。
ソウルジェムといえば、大ヒット作「魔法少女まどか☆マギカ」に登場する“宝石”様のアイテムだ。
本作の少女たちは、願いごとと引き換えに謎の小動物・キュゥべえと契約を結び、魔法少女となって魔女と戦うことになる。この契約の時に生み出されるのがソウルジェムだ。
ソウルジェムは、魔法少女そのものであり、魔力の源。ソウルジェムは、魔法を使用するたびにその輝きを失い、この輝きを取り戻すためにも魔法少女は魔女を倒さなくてはならない仕組みになっている。
つまり美しく見える宝石は、魔法少女たちを縛る契約の象徴であり、それはつまり“呪い”と言い換えてもいいようなシビアなものだ。そのキラキラとした美しさが、その恐ろしさを際立てている。
さて、宝石といえばやはり「宝もの」。そういう意味で正しい宝石の使い方をしているのが
「名探偵ホームズ」の「青い紅玉」。
本エピソードは、同シリーズの中で宮崎駿監督が担当した6話分のうちのひとつで、脚本にクレジットされているのは、「この世界の片隅に」の片渕須直監督である(当時大学生)。
本作が描くモリアーティ教授が宝石店から盗み出した青い宝玉を、スリの子供ポリィが盗み出してしまうことから始まる大騒動。ロンドンの市街をプテラノドン型飛行機が飛び、スチームカーとプロトベンツがチェイスを繰り広げる活劇のおもしろさがみっちり詰まった一編だ。
本作のマクガフィンとなる“青い紅玉”の描き方も印象的。宝石を取り出すと、青い光の束がキラキラと飛び出して周囲を照らすのだ。リアリズムから考えればありえない描写なのだが、その漫画的説得力の強さは圧倒的で、その描写だけでこの宝石がいかに特別なものかを雄弁に物語っていた。
最後に取り上げるのは映画「パタリロ! スターダスト計画」。こちらはダイヤモンドがキーとなる作品だ。
同名漫画の長編エピソード(第5巻がまるまる1冊、本作のエピソードである)を映画化した作品で、原作者の魔夜峰央みずからが主題歌を歌っているというのも魅力のひとつ。
主人公パタリロが国王をつとめる常春の国マリネラは、主要産業がダイヤモンド。本作では、ダイヤモンドを狙った連続強奪事件をパタリロとMI6のエージェント、バンコランが追っていくストーリー。どうしてダイヤモンドが狙われるのか――という理由が表題の「スターダスト計画」とからんでくる。ダイヤモンドがからんだ美しいイメージの原作のラストに加え、さらに映画版はパタリロの活躍シーンを加えてさらに盛り上げていて、それもうれしい。
アニメは輪郭線と塗り分けで表現するメディアのため質感表現の幅が狭い。だがこれは、逆にいうと「彩度が高く塗り分けで表現できるもの」はとても魅力的に見せられるということでもある。宝石はまさにそういう存在といえる。
(文/藤津亮太)
(C) 2017 市川春子・講談社/「宝石の国」製作委員会
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