実は「悲壮萌え」的な一面も? タツノコプロ55周年記念作品「Infini-T Force」キャシャーン/東鉄也役の斉藤壮馬インタビュー
アニメーションスタジオ・タツノコプロ55周年記念作品として制作され、「科学忍者隊ガッチャマン」「宇宙の騎士テッカマン」「破裏拳ポリマー」「新造人間キャシャーン」といったタツノコの4大ヒーローのクロスオーバーする「Infini-T Force(インフィニティ フォース)」が話題を呼んでいる。
原作を最大限にリスペクトしつつ、新たな装いにリデザインされたキャラクターたちが共闘し、悪に立ち向かう姿が描かれる本作は、「PSYCHO-PASS 2」シリーズディレクターの鈴木清崇さんが初監督を務め、シリーズ構成を「スイートプリキュア♪」の大野敏哉さん、キャラクター原案は「天上天下」の大暮維人さん、ヒーローデザイン原案を「TIGER&BUNNY」のさとうけいいちさんが、スーツ・メカニックデザインは「GATCHAMAN CROWDS」の中北晃二さんが担当。さらに、3DCG制作を「GANTZ:O」や「デスノート Light up the NEW world」など実写・アニメーションのジャンルを問わず数々の大ヒット作を手がけてきたデジタル・フロンティアが務めているという意欲作だ。
そんな「Infini-T Force」から、ガッチャマン/鷲尾健(CV:関智一)、テッカマン/南城二(CV:櫻井孝宏)、ポリマー/鎧武士(CV:鈴村健一)とともに戦うこととなるキャシャーン/東鉄也役を務めている斉藤壮馬さんに、本作について大いに語っていただいた。
55年間愛され続けるヒーローを演じるのは「気持ちをすえて取り組んでいかないといけないという責任感」
──本作に関わっての感想をお聞かせください。
斉藤 本当に幅広い年代の方に愛されている各ヒーローたちが集結する作品ということで、オーディションを受けさせてはいただいたのですが、まさか自分がキャシャーンを演じる日がくるとは思っていなかったので、「うれしい」という気持ちと、「壮大なプロジェクトに気持ちをすえて取り組んでいかないといけない」という責任感みたいなものをすごく感じました。
──演じるうえで意識したことや、監督との話し合いで方向性が決まった点はありましたか?
斉藤 僕の演じるキャシャーン/東鉄也は原作通りの新造人間ということで、自分のアイデンティティはどこにあるのかということを探し求めていくキャラクターだと思います。ほかの3人が、鉄也より年代が上に見えるのに対して、鉄也は武士に「少年」と呼ばれるくらいの見た目で、無機質な感じがありつつも、どこか少年らしい「かわいげ」があるというか。感情を出しすぎてはいけないんですが、それを微妙な塩梅(あんばい)でのせられるように、というところは心がけました。
──演じていて難しかった箇所はありますか?
斉藤 普段のセリフはともかく、叫ぶシーンとかは、どこまで出してしまっていいんだろうというのがありました。単に100%の力で叫びすぎてキャラクターを外れてしまうのも違うだろうと思いましたし、そのバランス調整が難しかったですね。
──多くの先輩に囲まれた現場だったかと思いますが、アフレコ現場の様子について教えてください。
斉藤 マイク前では生のかけ合いでしか生まれない緊張感があったのですが、皆さんやさしい方ばかりだったので、収録以外の時間はたわいのない話をしていましたね。鈴村さんがすごくグルメなので、近所のおいしいお店を教えてもらったりとか、皆さんゲームがお好きだったりするので、ゲームの話をしていたり。あと、僕が子どもの頃にリアルタイムでタツノコヒーローたちに触れてきたわけではなかったので、皆さんにいろいろ教えていただいたというのはありましたね。すごくほんわかした現場でした。
──特にどんなことを教えていただいた、というのはありますか?
斉藤 ポリマーのバトルシーンについて、なんでカンフーっぽいアクションなのかということを聞いたら、ブルース・リーからきているということとか。もともと皆さん作品を見ていた世代で、ヒーローが大好きな方たちなので、先輩にこんなことを言っていいのか悩みますが、すごい皆さん目がキラキラしてるなっていう印象で、話を聞いているとこっちもワクワクしてくるような現場でした。
──そういう現場で、学ばれたことはありましたか?
斉藤 ガッチャマン・テッカマン・ポリマーの3人はヒーロー然とした言い回しになっているセリフが多いんです。いっぽうキャシャーンは現代人らしいというか、そういう言い回しはあまりないんですが、ヒーローとしての説得力はどういう表現をしたら生まれてくるのか、背中で語る皆さんの芝居を見て、横で聞いていて感じました。鈴村さんはリアルタイムでタツノコヒーロー作品を見ていて、今の特撮も好きな方なので、収録の合間もヒーローについて話しているという感じでしたね。本作に出ていないヒーローについて、「このキャラが出るならこっちも出してほしい!」みたいな話をされていたり。大先輩の皆さんなんですが、本当に少年みたいでしたね。
──斉藤さんは、1973年に放映された「新造人間キャシャーン」はご存知でしたか?
斉藤 オリジナルは見ていなかったんですが、2008年に放送された「キャシャーン Sins」で、初めてタツノコヒーロー作品に触れました。オリジナルの「キャシャーン」自体は「Infini-T Force」に関わるまでは触れてきませんでしたが、縁があるなと感じました。70年代にやっていた「新造人間キャシャーン」は勧善懲悪ではなくて、悲壮感が漂うというか、悲哀を感じる世界観の作品だなと思ったのですが、「キャシャーン Sins」もそういう世界観を踏襲していて、僕もそのくらいの年代からダークな作品に傾倒し始めたので、親近感といいますか……(笑)。あと、オープニング・エンディングがかっこよくて、それがすごく好きで印象に残っていましたね。
──実写版映画の「CASSHERN」についてはいかがでしょうか?
斉藤 初めて見たのは大学生の頃だったと思うのですが、これは子どもが見たらどう思うのかなって、それくらい独特の世界観でしたよね。僕もああいう荒廃した世界というか、終末感漂う作品が好きなので、こちらも印象的でした。
アフレコ現場では、キャシャーン同様、先輩にかわいがってもらっています
──東鉄也/キャシャーンについて、実際に演じられてみて、印象は変わりましたか?
斉藤 今回は、キャラ同士の軽妙なかけ合いが描かれることが多い中、鉄也はそこまで他キャラとのかけ合いがあるわけではないのですが、CGのきれいさもあいまって、テンポのよさをすごく感じています。鉄也は自分のアイデンティティを探している中で仲間に出会うわけですが、そのことについて城二が語る「それはすごく幸せなことだよ」というセリフが、さらっと聞こえるようでいて重みがあるなと感じていました。
また、武士につけられた「少年」というあだ名は、みんなをお兄さんっぽく感じていることの表れだと思います。3人が世界について説明をしているシーンで、笑と2人で遊んでいて全然話を聞いていなかったりするところも、年下感があってかわいいなと思いましたね(笑)。
──鉄也はどんなキャラクターだと思いますか?
斉藤 ある意味すごく人間らしいともいえるし、人間離れしてるともいえるんですが、軸にあるのが人を救いたいという思いで、それが打算や計算ではなくて、そこから始まっているというのがすごいなと思います。のほほんと暮らしていてもいいのに、ヒーローはそうじゃダメなんだっていう、すごく内面の熱さを持っているなと思いました。
──鉄也の魅力はどんな点だと思われますか?
斉藤 どこか心に闇を抱えているところでしょうか。鉄也は土台のところに「もう自分は人間じゃないんだという」ペシミズムみたいなものがあって、あの端正な顔からはあまりうかがえないけれども、本人はすごく苦しい思いをしているんだろうと思うんです。なんていうか、そこに「悲しい運命萌え」みたいなものがあるんじゃないでしょうか。本作の登場人物たちはわりとみんな嘘をつかないというか、ある意味裏表がない人たちがチームになっていて裏表がないからこそ、普通の人の文脈とは違う受け答えをしてしまうという天然っぽさもあるし、普通なら本心を隠すところですごく本心が見えちゃうこともあります。言葉にニュアンスはのせないけど、「僕は人間じゃないから」って言っちゃう、そのストレートないじらしさみたいなところも魅力なんじゃないかなって思います。
──鉄也はもとのキャラクターとのギャップが大きいなと思うのですが、旧作から踏襲している部分というのはありますか?
斉藤 言い方が難しいのですが、いわゆるタツノコプロ作品の男気みたいな要素はほかのキャラクターが担保してくれている感があったので、鉄也の場合は逆に、今回のビジュアルと作中の設定に重きを置いて作っていますね。なので、無理をして(元のキャラクターを)引っ張ってくるというのは意識していなくて、根本的な心持ちというか、自分のアイデンティティの揺らぎが、敵との戦いのキーポイントにもなってくると思っています。ただ、「体は機械で、心は移植している。じゃあ、自分はいったいなんなのか」というのがキャシャーンの人生のテーマだと思うんですが、その根本的な部分はまったくブレていないと思います。彼は無口なだけで、なよなよしているわけではないので、芯の強さ――これは芝居にのせすぎてはダメなんですが、軸に持っている思いの熱さというのは意識して、マイク前に立とうと思って収録に臨みました。
──そのほか、特に意識されている部分というのはありますか?
斉藤 鉄也はみんなを救うために自分から志願してヒーローになったというキャラクターです。でも、なったらなったで、人間から手のひらを返されています。ほかのキャラクターも自分の信念が何なのか、仲間を信じるっていうことがどういうことなのかを語ってはいるんですが、鉄也はそういうことを普段言わない分、いざ口にしたときの本気さの度合いがより大切になってくると思っています。それを必要以上に盛り立てるんじゃなくて、気持ちを持って流れに乗るというのを意識しました。
──斉藤さんと鉄也とで似ている部分はありますか?
斉藤 鉄也ほどではないのですが、アイデンティティの揺らぎや、どこが自分の拠りどころなのかということは10代の頃に考えたりしていたこともあって、そういう気持ちを共感できるというのはありますね。あとは本当に、現場での立ち位置が鉄也みたいで、皆さんにかわいがっていただいたところですかね。
──ほかのヒーローたちは、それぞれどんなイメージですか?
斉藤 一番萌えるキャラは、明らかに健ですよね。「科学忍者隊なのにIH知らんのかい!」っていう(笑)。昭和の科学の人なので仕方ないのかなと思うんですが、それがもうかわいくて。ただ、いざという時に健は直情的にもなるんですが、「大丈夫だ」って言ってくれると関さんの芝居もあいまって心強いなって思います。反対に、武士と城二はすごく現代に適応していますね。
城二はすべての説明を一手に担っていて、一番セリフが多い気がしますよね。教授と呼ばれていますが、テッカマンはめっちゃ強いのでバトルでも頼りになります。ポリマーはみんなのムードメーカーというか。演じられるのが鈴村さんと聞いて、「なるほど!」と思いました。お調子者キャラのようでいて、周りのことも見えている大人で。タイプは違うけれど、3人とも鉄也的にはみんな頼れるお兄ちゃんみたいで、兄貴な感じがあって好きですね。
──ヒロインの界堂笑(CV: 茅野愛衣)についてはいかがでしょうか?
斉藤 ある種、みんなキャラクターとして完成している中、笑みたいな引っ掻き回すキャラクターがいないと話が進まないと思います。最初から100%信じろっていうのは、視聴者の方もなかなか感情移入できないと思うんですが、そこで人に愛されるとか、人を信じる・信じられるということを知らずに育ってきた笑が「そんなこと言われたって急には信用できないよ」って突っぱねていくところが、視聴者の方に寄り添ってストーリーが展開していける要素かなと思います。こっち側からすると、もう少し言うこと聞いてくれないかなという気持ちがなくもないんですが、この作品で一番成長するのが笑だと思います。名前って親につけられたものだから自分が選んだものじゃない、背負わされたものだとは思うんですが、健がいう「『笑』っていうのにおまえは全然笑わない」っていうセリフの通り、笑が心からの笑みを出せる日がくるのか、それは3話以降に乞うご期待です!
──ネタバレにならない範囲で、オススメのシーンを教えていただけますか?
斉藤 当然バトルシーンはすごいんですが、そこ以外ですと、2話でアボカドのパスタを作るシーンです。城二がアボカドを半分に切って、種を包丁で取ってシュッて捨てるシーンが、まさに僕が家のキッチンでやっているのと同じ動作なんですよ!(笑) 従来のアニメだとそういう描写って省かれがちだったと思うのですが、モーションキャプチャーのアクターさんが動きを演じているので、そういう細かいシーンにリアリティが出るんだと思うんです。バトルシーンはもちろんなんですが、そういうバトル以外の細かいところを、大きなスクリーンで見てほしいなって思いましたね。
お気に入りは、敵か味方かわからないダミー
──本作はヒーローが出てくる作品ということで、斉藤さんにとってのヒーローを教えてください。
斉藤 子どもの頃、ヒーローものやスーパー戦隊ものはよく見ていたんですが、昔から、正義の味方よりも、敵の怪獣とかに興味を持っていました。今思い返してみると、すごいドラマ性を持っている敵もいて、そういうものに昔から心惹かれるものがありました。戦隊ものでいうと、レッドよりブルーとかブラックが好き、みたいな。あとはシックスマンというか、いいところで出てくる、敵か味方かわからないキャラクターが好きでしたね。声優のお仕事をさせていただいてから「トリックスターを演じたい」とよく言わせてもらっているんですが、もしかしたら子どもの頃からそうだったのかもと、今思いました。
──本作で、助けてほしいヒーローは誰ですか?
斉藤 キャラクターとしては武士が一番好きなんですが、助けてほしいのはガッチャマンですね。健って、まさに王道のレッドみたいなキャラクターで、自分の中にまったくない要素なので、一般市民としてピンチになって「もう無理だ!」って思ったときに、「大丈夫だ!」って言ってくれたら何とかなるような気がしますよね。あとは敵チームのダミーとかも好きですね。ダミーが「武士」って呼ぶ回数を数えているくらいなので……(笑)。敵の魅力もある作品だと思います。
──敵キャラも個性的ですよね。
斉藤 どのキャラクターも好きなんですが、立ち位置的にはダミー(ダミアン・グレイ (CV:平川大輔))が特に好きです。ずっとこういうアクの強いキャラをいつかやりたいと思っています。本音を見せないというか、敵か味方かわからないキャラクターで、どういう立ち位置なのか見えてこない存在なんですが、そういうキャラクターは昔から好きですね。あとはもう、ベル・リン(CV:花澤香菜)さんがかわいい (笑)。キッズに見せていいのでしょうか。僕がキッズだったら、将来の好きなタイプが決まっちゃうんじゃないかなって思います。ラジャ・カーン(CV:安元洋貴)は一番真人間というか、いい人ですよね。「Z」もいろいろあって、意外と実は両陣営の中心の人が萌えキャラなんじゃないかって思います(笑)。
ただ子どもたちには純粋な目で見てほしいですし、タツノコヒーローがお好きだった方には昔を思い出しながら今を楽しんでほしいですし、初めて見る方にはまた違った視点で見ていただきたいですね。
──そんな本作の、今後の見どころを教えてください。
斉藤 1、2話では武士とダミアンの熱い戦いが描かれていて、1話のラストで僕の演じさせていただいているキャシャーンが敵のような形で出てきて、2話で実は何者かに操られていたというのがわかるんですが、今後は徐々に敵の組織というか、敵チームの存在が明らかになっていきます。僕も最初に見たとき、戦闘シーンには衝撃を受けたのですが、映像のスタイリッシュさだけではなく、信念のぶつかりあいというか、気持ちの対話が鍵になってくるので、ぜひその熱さを楽しみにしていただけたらと思います。
──ヒーローものということで、ヒーローに憧れている子どもにアドバイスがありましたら。
斉藤 自分の心に正直になったり、自分が絶対に貫くと決めた思いを疑わずにいることって難しいと思います。自分も「一生声優の道で行くんだ」と思ってこの道に入ったけど、楽しいことばかりだけではなくてうまくいかないこともあります。それでもやり続けるんだっていう、ある意味意地になって続けていたら、きっとまた楽しいこともやってくると思うんですよね。だから月並みな言い方にはなってしまうんですが、意地になって信念を貫き通して、最後まで続けたもの勝ちだと思うので、今やりたいことや悩んでいることがあったら、環境を変えるのも大事ですが、その道を貫き通してみるということも知ってほしいなと思います。
──では最後に、視聴者にメッセージをお願いします。
斉藤 タツノコプロさん55周年の記念すべき作品に出させていただいて、光栄に思っています。僕のようにほぼ初めて触れるという方も、昔からのファンだという方も、幅広い層の方にいろんな角度から楽しんでいただける作品だと思うので、日本のヒーローの熱さと、CG技術の進歩を、できればいい画面と音響で、何度でも楽しんでいただきたいなと思います。
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