アニメ業界ウォッチング第39回:徹底的に心情描写にこだわる、さとうけいいち流アニメ演出術

3DCGアニメや実写映画までフォーマットを選ばずに監督する、多芸多才な、さとうけいいち氏。今年は「神撃のバハムート VIRGIN SOUL」の監督を終えてすぐに「いぬやしき」の総監督を勤めるほどの忙しさだが、運よく、さとう監督にインタビューする機会を得られた。
音響について、企画について、絵コンテについて、カメラワークについて……。普段は聞けないテクニカルな話に肉薄し、さとう監督流の演出術の秘密を探ってみた。


5.1chサラウンドの音響作業は、体力を使う


──まず、音響演出についてのこだわりを聞かせてください。

さとう 近年、音響監督もさせていただいていて、思うことを語らせていただきますね。目に見えるものすべてに音が付いていて、心情を邪魔してしまっていないか、気をつけています。日本のアニメは、とくにウーハーが効きすぎていると感じます。常に低音が響いているという感じです。それだから、逆にロー(低音)をカットして効果的にしたりします。映画「アシュラ」(2012年)でも試したことですが、崖っぷちとかビルの縁に来たとき、ベースになる低音をスコッと抜く。すると、「ふわっ」とビルから落ちそうな感覚になる。見ていて、スリルを感じます。劇場だからこそ味わえる良さだと言えます。音響に関しては、モニターの波形がどうだとか指摘してもダメであって、耳で聞いていてグッと来るかどうか、その感覚だけを信用しています。

──放送中の「いぬやしき」(2017年)には、俳優の小日向文世さんや村上虹郎さんが声優として出演していますが、アフレコについては、いかがですか?

さとう 声優、俳優を問わず、機械的にならないように注意しています。実写の俳優さんにアフレコしてもらったときに分かるのは、ワンカットごとにキャラクターの絵から気持ちを読みとろうとしすぎて、カット単位で演技のリズムが変わってしまうことです。ですから、「いぬやしき」では数カットごとではなく、俳優さんの感覚に任せて、僕が「カット!」と言うまで、カットの流れを切らずに録るようにしています。俳優さんには「カメラが5ヶ所から録っていると思ってください」と言います。そうすると台本に目を落とさず、芝居が自然につながります。役者さんの芝居が、決まった形に収まるのは避けたいんです。


──音楽は、どういう基準で使っているのですか?

さとう 劇判は、人物の心情に音楽を当ててます。最近は、心情ではなくて“現象”に音楽を当てているテレビドラマやアニメが多いですね。たとえば僕がここでコップを倒して、廣田さんが「何をするんですか!」と立ち上がったとすると、その現象にパニックな音楽を当てる場合が多いんです。心情に当てる場合は、コップを倒す前から二人の空気を読みつつ、不安な音楽を入れます。すると、さとうけいいちが廣田さんを怒らせているのではないか、という不穏なムードが生まれるじゃないですか。そのムードから一転、「トイレに行ってきます」と言わせて、笑いを引き出すこともできます。音楽を心情に当てるとは、そういうことです。

──音響で苦労していることはありますか?

さとう 5.1chの音響作業は、とても体力を使います。朝から晩まで長時間、膨大なサウンドの中に身を置いていると三半規管がおかしくなって、知恵熱が出たような状態になってしまって。頭痛もひどくなります。音のレイヤーを聞き分けて、立体的にするので上手くいった時は本当にうれしいです。だけど、アニメの音響作業にはもっと日数をとって、時間をかけるべきだと思っています。

おすすめ記事