「ネト充のススメ」インタビュー企画第4弾 脚本家チーム座談会 現代的な「ネトゲあるある」と普遍的な「トレンディドラマ的」もどかしさ
会社員生活に疲れた主人公・盛岡森子がネットゲームに人生の癒やしを見出し、そこでの人間関係を通じて“ネト充からリア充”へ回帰を目指す、実写ドラマのようなストーリーの「ネト充のススメ」。第4弾である今回のインタビュー企画ではシリーズ構成のふでやすかずゆきさん、脚本家の山田由香さん、井上美緒さんに座談会形式でお話をうかがった。原作の物語から森子と桜井のラブストーリーにぐっとフォーカスを当てることでよりドラマティックになった本作。シナリオチームが声を揃えて語るのはキャラクターの面白さだ。そこでクリエイターはどんなところに注目してシナリオを作り出すのか。またシリーズ構成を作るうえでのポイントなど、なかなか表に出ないシナリオ作りにおける秘訣を、さまざまな形でお話いただいた。
シナリオ作成の第一歩はキャラクターへ共感できるかどうか
──まず、皆さんそれぞれが作品に触れたときの印象について教えていただけますか?
ふでやすかずゆき キャラクターが非常に個性的で、ネトゲ世界とリアル世界という裏表があって、人間関係が面白いなと感じました。出逢いやすれ違いなど、“人”と“人”との関係性の描かれ方に、トレンディドラマのような印象を受けましたね。
井上美緒 私はもともと、原作を読んでいたのですが、自分自身もネットゲームのプレイヤーだったので、作中に登場する「ネトゲあるある」にうなずけることが多く、共感しながら読み進められました。物語が進むにつれて恋愛の描写や人間関係に移行していく感じがすごくいいなと思いました。
山田由香 井上さんとは逆に、私はネットゲームをプレイしないので、こういう世界があるんだなという新鮮な感じでずっと読み進めていました。私とは離れた世界ではありましたが、森子の三十路・独身・ニートの等身大の姿を描いたキャラクター性にはシンパシーを感じられました。
──今のお話をうかがうに、皆さまキャラクターに注目をされたようですね。
ふでやす そうですね。キャラクターがあってこそドラマが生きてくるので、どの作品でもまずはキャラクターですね。この作品でも森子が冒頭でキーボードをカチャカチャやっているというインパクトで、ツカミはOKなんです。それに元OLの脱サラエリートニートという設定だけで「この人はどういう人生を歩んできたんだろう」と想像がふくらみます。
井上 おっしゃるとおりですね。森子もニートだけれどもコロコロ(粘着カーペットクリーナー)をしていたり、キャラクターとして生きている感じがしますね。たぶん几帳面で真面目な性格でそのストレスでいろいろあったんだろうなとか、あの描写だけでそれが伝わってきます。その人にどういう背景があってこのキャラクターになっているのかと思いが馳せられるのは、やはり原作からキャラクターが生きているからなのでしょうね。
山田 やっぱり感情移入というか、理解できる部分がないと脚本は書きにくいですよね。その点、森子は感情移入しやすい人物ですし、桜井はイケメンだけどどこか一歩引いている部分があったり、後々彼の生い立ちも明らかになるにつれ、さらに興味が湧く人物です。私のようにネトゲを知らない人間からしてもキャラの魅力があり、書いて楽しかったですね。
──シリーズ構成として、ふでやすさんにはどのような経緯でお話が届きましたか?
ふでやす 柳沼監督のご推薦とうかがっています。以前、僕がシナリオを書いた「ヤマノススメ」セカンドシーズン第13話の絵コンテ演出が柳沼さんだったんです。それを面白がっていただいて、お声をかけていただいたという形ですね。僕も監督が過去に作られた短編の「月夜の晩に」も拝見してすごいなと思っていたので、よろこんで参加させていただきました。
──山田さん、井上さんをシナリオチームに呼ばれたのは?
ふでやす 作品として女性目線を入れたかったんです。井上さんがネットゲーマーだとは以前から知っていて、お声がけしたら原作もお読みでしたのでそこは迷いなく。山田さんはゲームをされないということも知っていて大変かなと思ったのですが、制作スタジオのSIGNAL.MDからご推薦をいただきました。以前、制作していた 「探偵チームKZ事件ノート」でシリーズ構成をされていて、そこに僕も各話で入らせていただいていたので、この作品でもお願いをすることにいたしました。
──各話の割り振りはシリーズ構成のシナリオライターがされるんですよね。
ふでやす そうですね。僕のほうで構成を組んで、ゲーム描写がメインになりそうな話数は井上さんに、人間関係の描写が多い話数は山田さんにお願いしようと考えました。キャラクターの感情の流れを続けて描けるので、話数を連続して担当していただけたのには助かりました。
──ふでやすさんの担当された第2話から山田さんの第3話への受け渡しは、実際にはどのように進められるのでしょうか?
ふでやす まずその話数でどんな展開を描くかという構成表を作ります。シナリオが完成していれば実際にそれを渡します。まだ完成する前の状態で手を付けていただく際には、「この人とこの人はまだ出会っていません」とか「原作はこうなっていますが、アニメではその段階ではないので使わないでください」とメモをお渡しします。それでプロットを書いていただいて、調整してから実際のシナリオ制作に進むという流れです。
──原作のある部分を省いたり、逆に広げる指示というのはプロットの段階で詰めておく形ですか?
ふでやす プロットの段階でもありますしシナリオの段階でもあります。そこはケースバイケースですけれども、プロットを組むときには1本の話としての流れが必要なので、そこで展開が原作と変わるということはあります。マンガだと作中の日にちをまたいでも自然と読めたりするのですが、アニメでそれをそのまま描くと違和感を覚える形になったりもします。ですので、そこも含めて場所や感情の流れを調整し、この作品であれば各話のラストを盛り上げるように作っていきます。
──ふでやすさんは先ほど、初見の段階でトレンディドラマ的だと感じられたとおっしゃいましたが、構成についてはどのように考えてこの形に落とし込みましたか?
ふでやす このアニメの全体の物語を考えた時に、大事なのはやはり森子と桜井の関係をどう締めくくるかだろうなと。そこに持っていくためには何が必要な部分かを考えて組んでいきました。原作で描かれていてアニメで書けなかったエピソードもありますが、太い軸としては森子と桜井です。全10話で、出会いから近づいていく過程を考えたり逆算したりして描写を積んでいった形ですね。
──トレンディドラマ感を出すうえで重要なポイントは何でしたか?
ふでやす ネトゲ内は完全に作られた人工的な世界なので、リアルの側は実写らしくしようと、地に足がついた描写を心がけました。たとえば第1話で、朝を描く時に子供が登校する描写を入れたりとか、モノローグをなるべく使わないようにするとか。というのも、アニメの場合はモノローグを使うことは一般的なのですが、実写でそれをやろうとすると画面が止まってしまうので、ギャグになってしまうんです。この作品はアニメですが実写のそういったルールをなるべく踏襲して書くようにしています。井上さんには参考として「東京ラブストーリー」を見ていただきました。
井上 私は原作を読む時に少女マンガに近い文脈で読んでいたのですが、「東京ラブストーリー」は知識としては知っていましたけれども実際には見たことがなく…。お借りしたときに「なるほど、これがトレンディドラマ感か」とわかり、書くうえで生かしていきました。
ふでやす 第5話のラストですれ違いがあって、森子が待ちぼうけを食らって桜井が駆けつけるという展開はトレンディドラマっぽさをすごく意識してもらいました。桜井が駆けつけたら、いつもと違う着飾った森子がいて、そこで桜井は本当に心を奪われ、「ラブ・ストーリーは突然に」が流れるというイメージを伝えました。ちょっとこっ恥ずかしい部分がありつつもキラキラしている描写。
井上 振り切るときは振り切ったほうがいいと。先ほどおっしゃった「地に足がついた方がいい」というお話は今はじめてうかがいました。
ふでやす 結果的にそうなっているので問題ありませんでしたよ。部屋の描写もそうですし、コロコロもそう。コンビニでストッキングを買うとか、美容室に行ったら「ガチャ何回分」と考えるところとかリアルだと思います。
山田 私の回でも、コロコロの描写を足してくださいと何度か言われました(笑)。そういうところが彼女の性格描写でもあると。トレンディドラマ感というと、各話のラストが次の話数へすごく引っ張っていく形になっているのはすごく「らしいな」と感じました。
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