音響監督・亀山俊樹 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第19回)

アニメ・ゲーム業界のクリエイターはどのようなバックグラウンドや哲学を持ち、作品制作に取り組んでいるのだろうか。その疑問に答えるのが、「アニメ・ゲームの“中の人”」インタビューだ。第19回は音響監督の亀山俊樹さん。「魔法少女リリカルなのは」、「さよなら絶望先生」、「ひだまりスケッチ」、「まりあ†ほりっく」、「バカとテストと召喚獣」、「のんのんびより」、「ニセコイ」、「3月のライオン」などの成功の裏には、どのようなこだわりがあったのか。「艦隊これくしょん -艦これ-」や「それでも町は廻っている」のキャスティング・アフレコ、「黄昏乙女×アムネジア」、「幸腹グラフィティ」、「BanG Dream!」、「つうかあ」の音作りのポイントとは。当記事では、亀山さんに熱い思いをたっぷりと語っていただいた。

実写はオリバー・ストーン作品、アニメは「プラハの夢」と「ドカベン」


─影響を受けた作品を教えていただけますか?


亀山俊樹(以下、亀山) 映画作品だったら、オリバー・ストーン監督の作品が好きです。「サルバドル/遥かなる日々」はビデオだけじゃなくシナリオも買って、音楽の入りはどこか、ソラで言えるくらい観ちゃいました(笑)。きっと影響を受けた作品だろうと思います。


─アニメのほうはいかがでしょうか?


亀山 年齢的にアニメは黎明期からたくさん観ているんですが、子供のころ「プラハの夢」というショートアニメーションが、テレビでやっていたんです(編注:「プラハの夢」は、「Fantastic! Czech Animation」シリーズ全78作品から8作品を収録した傑作選)。これはシュールなんですけど、すごくおもしろくて。影響を受けたと言えるのかわかりませんが。


師匠の斯波重治(しばしげはる)がやっていた「ドカベン」(1976~79)なんかも観ていましたね。まさか門下に入るとは、思ってもいなかったんですけど。


─現在は、月にどのくらい作品をご覧になりますか?


亀山 話題になる作品は観るようにしています。新海誠監督の「君の名は。」(2016)も、おもしろかったですね(編注:亀山さんは声優監督として、「ほしのこえ」(2002)に参加)。

歌やインストゥルメンタルももちろん聴いていますが、家でってわけじゃないんです。その代わり、ライブにはよく行っています。ジャズのライブだったり、バンドのライブだったり、いろいろ行きますよ。

斯波重治さんと千葉繫さんに師事


─斯波重治さんは、亀山さんが所属していたオムニバスプロモーションの元代表で、音響監督としても大変有名な方ですよね。


亀山 作品の深い理解ということでは、卓越しています。斯波は「私は監督ではない。監督に寄与する立場として、音を演出するんだ」と言って、「音響監督」とは名乗らず、「録音演出」と名乗っていたんです。世間で言う「音響監督」と、何ら立場は変わらなかったんですけども。僕の最初の作品「ハーメルンのバイオリン弾き」(1996~97)もそれにならって、「録音演出」としたんです。


─斯波流音響術の特徴とは?


亀山 斯波は「作品がどうあるべきか」を常に考えて、芝居をトータルで見ていく作り方をしていました。「こんな時になんでこんな表情をさせちゃうんだ!」、「それじゃ芝居が台なしになる!」と、よく電話口でアニメ制作会社に文句を言っていましたね(笑)。

─斯波さん以外に、指導を受けた方はいらっしゃいますか?


亀山 師匠というか先輩なんですけど、千葉繁さんです。


─千葉さんといえば、「幽☆遊☆白書」(1992)の桑原和真、「みどりのマキバオー」(1996)のチュウ兵衛、最近では「オーバーロード」(2015、2018)のセバスチャンの役などで知られる、声優さんでもありますね。


亀山 千葉さんはオムニバスで音響監督もなさっていて、先輩演出に付くという形で指導を受けていた時期があります。「ハーメルンのバイオリン弾き」の初回でご一緒しました。


─斯波さんと千葉さんの演出の方向性は?


亀山 全然違いますね。千葉さんはどうおもしろがって演じればいいのか、その「おもしろがり方」を伝えるスキルがすごいんですよ。「何がおもしろいのかって、千葉さんが一番おもしろいじゃないか!」と思いながら、見守っていた覚えがあります(笑)。


─お得意なジャンルは?


亀山 録っている時に何がおもしろいのかわかってしまえば、どれもおもしろいですね。割と作品にのめり込むタチなんです。

「力のあるセリフ」を録りたい


─お仕事のこだわりについてお聞きします。最初に、キャスティング・アフレコで重視されていることは何でしょうか?


亀山 斯波からは「アフレコは70%がキャスティングで決まる。僕らができるのは残りの30%だよ」と教わりました。「力のあるセリフ」はやっぱり録りたいですね。「力のあるセリフ」というのは、「パワーのあるセリフ」ということではなくて、「画面を通してこちらに届いてくるセリフ」という意味です。


本当か嘘かわかりませんが、犬は昔は吠えなかった、しゃべる人間と暮らして訴えたいことが増えたから吠えるようになった、という話を聞きました。セリフも理由があって、言いたい気持ちがあって、しゃべるわけです。つまり、雰囲気でしゃべらない、動機をきちんと把握してセリフを発することが、一番大事ということです。


声帯は限定された幅と音色しか通常出ないものなので、役者さんはひとつの楽器という部分もあります。その楽器を使って、どんな演奏をしてくださるかというのもありますが、キャラクターが「なぜしゃべるのか」というところにまでちゃんと戻ってやってくれる方を、キャスティングしたいですね。「〇〇らしさ」というのは、キャラクターがすっと身の内に入れば、自然にかもし出されてくるものだと思います。


「これはあのパターン」、「こんな感じでやっておけば、なんとかなるだろう」という感覚でやっているのはダメですね。10月期の作品があるとして、この場で初めて音声化されようとしているのに、前と同じようなことをするのは嫌じゃないですか。だから、作品ごとにベースに戻ってやってくださる方、新しいものを作っている意識のある方が欲しいんです。


─「力のあるセリフ」を言うためには、豊富な人生経験も必要でしょうか?


亀山 若くても苦労している人や、ちゃんとものを見ている人はいるんですよね。養成施設でよく言われることですけど、「自分を見つめること」、「自分の暗部から目をそらさないこと」が役者には大事になってきます。


─亀山さんが参加される作品のキャラクターは、どれも真に迫るものがあります。


亀山 「このドラマだったら、こういった表情が必要」というのは、きちんとお願いしています。「魔法少女リリカルなのは」第1期(2004)で、釘宮理恵さんにアリサ役をお願いしたんですが、なのはがアリサのわがままをいさめたら、彼女がぶち切れるシーンがあるんです。そのぶち切れ具合は、ただならぬぶち切れ方をしてもらわないと先に進まないなと思ったので、「もっと、もっと!」と言って、本当にただならぬところまで持っていってもらったんです。釘宮さんだからこそできる、「限界値に達した少女」というのをやってくださったので、そこからドラマがふくらんだと思います。


─「それでも町は廻っている」(2010)のキャスティングもユニークで、ファンの間で話題になりました。


亀山 歩鳥はかなり素っとん狂なキャラクターで、何を言っても本気か嘘かわからない、でも彼女の中では本気。オーディションが終わった時点で、僕と新房昭之監督で「歩鳥は、小見川千明さん以外にはありえません」と言っていました。ウキ役のキャスティングにあたっては、監督が「変なことしたーい!」とおっしゃったので、櫻井孝宏さんにいじわるばあさん的な演技をお願いしました。


─そのほかに演技指導で気をつけておられることは?


亀山 監督の求める物語の方向性とか転機とかは絵コンテに明確に描かれていて、映像を見れば、よりはっきりしてくるものなので、映像を直すまでの要求をすることはありません。ただ、「これだと気持ちを切り替えて、次のセリフに行けない」時には、間の調整をお願いすることがあります。


─アフレコではどのくらいリテイクをされますか?


亀山 「セリフの活きがいいうちに録り切る」のが、僕のテーマです。前のめりになってやってもらわなきゃならないのに、繰り返し録っていくうちに、何で言いたいのか、たどれなくなってくることがある。つまり、陳腐化してくるんです。


相手の言ったことに対して、「そんなこと言いやがって」と言い返す動機ができるわけです。だけど、リテイクを繰り返していくと、新鮮な気持ちではいられなくなって、「そんなこと」がどんどん薄まっていっちゃうんですよね。だから、テストテイクを多用するケースもあります。もちろん、ノイズが入っていたらダメですけど。


─テレビシリーズ1話分のアフレコは、どのくらい時間をかけますか?


亀山 僕のアフレコは早いですよ。「3月のライオン」(2016~17)は、ベテランが多いというのもありますが、2時間ちょっとで録り終えています。新人の方が多くて、表情をうまくとらえられていなかったり、タイミングがうまく取れなかったり、ひとりでしゃべっちゃったりする場合は、4~5時間かかることもあります。


─監督によってやり方を変えることは?


亀山 作品のトーンにもよるんですけど、ブースに行って僕らが説明する時にどういう表情で、どんなふうにしゃべるかというのは、ある種のプレゼンテーションなのかもしれません。しれっとして淡々とお伝えしている作品もあれば、結構軽いノリでやっている作品もあります。作品ごとに自分の態度も変えますし、ディレクションの言葉が違うこともあるんです。


─監督とのやり取りは、スタジオが中心になるのでしょうか?


亀山 「RED GARDEN」(2006)の時は、どんな世界観なのか、誰がどういう思いなのかを、松尾衡監督としっかり話し合ってから、スタジオに入りました。あれはオリジナル作品だったので、どういう内容になるか知りうる手段がなかったので、役者さんも交えて別の場を設けて、話し合いました。

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