「ネト充のススメ」インタビュー企画第5弾 能登麻美子(主人公・盛岡森子役)インタビュー「すごくストレートに追求できたと思います」

会社員生活に疲れた主人公・盛岡森子がネットゲームに人生の癒やしを見出し、ネットでの人間関係を通じて“ネト充からリア充”へ回帰を目指す、実写ドラマのようなストーリーの「ネト充のススメ」。最終回は主人公・盛岡森子役を演じる能登麻美子さんのインタビューをお届けする。作品への向かい方や芝居の仕方、そして現場からのフィードバックなどをやさしくていねいに語っていただいた。


森子のナチュラルさのための”無”の境地で臨んだ芝居


──能登さんが「ネト充のススメ」に最初に触れたのはどのタイミングでしたか?

能登 オーディションの際に読ませていただきました。実はネットゲームの経験がなかったので、作品の世界観や内容、オーディションのセリフの前後の関係などを把握して臨みたいなと思い、早い段階で原作に触れさせて頂きました。

──作品の第一印象はいかがでしたか?

能登 森子というキャラクターの面白さがとても印象に残りました。彼女のバックボーンや人間関係など、たくさん要素はありますが、オーディションを受ける時は「森子を演じる」という目線で見ていたので、彼女のすごく真面目なところや、ていねいで誠実なところがありつつも、独白のようにコミカルに動くところの対比がとても面白いと感じました。森子の過去には「社会人としての姿」が、森子の現在には「ネットゲーマーのあるある」がいっぱい詰まっているような気がして、たくさんの人に共感して頂けるキャラクターだな、と思いました。演じる上では、「いかにこの人を面白く演じられるか」を意識しながら、役に入っていった事を印象深く覚えています。

──コミカルな動き、と言えばこの特集の脚本家座談会<#>で話題にのぼった、ベッドの上で悶えたり、抱き枕のくだりとか。

能登 そうそう、コロコロをかけるところとか(笑)。ああいったリアルな描写が多かったので、すごく身近に感じられました。私自身はネットゲームをプレイはせずとも憧れは持っていました。対機械ではなく人間同士がつながっていて、このキャラクターの先にはリアルに生きている人が存在するんだというのが、とても新鮮でしたね。自分自身にとっては知らないことがいっぱいあったので、その意味でも読み進めていく中で知っていくという面白さがありました。


──「脱サラニート」という森子の設定についてはどのように考えられましたか?

能登 森子のバックボーンとしてすごく大事な部分だと思い、先程の「リアルな描写」での「コミカルな演技」と同じくらい重要だと考えました。ただ面白いだけでは根っこがない人物になってしまいます。バックボーンを踏まえたうえでの味付けを意識して演じました。

──今回、森子を演じることは能登さんにとって新しい挑戦だったと伺いましたが、それはどういったところでしょうか?

能登 まず設定として、30代独身でニートの女性が主人公であるアニメーション作品自体、新しいと思います(笑)。私としては今までは割と内向的だったり、品のいい子の役が多かったり、近年はパンチの強い役もあったのですが、こうした設定の役どころはそもそもなかったので、楽しい役だなと思いました。「もっとこうしてみたらどうかな」「こうしたらもっと森子らしくて共感してもらえるかな」とか、すごくストレートに追求できたと思います。それは大前提として相手役とのお芝居があったうえでの話なのですが。


──森子の人物像をともに作り上げる林役の鈴木(崚汰)さんとのやり取りはいかがでしたか?

能登 具体的にどうこうというよりかは、お芝居の中で感じあうという感じでしたね。鈴木くんはこの作品が初めてのレギュラーで、しかも大きな役で、難しいことも大変なこともあったと思いますが、特に相談せずとも「今、私の森子の思いを汲んでセリフを出してくれたな」とか「ネットの世界につなげてくれたな」と明確にわかるところがあり、根底のところでちゃんとつながっているなと感じながら2人でお芝居をしていました。私たち2人が作中で会話をすることはありませんでしたが、「森子」というキャラクターを軸に、森子=林を創り上げていけたなと思います。


──そのほかの共演された役者の方々とのお芝居はいかがでしたか?

能登 櫻井(孝宏)さんは、言葉を交わし合っている中で「今、私のセリフをすごく拾ってくださっているな」という安心感がありました。それは小岩井役の前野(智昭)くんからも同じことを感じて、私も安心して森子を出せました。森子がいきなりテンパっても、ふわっと返してくださる感じ。後半に行けば行くほど桜井(優太)と森子に主軸が当たっていって、どこか実写っぽくて、脚本家の皆さんもおっしゃっていましたけれども「トレンディドラマ感」が強くなってくるんですよね。そうしたところは、ある種の生々しさが大事だったりするのですが、そういったところはお互いにナチュラルに返し合えるというところを、常々感じていました。

──アニメのお芝居は、絵に当てる以上、一般的にはある程度の過剰さが必要で、その中でのナチュラルさや生々しいお芝居というものを表現するうえではどのように組み立てていったのでしょうか?

能登 この作品の収録がプレスコだったことが大きいと思います。完全なプレスコではなかったのですが、私たちの芝居を汲んでくださって、間尺を変えていただけたこともありました。音響監督の郷田さんからはよく「尺は気にしないでやってみて」とアドバイスを頂きました。一般的なアフレコの場合、間尺に合わせて緩急を組み立てる形になるのですが、この作品の森子の場合、純朴な性格のためリアクションも、本当にありのままの姿で表現することが彼女のキャラクター像になってくると思ったので、いかに自分を摺り合わせていくかが重要でした。だからお芝居もあまり作為的にならないように極力、”無”でやろうとしました。ストーリーの流れもありますから、作為が完全なゼロというわけにはいかないのですが、極力その反対側に置いて、森子のそういうニュートラルなところを拾っていきたいなと思って作り上げていきました。

──間尺のお話は興味深いですね。新人さんは自分の”間”ではない、カット割りの”間”でセリフを入れることに苦労されると聞いたことがあります。

能登 新人じゃなくても大変です(笑)。それが今回の作品では、私達の演技の「間」を優先してくださった部分を多く感じました。アニメーション作品は分業によるもので、監督さんやアニメーターさんなど、たくさんの人でひとりのキャラクターを作っていると言っても過言ではありません。だからこそ面白いところだなと思いますし、それゆえに整合性を取る難しさはあると思います。ですが、今回は私達の演技の部分を軸にして汲んでいただいた、という感じでした。


──作中にはじっくり”間”を使った演出も多々見られました。

能登 リアル世界では、顔の部分をあえて見せなかったり、水滴の落ちる量で時間や温度感を表現していたり、そうした演出が実写っぽいなと感じました。リアルパートでは実写らしい演出を駆使し、ネットゲームではアニメーションらしい演出をされていて、その意味でこれは「ネト充のススメ」でないとできない作り方だと思います。

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