アニメ業界ウォッチング第41回:“やさぐれた孫悟空”の中年らしい魅力を引き出す! 「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」日本語吹替制作監修、宮崎吾朗の語る3DCGアニメの魅力とは?

2018年1月13日から公開される中国製の3DCGアニメ「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」は、胸のすくような快作だ。よく知られている天竺へ旅する話ではない。かつて天界の暴れん坊だった孫悟空が、ひとりの少年によって500年の眠りから目覚める。だが、中年にさしかかっている孫悟空は少年から助けを求められつつも、かつてのパワーを出せないジレンマに悩み、ぶっきらぼうに「昔の俺とは違うんだ」とそっぽを向いてしまう。しかし、伝説の英雄の復活を聞いた妖怪の長は、孫悟空との対決を望む。
全編、アクロバティックなアクションと飄々としたユーモアが散りばめられ、どちらかというと大人向けの粋な作品に仕上がっている。「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」の日本語吹替制作監修、主題歌・挿入歌の作詞を担当したアニメ監督の宮崎吾朗氏に、作品の魅力と実作業、CGアニメの面白さについて語っていただいた。


完成までに8年もかかった、熱意あふれる作品


──「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」の第一印象を聞かせてください。

宮崎 まず、色味がすごいと思いました。アメリカ的でも日本的でもない、中国ならではの色彩感覚なので、とても新鮮でしたね。見ているうちに、制作者たちのエネルギーがどんどん伝わってきて、圧倒されました。ここまで一生懸命にアニメをつくっている人が隣の国にいる。しかも、田暁鵬(ティエン・シャオポン)監督は今作が初監督で、なんと8年間もかけて1本のアニメ映画をつくり上げた。「俺はとにかく作品をつくりたいんだ!」というシンプルな動機だけでここまで頑張れる人は、自分を含めて周囲にどれぐらいいるんだろうか……? 監督の熱意も含めて、感動しました。


──最初に見た時点では、まだ日本語吹替版の監修の話は出ていなかったのですね?

宮崎 そうです。2016年に東京藝術大学・横浜校で、田監督との対談がありました。韓国や中国の学生も多かったので「CGアニメは世界のどこでつくっても技術の基盤は同じなので、志さえあれば国際的に通用するすごい作品をつくれます。田監督の『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』は、とてもよい見本です。皆さん、ぜひ頑張ってください」という話をしました。田監督は口数の少ない方なので、あまり対談とはなりませんでしたけど(笑)。

──日本語吹替版の監修を頼まれたのは、その対談のときですか?

宮崎 はい。対談が終わってから、横浜の居酒屋で打ち上げがありました。その席で、おもむろに田監督から「日本語版の監修をお願いしたい」と言われました。作品も面白かったし、海外アニメの吹替監修はやったことがないし、引き受けることにしました。その時、なるべく原語版のニュアンスを残した日本語版をつくりたいと話しました。たとえば、原語版では孫悟空のことを「斉天大聖」と呼んでいます。「大聖」は尊称ですから、主人公の少年は敬った呼び方をしているわけです。それなのに日本語版で「孫悟空」と呼んでしまったらニュアンスが変わってしまいますよね……といった話をしていたら、田監督から「ぜひ、あなたに監修をお願いしたい」と頼まれました。「ついでに挿入歌もつくり直してほしい!」と。

──ずいぶん、矢継ぎ早にお願いされたのですね。

宮崎 そうなんです。だけど、田監督が「挿入歌をつくり直してほしい」と言ったのには理由があって、オリジナル版では10年前に流行った曲を使っていたため、中国のファンには評判が悪かったそうなんです。何しろ制作に8年間もかかっているので、つくっている間に当初は新しかった曲が古くなってしまった。若い観客から、「どうしてあんなオジサン世代の曲が出てくるんだ?」と言われてしまったそうです。なので、挿入歌は全面的につくり直してほしいと。しばらくすると、「ついでに主題歌もつくり直してほしい」(笑)。というのは、主題歌の作曲家がとても厳しい方だそうで、日本人の歌手を連れていっても、なかなかオーケーがもらえないだろうという危惧があったんです。だったら、最初から日本でつくり直した方がいいんじゃないか、というのが理由でした。


──宮崎監督は挿入歌・主題歌の作詞を手がけられたわけですが、田監督からオーダーはありましたか?

宮崎 単刀直入に「つくってほしい」と言われた割には、これといったオーダーはなかったんです。オリジナルの挿入歌は男性ボーカルのロックでした。日本版の挿入歌は、主題歌と同じように女性ボーカルにしませんか、と僕から提案しました。「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」は男ばかり出てくる渋い物語ですから、女性の歌声が入ることで、ちょっと潤いが出るんじゃないかと思ったからです。

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