デスマ体験から生まれた? 「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」原作者・愛七ひろインタビュー!

話題の冬アニメ「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」の放送がついにスタートした。


「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」は、小説投稿サイト「小説家になろう」(※『小説家になろう』は株式会社ヒナプロジェクトの登録商標です。)に掲載され、PV数5億超、小説と漫画のシリーズ累計発行部数200万部突破の大人気作品。異世界に迷い込み、ひょんなことから最強の力と財宝を手にしてしまった主人公"サトゥー"が、女の子達を助けたり、デートしたり、観光したり、おいしいものを食べたり……という夢のような旅に出かける姿を描いた、ほのぼの異世界観光記。

今回、そのアニメ放送開始を記念して、原作者の愛七ひろさんに本作執筆の裏側をズバッと答えていただいた!

これを読めば、よりアニメを楽しめること間違いなし!

ルーツは読書とTRPG!

――今年1月よりアニメがスタートした「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」(以下、デスマ)。原作は小説投稿サイト「小説家になろう」で2013年3月から連載が始まった人気作です。本作を書き始めたきっかけをお教えください。

愛七ひろ(以下、愛七) 2012年頃までは「小説家になろう」自体も知らなかったんですが、(同サイト発の人気連載作の)「魔法科高校の劣等生」や「理想のヒモ生活」を知って興味を持って、サイトに行ったのがきっかけですね。それから読者として投稿作を読んでいたんですが、「この設定なら、こっちの展開のほうが面白くなりそう」とか「こういう考えのキャラならこう動いてほしいな~」とか、気になる点やフラストレーションがちょっとずつ溜まっていったんです。

ただ、文句を言うのは簡単なので、自分で書いてみたらどうかな、ということで書き始めたのが「デスマ」なんです。

――原作の「1-1」のあとがきには「はじめて小説を書いてみました。」とあります。もともと小説家を目指していた、といったわけではないのですね。

愛七 ライトノベルを中心に、昔から本を読むのは好きでしたね。昔は海外SFや眉村卓さんの短編集なども読んでいましたし。小説は大学生の時に、当時やっていたTRPGのリプレイ小説のようなものを書こうとして、数ページで書けなくなってしまったことはありました(苦笑)。

――TRPGをやられていたのですね。TRPGと出会ったきっかけは?

愛七 きっかけはゲームブックです。そこから雑誌「コンプティーク」や「LOGIN」に掲載されているリプレイなどを見て、当時はまだ日本語版の出ていなかった「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(D&D)を知って……。大学に入ってからは仲間を集めて、毎週セッションをする感じでしたね。

――「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」に登場するスキルの多様さなどを見ると、かなりのゲーム好きであることがうかがえます。

愛七 TRPGのゲームマスター(GM)をすることが多かったので、その経験が生きているんだと思います。TRPGをプレイしていた頃は、話のアイデアが尽きないように視野に入るものからなんでも着想していく、みたいなことをやっていました。観葉植物をクリーチャーにしたらどんな感じになるだろうか?とか。ただ、TRPG自体は大学を卒業して、仲間が全国に散ってしまってからは全然やってないです。

ほかにも「ウィザードリィ」や「ウルティマオンライン」、「ファイナルファンタジーXI」など、これまでにハマったゲームはいろいろと作品の参考になっていますね。

――ゲームの設定なども事前にかなり緻密に詰められているのですか?

愛七 設定を作るのは好きなんですけど、好きだから作り始めると止まらなくなっちゃうんですよ……。だから、「デスマ」はそこでリビドーが発散してしまわないように、なるべくスタート時には設定を作らないようにしようと思いながら始めました(苦笑)。

だから、呪文の詠唱もその文言を考えるのに時間を割かないために、主人公のサトゥーが詠唱できないという設定にしてるんです。だから、アニメの監督の大沼心さんが「詠唱をどうするか、すごい大変です」って言ってましたね。書き始めた当初、メディアミックスするとしてもコミカライズで、最終目標でもドラマCDになったら嬉しいなぁと思って始めたのがマズかったかな(笑)。アニメ化は絶対にないから気にせずに描こう!と思ってたんです。

――お話を聞くと、かなり伝統的なオタクコンテンツを通過していらっしゃったのだな、と。

愛七 基本的にはオタクだと思うんですが、深く知っている時期と離れている時期がありますね。大学生の頃は「ふしぎの海のナディア」や「トップをねらえ!」なんかをよく見てました。ほかにも「Fate/stay night」にハマったり……。ただ、社会人としてゲーム会社のプログラマーとして働くようになって、なかなか作品を見る暇がない時期も増えましたね。


プログラマーと二足のわらじでスタートした執筆

――ゲーム会社でプログラマーをされていたんですか! では、物語の冒頭、主人公のサトゥーの現世での描写は、ご自身の経験が反映されているのですか?

愛七 「デスマ」冒頭のシーンは実体験を下敷きに、それを脚色した感じです。

――どういったゲームを作られていたんですか? また、ゲームの企画職なども経験されたのでしょうか?

愛七 作ったゲームのジャンルはアクションシューティングやRPG、格闘ゲームなど、幅広いです。ただ、企画職には一切触れておらず、プログラマー一筋でしたね。


――では、小説執筆は完全にプライベートの趣味だったんですね。原作の「デスマ」は現在16章を迎えるなど、長大な作品となっていますが、執筆当初はどの程度の分量を想定していたのですか?

愛七 最初は完全に習作として始めたので、13話くらいでとりあえず完結させるお話にしようと思っていました。起承転結、それぞれにあたるお話が3話ずつで、最後にエピローグが1話あればちょうど13話かな、と。アニメとかでも1クールはだいたい13話ですしね。ところが、そんなに甘くなかった(苦笑)。それまで小説を書いたことがなかったんで、見積もりがわからなかったんですよね。3〜4話書いたあたりで、これは13話では絶対に終わらないな、と思いました……。

――「デスマ」は連載開始当初、毎日更新をされていました。かなり書き溜めてから公開されたのですか?

愛七 最初に投稿した時は、7話分くらいを書き溜めてたと思います。それと、4話目を書いていた頃に、「デスマ」の最終回を書いたんです。ラスボスは誰で、サトゥーたちがどういうスキルや戦い方をして決着するのか、という話を。だから、今はその最終回までの間の話を書いているわけです。ただ、そこがどんどんふくらんでしまってるんですけど(笑)。

――どのあたりで作品に人気が出てきたのがわかりましたか?

愛七 毎日投稿を始めて、6日目くらいで「小説家になろう」の日間ランキングに載ってからは急激に数字が上がって驚いた記憶がありますね。1日だけのまぐれかな、と思っていたら、それがしばらく続いたので……。

ただ、毎日投稿にしていたのも、読者としてサイトを見ていて、更新頻度が高いほうが人気が出やすいということがわかっていたというのはありますね。だから、がんばれる間は毎日投稿をしよう、と。結局半年くらいで体力的に難しくなって更新は1週間単位にしました。その後に書籍化の打診を受けたので、(刊行ペースなどを考えると)更新頻度を1週間にしてよかったって感じです(笑)。

――ちなみに、「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」というタイトルですが、これはどのように決められたのですか? 冒頭以外「デスマーチ」要素はないですよね……?

愛七 よく「タイトル詐欺」とも言われますけど、「デスマーチからはじま」ってはいるんですよ(笑)。実は、さっき言った最後のエピローグにもつながってくるんですが……それはまぁ、まだ秘密です(笑)。とりあえず「デスマーチ」という単語と、当時「なろう」系でテンプレだった「異世界」もタイトルに入れておこう、と。

「狂想曲」については、当時プレイしていたゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」の影響を受けてますね。ちょうどリフレッシュ休暇中に、知り合いに貸してた「ガンパレ」のソフトが戻ってきたので久しぶりにプレイしながら、小説の構想を書いていて。「ガンパレ」の「幻想」とか「◯◯曲」ってイメージから来てますね。


――「マーチ」自体に行進曲という意味合いがありますからね。タイトルの付け方もそうですが、本作はいわゆる「なろう小説」というジャンルに含まれる作品だと思います。このジャンルからは多数の人気作が輩出されていますが、愛七先生自身は「なろう小説」の現状をどう見ていますか?

愛七 僕は基本的に、いわゆるテンプレのお話が大好きなんですよ。そもそも「デスマ」の着想も、ほかの作品を読んでいて「自分だったらこう書く」というところから始まっているので。だから、「俺tueee」系も「強くてニューゲーム」系の作品も大好きなんです。そういった作品に自分が昔やっていたTRPGの知識などを反映して、オリジナリティを加えたのが「デスマ」なんです。

――そういう意味では、「デスマ」は「小説家になろう」がなかったら生まれなかった?

愛七 間違いなく生まれてないです。それに、「なろう」ブームが生まれなかったら、「デスマ」が書籍化すること自体もなかったでしょうからね。



転がるくらい嬉しかったアニメ化!

――実際にアニメ化が決まった時の率直な感想をお教えください。

愛七 「わー、すげー」って感じでした(笑)。いや、「デスマ」がちょっと売れ始めた頃に当時の担当編集と話したんですが、その頃にはもう「ラノベのアニメ化自体が縮小傾向にある」という話だったんです。しかも、「デスマ」には奴隷が出てくるなど、あまりアニメ向きの内容ではない。だから、アニメ化の声はかからないだろうなと思ってたんです。だから、最初は信じられなくて、どう反応していいかわからなかったので、どこか他人事のように答えてましたね。でも、内心では床を転がるくらい嬉しかったですよ(笑)。


――アニメで初めて「デスマ」に触れる方には、どんなところを楽しんでほしいですか?

愛七 主人公のサトゥーが仲間たちとほのぼの異世界情緒を観光するところを楽しんでほしいですね。冒頭はバトルで始まったりもするんですけど、そこはあくまでフレーバーなので(笑)。最初に大きなバトルを入れたのはつかみでもあるし、「これくらいスゴい主人公だから、どんな過酷な世界でも安心してうろうろできます」っていうのを見せるためなんですよね。

――「主人公が強いから、安心して観光できるよ」ということ(笑)。愛七先生的な推しキャラは?

愛七 推しキャラはアリサです。サトゥーがわりと冷静なキャラなので、熱い動きやオタクくさいことをさせる時に一番魅力のあるキャラがアリサなんですよね。だから、書いていても楽しいんです。

ただ、あまりに楽しすぎて、気をつけないと出番が多くなりすぎてしまう……。油断するとサトゥー並みに出てきてしまうので、出番を調整するのが大変です(笑)。細かいプロットを作る段階で、ほかのキャラの見せ場を考えながら、登場するキャラをアリサよりも向いているキャラに替えたりもします。

――アニメ化にあたって、映像やアフレコ収録の様子などは見られましたか?(取材は12月後半)

愛七 第1話のアフレコ見学に行かせてもらいました。声がすごくよかったですね。

――また、アニメでぜひこのエピソードに注目してほしい、というのがあれば、お教えください。

愛七 魔術師ゼンのエピソードは見てほしいですね。実はゼンのエピソードは書籍版でかなり加筆をしているんですよね。だから、そこがアニメでどう表現されているのかっていうのを、ぜひ見てもらえたらな、と思います。

――最後に、「デスマ」ファンの方へのメッセージをお願いします。

愛七 アニメ化にあたって、声優さんも力を入れて演技をしてくださいました。それと、監督やアニメスタッフの方もすごくがんばってくださっているので、ぜひ動くサトゥーたちを楽しんでください! 僕も楽しみます!!


(取材・文/須賀原みち)

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