「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第四章 天命篇上映開始直前!ヤマトサウンドの要・吉田知弘音響監督インタビュー!

2018年1月27日(土)より劇場上映される「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第四章 天命篇」。シリーズも半ばに到達し、リメイクのベースとなっている映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」(1978)やテレビシリーズ「宇宙戦艦ヤマト2」(1978)とはひと味違った、「2202」独自の展開が本作からいよいよ濃厚になっていく。アキバ総研では、「第三章 純愛篇」上映時の作曲家・宮川彬良さん取材に続き、作品のサウンド面の要となるスタッフである、音響監督の吉田知弘さんへのインタビューにのぞんだ。


「音響監督」のお仕事とは?

──吉田さんが担当している、「宇宙戦艦ヤマト2202」での音響監督のお仕事とはどのようなものか教えてください。

吉田 作品まわりの音全般、音楽、SE(効果音)、キャスト(声優による声の演技)などを取り仕切る役割です。全体のイメージ形成からプランニング、収録、運用まで、監督等のスタッフと相談しながら、その意向に添うように仕上げていく……、そんな仕事になります。

音楽に関していえば、まずは羽原信義監督の意向をヒアリングし、シナリオを確認して、必要な音楽をイメージします。そこから作曲家の宮川彬良さんに音楽を発注するためのメニューを作り、録音に立ち会い、どのシーンにどの音楽を当てはめるのかを決める「選曲」という作業、実際にフィルムと合わせてみて、音楽、SE、セリフのバランスを決め込むMA(Multi Audio)作業を経て完成となります。「2202」の場合は、「さらば」「ヤマト2」というベースとなっている旧作の音楽が存在しているので、そのイメージを継承していくという前提があります。さらに「宇宙戦艦ヤマト2199」からの続編でもあるので、「2199」の音楽からの流れやイメージも壊してはいけない……、そうした枠組みの中での作業になります。

「宇宙戦艦ヤマト2202」ならではの音楽設計

──「さらば」「ヤマト2」という、イメージの強い旧作の音楽を継承しながら新しい作品を作っていくというのは、とても難しい作業なのではないでしょうか?

吉田 前作「2199」でもそうでしたが、まずは旧作の各シーンで鳴っていた宮川泰さんの音楽をしっかり継承することを基本としています。そして「2202」ならではの新設定や新しい掘り下げ、変更個所に対しては、宮川彬良さんの新しい音楽性を存分に発揮していただくというのが基本的な考え方です。そもそも私自身が旧作時代からの「ヤマト」の大ファンなので、羽原監督やシリーズ構成の福井晴敏さんが、旧作のいいシーンをうまく継承しようとしながら作っていることを、日々、ヒシヒシと感じています。シナリオを読むだけでもその意図が伝わってきて、自然に旧作の音楽が頭の中に流れだすので、そこは難しいというより、むしろ楽しい作業ですね(笑)。

ただし、「さらば」「ヤマト2」のためにかつて録音された音楽というのが、本編で使われていない曲やレコード、CDになっていない曲も含めると、実は200曲以上も存在するんです。原作者である西﨑義展プロデューサーは、実際に本編で使うかどうかは度外視して、とにかくすごい曲数を録音する制作方針だったので。映画「宇宙戦艦ヤマト 完結編」(1983)の時には、2時間半の映画のために、新作曲だけで10時間分の録音が残されているくらいです(笑)。ですので200曲分のストックを「2202」にどう落とし込んで、どう生かすか、これを考えるのは難しい作業でしたね。シナリオを読んで、自然に聴こえてきた音楽を中心に、まず私のほうで60曲まで絞り込みました。しかし、これに「2199」の音楽や新作曲が追加されることを考えると、まだまだ多すぎるんです。宮川彬良さんの作業量としても、録音予算的にも。ですので、さらに泣く泣く削り落として、「さらば」「ヤマト2」の音楽から「2202」の音楽へリメイク(再録音)すると決めたのは、最終的に約40曲となりました。1/5になっちゃいました。

──いわゆるBGM音楽ではなく、旧作のLPレコード用作品「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」(1977/日本コロムビア)の楽曲が使用されているのも、ファンにとってはひとつの嬉しい驚きでしたが……。

吉田 シナリオを読んでいて、羽原監督は「さらば」での海中からのヤマト発進シーンをそのまま再現したいんだな……というのは手に取るように分かりましたので(笑)。ならばそのシーンで使われている「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」の「THE BIRTH - 誕生」は必要になる。オープニングタイトルのところも読んでいて自然にスキャットが聴こえてきたので、もうこれは素直に「OVERTUNE - 序曲」と合わせて、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」の頭の2曲は再演奏・再録音しなくてはと思い、宮川彬良さんに提案したらすごくノッてくれました。この2曲なら、宮川さんの手元にもコンサートで再演した際の譜面があったので。

──譜面といえば、「2199」のときは、旧作の譜面が残されていないため、宮川彬良さんがすべて「耳コピ」でスコアを書き起こしたということでしたが、今回も同じような作業があったということでしょうか?

吉田 そうなります。やはり譜面が残っていなかったので、今、申し上げた「絞り込んだ40曲」分に関して、宮川彬良さんに採譜からの作業をお願いすることになりました。ただし、「2199」のときは、楽器編成から細かなニュアンスまでを含めた「完コピ」を目指したのに対し、「2202」の作業では、彬良さんが聴いてみて、現代的なサウンドとして物足りないと感じた部分などは付け足しや再アレンジもOKという、柔軟な対応をする方針になりました。

宮川彬良さんの仕事は、とにかくアレンジのうまさが天下一品です。美しいメロディを書けるのももちろんですが、それをアレンジによって多様に生かしていくセンスが素晴らしいですね。そこはまさしくお父さん譲りの才能だと感じています。「2199」に、主題歌「宇宙戦艦ヤマト」のメロディを新しくアレンジした「ヤマト渦中へ」という曲がありましたが、大編成オーケストラの前で宮川さんがタクトを振って、私たちのよく知る、あの「宇宙戦艦ヤマト」のメロディが、まったく新しい印象で響きだした瞬間の感動は、今でも忘れられません。映画「ヤマトよ永遠に」(1980)の音楽の中に「未知なる空間を進むヤマト」という主題歌アレンジ曲があるんですが、宮川彬良さんには、これを超える曲をお願いしたい、とオーダーしたんです。その答えが、あの「ヤマト渦中へ」でした。旧作で何度も何度もアレンジし尽くされたメロディを、よくぞここまで……と、私たちの期待に見事に応え、超えてくださいました。今回の「2202」のための新曲も、アレンジの違いによるさまざまなバリエーションが揃っています。

ただ、ほかのアニメ作品での経験と比べると、とにかく完成度が高く、イメージの強い「ヤマト」の音楽は、むしろ映像には合わせにくい一面があります。音楽としての流れの自然さと、それを映像に載せたときの流れの自然さは、時としてうまく一致しない場合があるんです。そこをいかにシンクロさせるか、そこが「ヤマト」の選曲作業のキモになる部分ですね。ほかの作品だと、シーンの尺に合わせて音楽も割と気軽に編集できるし、元々そういうふうに音楽も作ってある場合が多いんですが、「ヤマト」の場合はそうはいかない。音楽的にムリがないように、どこまでシーンの流れに合わせられるか……、そこを日々追及しています。

──帝星ガトランティスが、地球人類ともガミラスとも全く文明構造の違う種族であることが、第三章あたりから少しずつ見えてきましたが、ガトランティスを音楽で表現するときに、意図されたことなどはありますか?

吉田 最初のテレビシリーズ「宇宙戦艦ヤマト」(1974)の音楽では、デスラーをイメージした曲はあっても、ガミラスという国家を想起させるような曲はありませんでした。「2199」では、そこにガミラス国家「永遠に讃えよ我が光」という素晴らしいモチーフを宮川彬良さんが新たに加えてくれまた。反対に「さらば」「ヤマト2」には、「白色彗星帝国」の強烈な音楽イメージはあっても、ズォーダー大帝をイメージさせる音楽はありません。「2199」とは逆の論法で、ズォーダーのための新曲を用意し、強調していこうという意識はありました。

また、旧作では白色彗星のテーマとして印象的だったパイプオルガンの音楽ですが、あれをサーベラーが「演奏」している現実音として物語の中に登場させる、というアイデアは、ごく初期の段階に羽原監督から提示されたものでした。

──以前、劇場でのトークイベントの際、吉田さんご自身が、「使用されるシーンの状況によって、音楽のミックスを変えている」というお話をされていましたが、これはどういうことなのでしょう?

吉田 BGM音楽は通常、各楽器の音が別々のトラックに収録されたマルチトラックの音源を、必要に応じて劇場用やCD用にミックスダウンして使用するんですが、私はミックス前のマルチトラックの状態の音源も素材として保管しているんです。劇中のシーンによっては、どうしても音楽が効果音やセリフとぶつかって、どちらかの音量を下げざるを得ない状況があるんですが、そんな時、たとえば効果音とぶつかるパーカッションの音だけをカットすれば、音楽も効果音も生かすことができる……。そんな使い方をしています。これは実際にはすごく手間と時間がかかる作業なので、ほかの音響監督さんは絶対にやらない作業だと思います。ヤマトならではの私独自のこだわりの部分ですね。

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