「私は歌になりたい」歌を愛し、歌に生きるアーティスト・凛、10年間の集大成にして初のフルアルバム「凛イズム」インタビュー!

2007年のソロデビュー以降、アニメ「カードファイト!!ヴァンガード アジアサーキット編」EDテーマ「情熱イズム」、「クロスファイト ビーダマン」OPテーマ「TRUTH」をはじめ、アニメソング、ゲームソングを歌ってきたアーティスト・凛さんが、デビュー10周年にして初のフルアルバム「凛イズム」を1月31日(水)にリリースする。


AKBグループをはじめ多くのアーティスト、声優の仮歌やコーラスを手がけることで「日本一の仮歌シンガー」と称されるいっぽう、作詞家・末永茉己として活動するなど、さまざまな形で音楽活動を展開する彼女だが、今回はアーティストとして大きな一歩を踏み出した形となる。

しかし、彼女がここまでたどりつくのは決して順風満帆な道ではなかった。2度の失声症をわずらい、いくつもの持病と戦いながら少しずつレコーディングを実施。本作は、そんな彼女の苦闘の記録でもあるのだ。

今回は、そんな凛さんとプロデューサーの島崎貴光さんに、本作についての制作エピソードや「歌」への熱い思いを語ってもらった。

声を失ったことで、やっと聴き直せた自分の歌

──「凛イズム」は凛さんの活動10周年記念アルバムになりますが、アルバムリリースの予定自体はけっこう前から話があったんですか?

 そうなんです。本当は2012年にシングル「情熱イズム」を出してすぐくらいにアルバムを出すと言ってはいたんですけど、病気などなかなか私の体調がよくなくて、やっと完成したという感じですね。

──では、まずアルバム完成までの波乱万丈をうかがいたいと思います。

 今話した通り、構想としては「情熱イズム」(2012年)を出した後くらいからあって、インディーズ時代の曲も入れてまとめようかと言っていたんですけど、その後に体調を崩しまして……。具体的には失声症になってしまい、リハビリを繰り返して、改めてアルバムを作るぞってなったらまた体調がおかしくなって、体が動かない……みたいになって。こちらとしてはちゃんと出すつもりで動いていたのに、私が歌える状態じゃなかったんです。(アルバムを)作ろうといいながら、私の体調の波が作ろうとするタイミングにことごとく当たってしまい、出す出す詐欺みたいになっちゃいました(苦笑)。

──なかなか思うような活動ができない状況だったんですね。

 根性でなんとかしちゃうところがある私なんですが、声がなくなっちゃう、物理的にどうしても歌えないという状態に陥ったのは大きかったです。声が出ないと言うのは努力と根性ではどうしようもなくて、一度私自身のID(存在意義)もぷっつりと切れちゃいました。ただ、そんな時にも作詞家として音楽には触れていたので、完全に途切れてしまったという感覚はないんですが、歌えなくなったというのが大きくて、過去を見つめ直したり、きちんと自分の作品にしたいという思いは募りましたね。

それを経て、やっとアルバム制作を再開できるかなと思った時に、これまでに歌ってきた曲数があまりにも多くてCDに全部は入れられない。だから、楽曲を絞ろうと思ったんですが、どの曲も思い入れがあるので大変でした。

──過去に歌った歌の中には、「Version. 2017」と表記された楽曲もありますが、これらは新録曲になるんでしょうか?

 今回、「ULTIMATE SOUL-幾千の岐路-」だけ歌い直して、ほかの曲は昔のボーカルのテイクはそのまま使っているんです。全部歌い直してもよかったんですが、声を失う前の、その時の思いとか勢い、空気感をそのままお届けしたいという気持ちがあったので、歌はそのままに音だけプロデューサーの島崎氏が変えて、今っぽい感じで統一感を持たせた16曲が完成しました。だから、やっとこぎつけた的な気持ちで、もう言葉になりません……。

発売を待ってくださる方もいる中で、リリースできない状態になっちゃう申し訳なさもありましたね。それでも待ってくださった方々に対して、やっと報いることができるかもしれない。まとまったアルバムとして喜んでもらえるのではないか、といろんな気持ちがこもっておりますので、アートワークもこだわりましたね。今の音楽は配信など、形のないものでも楽しむ時代になってきていると感じますが、自分が触れてきてワクワクしたり、刺激を受けてきた音楽の入口って五感で感じるものだったんです。手に取って、印刷の匂いを感じてジャケットを見てCDを見て、という楽しみ方をしてきた自分の出すアルバムなので、感触から何からそういったものが欲しいと思いまして。

──衣装や小物なんかもこだわりで。

 はい。自分の中でイメージはすでに定まっていたので、スタイリスト的なことは全部やりました。小物はファンの方が作ってくださったんですが衣装は自分の世界観で、自分でそろえてスタイリングして。最終的に割れたCDの上に立つというビジュアルイメージにたどりつきました。今は時代の過渡期だと思うのですが、それでも私はCDで育った人間だし、という思いや、配信などが主流になる時代を象徴するという意味を込めて、このようなビジュアルになりました

島崎プロデューサー このご時勢だからできたかなと思います。CD全盛期に割れたCDなんて出したら、不謹慎だと言われたかもしれません。

──ここ数年は仮歌シンガーとしても精力的に活動されていますが、そういう作品の裏方に関わることと、自分自身の歌を歌うことには、どんな違いがありますか?

 両者は全然違いますね。仮歌やコーラスで、ほかの方々の作品に関わらせていただく時はもちろん私が一番ではありませんから。アイドルさんやアーティストさんの歌を引き立てるためであったり、その作品、音などを一番輝かせるために仮歌を歌う、コーラスを入れる。そこを客観的に意識して、その曲をいかによく聞こえさせるかに心を注いでいます。凛の活動となるとそこまで意識しているわけではないんですが、凛というアーティストはけっこう地が出せるし、わりとカッコいい曲を歌って、こういう歌詞を歌って。さらに島崎氏からは「好きなように歌っていいよ」と言われていたので、もうバーンと解き放たれて、自分が曲に感じたことを100%出していいというアーティスト活動だと思っています。

──そんな心境で歌った自分の歌を聴き直した時は、どんな気持ちでしたか?

 声をなくす前までは、自分の歌はほとんど聴かなかったんです。完成したら、あとは曲がひとり歩きしてほしいという気持ちもあるし、客観的になれないというのもあるんです。毎回100%一番いい歌を歌っているつもりなんですが、その後、商品になったものを聴くと「もっといい歌が歌えたんじゃないか」「もっとよくできたんじゃないか」って思えて嫌なんです。粗が見えちゃったら困るし、それが後悔になっちゃったら困る。その時は100%でやっていたのに、その自分を認めてあげられなくなるんです。

だからほとんど聴き直さなかったんですが、声がなくなった時に、ただのいちリスナーとして歌が聴けたんですね。自分が歌う人間じゃなくなったから。

今まではずっと歌う人の目線や感覚で聴いていたから、純粋に自分の歌を聴くことができなかったんですけど、もう一生歌えなくなるかもしれないと思った時に、初めてまっさらな気持ちで、客観視して自分の歌を聴くことができたんです。その客観視したことが、今回のジャケットにつながっているのかもしれません。

なんだかいろんなものを乗り越えて、パワフルな歌を新しく歌えるぞ、さらにかっこよく歌ってみせるぞ、という気持ちとともに。

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