「劇場版 進撃の巨人 Season2~覚醒の咆哮~」総集編を今見るべき理由【犬も歩けばアニメに当たる。第38回】
心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。
今回は、公開中の「劇場版 進撃の巨人 Season2~覚醒の咆哮~」を取り上げます。
壁に囲まれて暮らす人類と、人間を捕食する巨人の戦いを描いた、アクション・ダーク・ファンタジー。2018年7月から、テレビシリーズSeason3がNHK総合で放送されることが決まりました。
そのニュースに驚くうちに、今回の劇場版が、テレビシリーズの総集編としてファンの評価が高いことを知り、見逃すまいと劇場に足を運びました。
原作をコミックで最新刊まで追っている筆者が、改めて感じたこのアニメの魅力をご紹介します。
迫力の描写と怒涛の展開の120分
息つく間もない120分だった。その間ほぼずっと、死神の吐く息を首筋に感じるような危機と戦いが続く。
残酷な戦いには美学も尊厳もない。何人もの人間が、恐怖と絶望をあらわにして苦しみながら死んでいく。
その中で、これまで仲間だと思っていた人物の恐るべき裏切りが発覚する。これが今作前半のクライマックスだ。
明かされる裏切りの真実は、思わぬシーンでごくさりげなく、しかし不穏な緊張感を秘めて語り出される。この演出が絶品だった。
徹頭徹尾ギリギリの危機と絶望が続く物語を彩るのは、生々しい悲嘆であり、悲劇だ。
後半のクライマックスは、予告にもあったミカサの、エレンへの感謝の思いの吐露だが、これは壮絶な状況で死を覚悟してのものなので、やはり悲痛なシーンだ。しかしこのときのミカサは本当にかわいらしく、ヒロイン200%で、思わず見惚れた。(いっぽうで、エレンを取り返すためのヒロインにあるまじき悪鬼の形相も見逃せない!)
原作コミックで先の展開を知っていると、今回ユミル、ライナーたちが口にしかける言葉の内容も想像がつき、「ああそうだったのか」と思えるので、既刊まで読了しているコミック派の振り返りにもうってつけだ。
原作もテレビシリーズも、描写が濃く、重く、振り返るのに時間がかかる。スピーディーな展開で緊張感がさらに高まる劇場版の総集編は、コミック全巻を読み返したり、アニメ全話を見返す時間がなかなかとれない人にも、よさそうだ。
絶望の戦いが延々続く話題作
「進撃の巨人」は、別冊少年マガジン(講談社)で連載中のコミックを原作として、テレビシリーズで2013年4月からSeason1(1~25話)、2017年4月からSeason2(26~37話)がアニメ化されている。
「その日、人類は思い出した。ヤツらに支配されていた恐怖を……。鳥籠の中に囚われていた屈辱を……」という冒頭のナレーションは、今やあまりにも有名だ。
いつ、どこともわからない世界で、人類が閉じこもって社会を営む、壁に守られた鳥籠のような国と街。そこに、50メートルを超えたサイズの超大型巨人が襲来して、100年の平和は破られた。
ウォール・マリアのシガンシナ区で暮らしていた主人公のエレンは、物語の冒頭で、母親を巨人に食われ、巨人を駆逐することを誓う。2年後、幼なじみのアルミン、ミカサとともに104期訓練兵団に入団し、3年の訓練を経て卒業するが、そのとき再び超大型巨人がトロスト区に襲来する。
ここから、いつ果てるともわからない、人類vs巨人の戦いが、延々と濃密に描かれる。巨人が生きたまま人間を食らうショッキングな描写のインパクトは大きかった。また、生き延びても生き延びても続く危機、出口も逃げ場もない絶望感はクセになり、先を見ずにはいられなくなる。
104期キャラが総結集した物語の転換期
今回の劇場版Season2は、テレビシリーズSeason2の総集編で、26~37話をまとめている。
Season1前半の最初の山場で、主人公のエレンが「巨人化」できることが判明し、人類側の武器となった。さらに後半は女型の巨人との戦いが主になるが、その正体がエレンと同じように人間であること、しかも104期訓練兵団の仲間であることが明らかになる。
このあたりから、やみくもな絶望の物語に、ひとつの道筋がつく。すなわち、
・人間が巨人に「変化してなれる」こと
・壁内の人類の中に、巨人側の「裏切り者」が潜んでいること
・104期訓練兵団の仲間が、今後もストーリー上大きな鍵を握っていくこと
これらが予測できる展開となっていく。
劇場版のSeason2は、その104期訓練兵団の仲間が総結集する、物語の大きな転換期なのだ。
非常に流れのいい、完成度の高い総集編
ドラマは非常に濃密で、息つくヒマもない。女型の巨人に続いて、エレンの仇敵である「超大型巨人」と「鎧の巨人」の正体が判明し、それぞれの魂の叫びがあり、激闘がある。
よくもまあ、この内容を120分に凝縮したと思う。公式パンフレットの肥塚正史監督のインタビューを見ても、切りたくないシーンが多くて、編集に苦慮したことが伝わってくる。
だがその結果、スピーディーで密度の濃い、見ごたえのある総集編に仕上がった。
テレビシリーズの総集編としての劇場版は、ともすると、1本の作品としてのダイナミズムに欠けることがある。しかしこのSeason2は、この1本だけ見ても満足度が高く、しかも作品のエッセンスを凝縮して伝える単品として仕上がっていると感じる。
もっとも、劇場版の前作を受けた構成になっているので、これまでの話をまったく知らない人にとって、親切とはいえない。いっぽう、原作派の人がアニメを見てみるなら、ここから入っても問題ナシだ。
劇場の大画面で見ると、スピード感といい、迫力といい、改めて映像の完成度の高いことを実感する。
特筆すべきは音楽の迫力と美しさだ。盛り上げてくれるのはもちろん、叙情的になりすぎず、しかし映像に寄り添って、戦いの描写を支える。
今どんな状況なのか、アニメではコミックよりもわかりやすい。気を少しだけゆるめてもいいところは、音楽が合図する。次の流れへとさりげなくいざなう。
後半、登場人物の苦悩と悲嘆が深くなるにつれて、音楽にわずかな救いのように、あるいは祈りのように、清らかな美しさが加わるのが印象的だった。
劇場で見た夜、巨人の夢を見た。やはり、大スクリーンの迫力は、ちょっと特別だった。
2月17日からは“4D版”の上映も決定
2018年1月24日、7月からスタートするテレビシリーズ「進撃の巨人」Season3が、NHK総合にて放送されることが発表された。これまでのテレビシリーズは、TOKYO MX、毎日放送、BS11など民放で放送されていたので、これは驚きのニュースだった。
NHKのアニメといえば、長編作品をていねいに最後までアニメ化した例がいくつもある。
なかでも長かったのが、「週刊少年サンデー」連載の少年漫画が原作の「メジャー」だ。2004年から2010年まで6年間にわたり、第6シリーズまで全154話が放送された。さらに、「メジャー」の主人公・茂野吾郎の息子・大吾を主人公とした新シリーズ「メジャーセカンド」の放送が、4月から予定されている。
いっぽうで、原作が完結しないことには、アニメもきれいに終わりようがない。「進撃の巨人」がまだどこまでどんなかたちでアニメ化されるかは未知数だが、つい先までを期待したくなる。
Season3は原作コミックでいうと、13巻以降の内容になる。
キービジュアルに登場し、リヴァイと向かい合っているのは、リヴァイの過去に関わる人物。視聴者の人気の高いリヴァイも、クローズアップされる展開になるだろう。
さらに、2人の対峙に象徴されるように、Season2で明かされたクリスタ・レンズの実名にもからんで、これまでのように巨人だけではなく、壁内の「人間」との戦いにもなっていくだろう。しかし、いろんな意味でテレビアニメに向かない描写も増えていく。どう表現されるのか、原作ファンは不安が募る。
それでも、劇場版Season2を見ると、改めてこの作品のアニメのよさを感じる。立体機動装置のアクションはアニメと相性がいい。スピード、視点の反転、重量感と解放感、跳躍の浮遊感。すべてが心地いい。アニメの作画って本当にすごい!
見るものを引きつけて離さない原作の魅力を、それ以上に快感あふれるエンターテインメントに仕上げたアニメスタッフに拍手したい。
2月17日からは、「劇場版 進撃の巨人 Season2~覚醒の咆哮~」の“4D版”が、全国で公開されることが決まった。映画のシーンと連動して、客席のシートが動き、水や風、フラッシュなどのエフェクト効果が味わえる体験型シアター。本編の出来がいいうえ、内容も怖いぐらい合っていることが予想されるので、こちらも楽しみだ。
テレビシリーズで見た人もまだの人も、劇場だけで体感できる「進撃の巨人」で、満足感と絶望を味わってほしい。
(文・やまゆー)
(C) 諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
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