フィギュアメーカーが提案する“組み立てキット”の役割とは? 田中宏明(グッドスマイルカンパニー)、インタビュー【ホビー業界インサイド第32回】

“ねんどろいど”などで知られるフィギュアメーカー、グッドスマイルカンパニーがこの春、同社初のプラモデルを発売する。発売目前の第1弾は、ロシアのソユーズロケットと搬送列車を1/150でキット化。いきなりスケールモデルを発売するかと思えば、第2弾は永井豪氏が原作のスーパーロボット「マジンカイザー」のキットである。
ランナー単位での色分けどころか、一部塗装済みという凝った仕様に誰もが驚いていると思うが、これらのキットを企画したのはバンダイ出身の田中宏明氏。あの「スーパーミニプラ」シリーズの立ち上げに関わった人である。突然走り出した“グッスマ製のプラモデル”には、一体どんな意図があるのか? 田中氏にインタビューを試みた。


オモチャ文脈から、プラモデル的な商品を模索する


──田中さんは、バンダイのキャンディ事業部でスーパーミニプラの「戦闘メカ ザブングル」シリーズ、「無敵超人ザンボット3」などのキットを担当し、それを最後にグッドスマイルカンパニー(以下、GSC)に移籍されたと聞いています。

田中 バンダイには20年ほど在籍していまして、当初は栃木県のおもちゃのまちにある工場で生産技術的な仕事を担当していました。その後、超合金魂などを作っているコレクターズ事業部に長く在籍し、最後の3年間、キャンディ事業部でスーパーミニプラの企画を担当しました。

──バンダイにいた頃は、プラモデルを企画したい気持ちはあったのですか?

田中 いえ、僕自身は玩具を作りたくてバンダイに入社したのと、プラモデルを開発するホビー事業部に在籍する機会も特にありませんでした。しかし、キャンディトイ事業部に移り、玩具開発をベースにした技術と食玩模型を組み合わせることで、なにか新しいものができそうな可能性を感じました。その結果、生まれた商品がスーパーミニプラなんです。

──GSCに移籍されたとき、「こういう仕事をしてほしい」と何か提示されたのでしょうか?

田中 いえ、どちらかというと、僕のほうから「現場で新しい企画をやらせてほしい」と希望しました。企画開発者として今後もやっていくのであれば、自分の置かれている環境をみずからの努力で新しくしないと、これからの20年がきついだろうと考えたんです。


──しかし、GSCの兄弟会社であるマックスファクトリーのほうがプラモデル開発のキャリアがありますよね? なぜGSCに入社したのですか?

田中 バンダイ時代、超合金の初音ミクなどでGSCと仕事したことがあったので、僕のほうから飛びこみました。特にプラモデルだけを企画したいと思ったわけではなく、現場の一兵卒としていろいろな商品にチャレンジしたい、という気持ちが強かったんです。

──GSCのプラモデル商品の第1弾となる「1/150スケール ソユーズロケット+搬送列車」は、田中さんから企画したわけですね?

田中 バンダイにいたとき、「大人の超合金」シリーズで「アポロ11号&サターンV型ロケット」の企画に関わっていたので、ライバル機であるソユーズロケットは以前からトライしてみたいモチーフでした。「GSCに入社したい」と希望しておきながら、僕は美少女フィギュアもディフォルメフィギュアも決して得意ではありません。当然ながら、ソユーズロケットのプラモデルを出したいと話をしたところ、周囲の方々はまず「何これ??」という反応でした(笑)。幸い、「よくわからないけど……、面白そうだからやってみれば?」と言っていただけました。

──ソユーズロケットは「ランナー単位で色分けされていて、接着剤不要のスナップフィット」という仕様ですよね。スケールモデルとして考えると、やや異質な気がしますが?

田中 自分本位な考え方ですけど、模型づくりのお作法はさておいて、自分だったらどんなプラモデルが欲しいかを考えました。たぶん色分けされていないキットだったら塗らないし、自分で塗れないんだったら買わないだろう。塗装が前提のキットなら、おそらく箱にしまったままだろうな、と思います。素組みである程度まで満足できるなら、そこから先は塗装するかもしれない。それがユーザーの総意だと言いたいわけではなく、とりあえず「自分ならこういう仕様で、この程度の値段なら納得するな」という部分から出発しているんです。

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