自作ポエム集から苦労を重ねた養成所時代、そして座長として作品を引っ張る「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」まで──主人公・サトゥー役の堀江瞬にインタビュー

「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」は、小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、PV数6億超、小説と漫画のシリーズ累計発行部数250万部突破の大人気作品(2018年2月現在)。異世界に迷い込み、ひょんなことから最強の力と財宝を手にしてしまった主人公"サトゥー"が、女の子達を助けたり、デートしたり、観光したり、おいしいものを食べたり……という夢のような旅に出かける姿を描いた、ほのぼの異世界観光記だ。

今回、そのアニメ放送開始を記念して、主人公・サトゥーの声を演じる堀江瞬さんに本作の魅力を尋ねるインタビューを敢行。
おひとりで取材を受けるのは今回が初めてという堀江さん。「ひとりでそわそわします」とシャイな顔を見せつつ、とびきりの笑顔で自身のこれまでとこれからをつぶさに語ってくれた。



憧れの声優に通じる、大人と子どもの演じ分け


──出演が決まっての感想を教えてください。

堀江 「キノの旅」に始まり、自分もライトノベルの読者だったので、ラノベの主人公を演じられるというのは、すごくうれしかったです。声優としてたくさんある「やりたかったこと」のひとつがかないました。

──演じているキャラクター・サトゥーについて教えていただけますか?

堀江 サトゥーは現実世界では、本当にごくごく普通の29歳の社蓄なんですが、異世界で15歳の体に若返って生活していくことになる、「男の子」というか、「男の人」です。典型的「ザ・ライトノベルの主人公」的なキャラクターではなく、29歳の一般的な社会人としてある程度の教養を身につけていて、だからこそ異世界でも冷静に、俯瞰して立ち回ることができる、ほかの作品にはない性格をしているキャラクターだと思います。原作を読んでいても、アニメで見ていても、台本の中にも、29歳の大人だから冷静でいられるんだろうなと思わせられるところが多々あります。そういうところで、本当に普通の人が異世界に迷い込んじゃったんだっていう感覚にさせてくれるのかなって思います。

──サトゥーは堀江さんご自身より年上のキャラクターですが、29歳と15歳、演じていて似ているから演じやすいというような点や、収録の際に気をつけている点はありますか。

堀江 どちらかに似ているということがなかったので、自分の中の等身大のところを出そうということはなかったです。声の高低はもちろんあるんですが、中身は同じ29歳の男性なので、若返っているから若い演技をしなきゃいけないとは思っていないんです。どちらかというと、29歳像をしっかり守り抜こうと思いながら、若返っているほうのサトゥーを演じています。そこがぶれてしまうと、同じ「鈴木一郎」という人間ではなくなってしまう気がするので、そこは守らないといけないと思っています。

──原作者の先生がアフレコ現場に遊びにいらした際、「堀江さんが一番大変そうだった」と思われたそうなのですが。

堀江 ここまで大人と子どもをはっきりと演じ分けて、大人でしゃべったすぐ後に子どもでしゃべるというのは、ある意味ひとり2役というところもあると思います。なので29歳と15歳を別で収録するという方法ももちろんあるんですが、流れを大事にしたいので、どうしても無理なところ以外はできるだけ止めずに収録しているんです。もちろん限界はあるのですが、なるべく流れの中で収録しているので、それはすごく大変だなと感じるところではありますね。あとは、第1話に関してはセリフ量が膨大だったので、物理的な意味で大変だったかなと思います。けれど、話数が進むに連れてパーティーが増えていったので、「会話って楽しい!」って実感しています。

──大人の声で演じられると思っていなかったのでビックリしました。大人と子どもの使い分けと言う点は、堀江さんの憧れの高木渉さんに通じるところがあるように思います。

堀江 大人を演じるのも初めてではないんですが、こういう声なので、これまで演じさせていただいたキャラクターもかわいいキャラクターが多くて、メインでがっつり大人の男性を演じさせてもらうのは初めてでした。僕が高木さんを好きになった作品では、高木さんは完全に別の大人と子どもを演じていらっしゃるんですが、その演じ分けにはっとさせられてこの業界を目指したところがあるので。ある意味大人と子どもを演じ分けているので、「デスマ」を見た方に「驚いたよ」って言ってもらえることは、こそばゆいところもあるんですが、うれしいですね。声優の醍醐味のひとつを味わえたかなと思っています。


──大人の男性を演じるために、なにか準備はされていたのですか?


堀江 特に何もしていないですね。歌を歌うとき、地声で歌うとすごい低い声になるんですよ。だから、もしかしたら本来の地声はそんなに高くないのかもしれないなって。だから、出しにくさというのはないんですが、切り替えはやっぱり難しいですね。あと、29歳の疲弊しきった、デスマーチまっただ中でのしんどさや枯れた感じを出すのが難しかったです。3日間お風呂入ってないとか、どんどん髭が生えていくみたいな、そこまで追い詰められたことがまだないので、薄暗い感じをどうやって出すのかが大変でしたね。

──オーディションの際には15歳と29歳と、どちらを重視されていたように感じられましたか。また、ご自身ではどのように演じているのでしょうか。

堀江 半々だったかもしれないですね。1話のAパート終わりの「サトゥーです」という名乗りがオーディション原稿の中にもあったんですが、ここをどう読もうかといろいろ考えていたのを思い出します。アフレコをやっていても、ただ演じ分けるんじゃなくて、面白く読めそうだと思う読み方を試して、どうやったら魅力的に見えるかを意識しながら演じているので、音響監督さんに「ここの言い方面白かったよ」と言われると、その試みが成功したんだと嬉しい気持ちになりますね。

バトルばかりが魅力ではない。異世界グルメを堪能できるのも本作の魅力


──本作の魅力を教えていただけますか。

堀江 ただ異世界でバトルするだけじゃないというところですね。もちろんバトルもあるんですが、キャストのみんなともよく話題にあがるのは「今日もご飯食べてる」とか「とことん観光してる」ということです。パーティーに加わってくるキャラたちがわりと幼い子が多いのですが、サトゥーは幼女に興味がなくて大人のお姉さんが好きなので、女性に囲まれてむっつりというところがあまりなく、うかつにハーレム展開に走らないところも魅力的だなと思います。あくまでもパーティーの一員として接していて、健全な冒険をしているなと感じています。その中で、異世界のグルメを堪能しているので、僕自身、アニメの中で急に始まる食レポタイムをとても楽しみにしています。

──迫力ある戦闘シーンのみが魅力の作品ではない、と。

堀江 先行上映会で第1話をスクリーンで見たとき、迫力がすごくて、音楽もケルトのような感じで、それが「RPGだ!」っていう感じがして、この作品の空気にマッチしていて素晴らしかったんですが、それにプラスして、観光しているシーンも力が入っているなと思っています。1度で5度くらいおいしいアニメになっているんじゃないかなと思います。

──そんな本作で、お気に入りのシーンを教えてください。

堀江 戦闘シーンはもちろんなんですが、それにプラスして食べているシーンが好きですね。異世界に迷い込んだら自分だったら何がしたいかって考えたときに、もちろん冒険はあるんですが、グルメを堪能したいというのがあるんです。

──ではお気に入りのキャラクターはどうでしょう?

堀江 黒髪と控えめな性格のルル(CV:早瀬莉花)ですね。「デスマ」の世界ではあまり見た目がよくないという信じられない設定がありますが、「もっと堂々としていいんだよ!」と応援したい気持ちにさせるというか、保護欲をかきたてられるキャラクターですよね。ポチ・タマという守ってあげたい存在もいるんですが、それとは別の感じですね。

──今回は座長ということで、アフレコ現場の雰囲気を教えていただけますか?

堀江 今回、あまり「座長だからこうしなきゃ」っていうことは考えないようにしています。キャストが全体的に若いので、自分が楽しめば、アフレコの雰囲気もおのずと、「この現場をみんな一丸となって楽しもう!」という空気になれるのかなと思っています。現場を引っ張ろうというよりは、「みんなでがんばりましょう」という感じです。若手が多いとはいえ、僕はそのキャストの中でも若いほうなので、周りの皆さんも「お姉さん」という感じがして、そこに身を預けてやらせていただているところもあります。津田美波さんなんかは声をかけくださったり、毎回現場に差し入れをしてくださったり、気を遣ってくださっているのが嬉しいです。毎回和気あいあいと楽しくアフレコさせてもらっていますね。


⇒次ページでは堀江さん自身についてさまざまな質問に答えてもらった。

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