設定のズレにこそ本作のテーマが隠れている……「劇場版 Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」松本淳監督インタビュー

2018年2月24日(土)より、いよいよ封切られた「劇場版 Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」。タツノコプロ55周年記念作品として制作された「Infini-T Force」は、往年のタツノコヒーローアニメである「科学忍者隊ガッチャマン」「宇宙の騎士テッカマン」「破裏拳ポリマー」「新造人間キャシャーン」の4作品から主人公の4人が集結して、世界を守るために闘うというストーリーだ。


2017年の秋アニメとして放映されたテレビシリーズに引き続き、今回封切られた劇場版にて、ひとまずのフィナーレを迎えるわけだが、今回の劇場版ではテレビシリーズとは異なるさまざまな要素が盛り込まれており、単なる焼き直しではない、しっかりした独立作品となっているのが特徴。テレビシリーズでは登場しなかった「コンドルのジョー」が登場するなど、全く新しいストーリーと世界を持った作品として仕上がっている。そんな「劇場版 Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」を監督した松本淳さんに、本作ならではの見どころや、制作秘話などをうかがった。

実は3DCGとは縁が深かった松本監督

──本作は、テレビシリーズ「Infini-T Force」と監督が代わっていますが、これまでコンテ・演出が長かった松本さんに今回、タツノコプロの55周年作品である「劇場版 Infini-T Force」監督就任の白羽の矢が立ったいきさつを教えていただけますか。

松本 まず「Infini-T Force」は、テレビシリーズの始まる前に、すでに劇場版を作ろうという話がありました。で、劇場版の制作にそろそろ入らなくてはいけないという時点でもまだテレビシリーズが制作中で、鈴木清崇監督がかなり忙しかったということがあります。で、僕が別作品で仕事をしていたときにプロデューサーとして入っていた大松(裕)さんが本作にも携わっていて、その大松さんから、劇場版の監督をやらないかというお話をいただきました。

実は、後で「タツノコプロ55周年作品」と銘打たれているのを知って、だったらもっとタツノコさんと縁のある方のほうがよかったんじゃないかとは思いましたけど(笑)。鈴木監督はタツノコの生え抜きの方ですし、ほかにもたくさん人はいたとは思うんですけど、僕のほうでは、せっかくのチャンスでもありますし、ぜひやらせてくださいということになりました。

──「Infini-T Force」はフル3DCG、しかもモーションキャプチャーによる作画ということで、この手法に関するとまどいなどはありませんでしたか?

松本 実は3DCGに関しては割と好きなんです。これまでも割と3DCGとは縁が深くて、かつてポリゴン・ピクチュアズが制作していた「デジタル所さん」(2000-2001)という3DCGの5分アニメにお誘いいただき、コンテをやっていたことがあるんです。世代的には映画「Tron」(1982)の直撃世代でもあって、いわゆる「SF世代」なんですよ。で、3DCGってなんかSFっぽいなあという単純な理由から好きなんです(笑)。もちろん、仕事としても、割と知識自体はあるほうだと思います。



──なるほど。そうした松本さんのキャリアがあったからこそ、今回お声がかかったんですね。ちなみに、今回、テレビシリーズから劇場版へと公開時期がきれいにつながっていることもあり、制作に関してはほぼパラレルで動いていたんでしょうか?

松本 そうですね。ただ、テレビシリーズのスタッフは、ほぼそのまま劇場版のほうにスライドしてきていましたし、CG監督はテレビシリーズと別の人が担当していますが、重なっている部分も多いです。

──脚本に関しては、劇場版制作に入る段階でできていたんでしょうか。

松本 脚本はテレビシリーズ全話分できていました。なので、劇場版の制作に入る前にテレビシリーズの脚本を何度か読み直して、それから劇場版の脚本制作に入りました。

──脚本は、熊谷純さんが担当されていますが、これはどのような流れで?

松本 熊谷さんについては、テレビシリーズのほうでも2~3話分くらいの脚本を担当されていまして、本作の世界観もよく理解していただいていますし、そういう部分でプロデューサーのほうから声をかけていただいた感じです。それにテレビシリーズからの流れで、もっと書きたいこともあるのではないかという期待もありました。



コンドルのジョーを登場させたことで、ストーリーの方向性が大きく動いた

──テレビシリーズと劇場版では、もちろんストーリー的なつながりはありつつも、結構、全体の世界観も違っていたり、ややダークな面もあると感じました。このあたりの狙いは最初からあったのでしょうか。

松本 狙いというわけではありませんが、劇場版をやるにあたって、テレビシリーズには登場しなかったタツノコヒーローを登場させたいという希望は、プロデューサーサイドにもすでにありました。そこで、主役ではないけれども特に有名なコンドルのジョーを出そうかという話になり、そうなってくると、あのキャラクターなので、展開はどうしてもハードにならざるを得ないということですよね。

──結構、ジョーのキャラクターに引っ張られた部分もあったと。

松本 「Infini-T Force」は、元からあるタツノコのキャラクターのイメージを引き継ぎながら、新しい話を作っていくというスタイルなので、元のキャラクターを生かすというのは大きなテーマです。また、テレビシリーズからどのような流れで劇場版につなげていくかという部分に関しては、様々なアイデアがありました。劇場版でジョーを出すのは、笑(エミ)が主人公だったテレビシリーズからの流れでは成り立たないのでは、という懸念もあったんですが、議論を重ねていくうちに、いまの形にしようということになったんです。とは言え、ジョーが出るからには、健とジョーの関係を中心に据えようというところに落ち着きました。

──笑というテレビシリーズの主人公を出すことで、つながりはもたせつつも、それとは異なる世界観でストーリーを広げたということですね。

松本 そうですね。たぶん笑を出さないと、「Infini-T Force」ではなくなっちゃう気がするんですよね。笑がいるからこそ、ほかの主役級のキャラがぞろぞろいても成り立っている気がします。

──確かに。それが今回の劇場版では、主に「ガッチャマン」の世界を舞台に話が展開していきますね。

松本 実は最初のうち、ガッチャマン世界とは全く別の世界の話のアイデアも出ていました。ですが、今回の劇場版はテレビシリーズのアセット(財産/リソース)も使用しつつ制作したいという意向もありまして、その条件で考えた場合に、3DCGではちょっと難しいかなということになったんです。普通のアニメだと何でも絵に描いてしまえるのでいいんですけど、3DCGの場合、実写に近い部分があって、俳優さんをキャストするようにまずモデルを作って、それを動かして照明を当ててレンダリングして、という制作の流れがあるので、全く新しいキャラクターや世界を作るって結構大変なんです。脚本を書く上で、熊谷さんもそのあたりで結構苦労していた部分があったと思います。テレビシリーズで作った物の使い方など、僕のほうからもいくつかアイデアを出させていただきました。

で、当初は健を2人出して、片方を悪役にしようとしていたんですが、それだとうまくストーリーとしてまとまらないということで、代わりとなる悪役として南部博士が出てきたというわけなんです。

──3DCG制作ならではのメリットを生かし、テレビシリーズの資産をなるべく受け継ぎつつ、劇場版制作をスムーズに進めたがゆえの展開とも言えそうですね。

松本 先ほどお話ししたように、テレビシリーズの制作が決定した段階で、劇場版の制作も決まっていましたので、テレビシリーズから劇場版まで通してひとつの作品として見ていただけるといいと思います。ストーリーとしては完全につながっていない部分もありますが、作り方のパッケージとしては、フォトリアルと手描き(セルシェーダー)の中間みたいな描写の実験的な手法ということで、テレビシリーズから劇場版まで合わせて1本の作品であるというように僕は考えています。

──ガッチャマン世代の方にとってみれば、主人公の健が正統派ヒーローなのに対し、ジョーはちょっと不良っぽい部分もあったりして、それがまた大きな魅力となっていたわけです。そんなジョーが、今回タイトルにもなっている「さらば友よ」ということで、往年のファンからすると、ジョーがどんな立ち位置で登場してくるのかが大変気になっていたわけですが、健とはやや対立軸に置かれた描かれ方をしていますね。実に「らしい」という感じもしましたが。

松本 旧作のシリーズを見直すと、意外とそんなでもないんですけどね(笑)。でも、視聴者がジョーに抱いているイメージは、やはりちょっと不良っぽいとか、孤独な人とかいうものじゃないですか。なので、最初から仲良しというよりは、ちょっとやさぐれた一匹狼的な立ち位置にはしたいと思ってはいました。

──本作では、主役の健とジョーとの関係性が中心に描かれていますが、ある意味では、健以上にジョーの物語でもあるような印象を受けました。それくらいジョーはやはり強いキャラクターなんだと改めて感じました。

松本 最近のアニメではそうでもないかもしれませんが、あの当時のアニメで、主役よりも強いサブキャラクターというのはなかなか珍しいと思います。そのあたりは、当時の「ガッチャマン」を作っていたスタッフ、キャストの方々のすごさを感じますね。

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