集えキャンプ難民! TVアニメ「ゆるキャン△」放送終了記念、京極義昭監督が全てを語るインタビュー第2弾!
先日、大好評のうちに最終話を迎えたTVアニメ「ゆるキャン△」(原作:あfろ/芳文社・まんがタイムきららフォワード)。その世界観や美麗な背景、キャラクターの心情のていねいな描き方、秀逸な音楽などあらゆる面で評価がとても高く、アニメファンのみならず多くの方の心に残ったことだろう。
今回は、そんな大ヒット作品を創りあげた京極義昭監督に、放送前に続くインタビュー第2弾を実施。最終話まですべてオンエアされた今だからこそ話せる制作の裏話をたっぷりとうかがった。アニメ本編を振り返りつつ、ぜひ込めた想いやこだわりを感じていただきたい。
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脚本会議だけで1年かかりました
――前回の放送前インタビューではありがとうございました。「ゆるキャン△」は第1話のオンエア直後から評判がとてもよかったのですが、そのような声は監督の耳にも届いていましたか?
京極 プロデューサーから評判を聞いたり、知り合いから珍しく連絡がきて「見たよ」とか「よかった」と言っていただきました。ありがたいことです。
――アニメファンだけでなく、例えばキャンプ好きなお父さんと一緒に見ていた小さいお子さんも喜んでいるなど、幅広い層にまで人気は広がっていますね。
京極 実感はありませんが、普段アニメを見ない人にも通じる作品だと思って作りましたので、そのような反応があるのはとても嬉しいです。ぜひお子さんにも見ていただければと思っています。
――放送後ということで、今回はより具体的なことをおうかがいできればと思います。第1話は物語の導入として重要な話数ですが、特に力を入れたところを教えてください。
京極 最初に時間の経過をゆっくりと描くことで、「キャンプをした時のゆったりとした時間」を表現できたらいいなと思っていました。(ロケハンで)実際にキャンプしてみたら本当に時間の流れがゆっくりと流れている感覚でしたので、「ゆったりとした時間の中にある豊かさや、充実感」を表現したいなと。
――第1話だと世界観の説明も含めいろいろな情報を詰め込んでインパクトを出したいという考えもあるのかなと思います。そうではなく、作品の色をしっかり出すためにあえてゆったりとしたものを見せるのはひとつの挑戦でもあったのでは?
京極 まさにその通りです。なでしこによってお話が動くまでは、リンがソロキャンプをしているだけで特に変わったことは起きません(笑)。でも、それが魅力的に見えるよう、キャンプ描写には力を入れました。テントを立てるだけとか、薪を拾って火を起こすとか、そういうところをじっくり描くことで、淡々とキャンプをしているだけなのに楽しそうに見えるように描きました。
――背景の作画の素晴らしさも評判でした。そのあたりは監督が直しを入れたりもしたのですか?
京極 最初に調整をさせていただいたぐらいで、大きな修正をすることははありませんでした。美術監督の海野よしみさんをはじめ、美術スタッフも何人か一緒にロケハンに行って、実際に目で見て体感していただいたこともあり、本当に素晴らしい絵を描いてくれました。
――最初の調整は、どのようなものだったのでしょうか。
京極 この作品は秋冬がテーマなので、夏のキャンプ場のように緑が濃く色彩が鮮やかな感じではなく、どちらかというと寂しい風景になるんですね。それがただ寂しいのではなく、「ちょっと寂しさがあるけど、美しく魅力的に見える」ということを意識して描いてください、とお願いしました。
――初期の話数では特に第3話の評価が高く、冒頭のオリジナルシーンもすごく自然です。オリジナルシーンを入れるにあたってのこだわりや気を遣った点があれば教えて下さい。
京極 そこは本読み(脚本会議)で練りに練ったところでした。原作の流れ通りなのに、本読みだけで1年かかりましたからね(笑)。アニメにする時は1話ごとに見どころを入れて面白いと感じていただきたいので、切りどころの関係で「ここは付け足そう」とか「ここは泣く泣くカットしよう」という判断をしなければいけませんでした。
――そうやってオリジナルを要所要所に入れたのですね。
京極 でも、オリジナルを入れようとすると、これがうまくいかないんですよ(笑)。お話はいくらでも作れるんですけど、なんだか「ゆるキャン△」ぽくないね、ということばかりで。ちゃんとお話にはなっているのに、なにが原因なのかわからない。何度も何度もやり直して、あfろ先生にも見ていただいて相談して……を繰り返してやっとできあがったのがあのアニメオリジナルなんです。
なので、評価していただけたのは時間をかけて作ることができたおかげだと思います(笑)。でも、そこまで時間をかけて原作を読み込まないと、この作品のアニメオリジナルは作れなかったんだと思います。
――第3話ラストのリンが「なでしこ」と名前で呼ぶシーンもオリジナルですよね。本当に素敵なシーンだと思いました。
京極 あfろ先生はキャラクターの関係性の変化を自然な流れで描くのが巧みだなと思います。原作ではいくつかのキャンプを経験していつの間にか呼び方が変わっているんです。ふとした瞬間に呼び方が変わっていたり、SNSでの言い方が変わっていて。その自然さがまた魅力的なのですが、リンが「『なでしこ』と呼ぶようになったタイミングはどこなんだろう?」「何か呼ぶきっかけがあったのでは?」と話し合って、ふくらませていったのが第3話のラストシーンです。
――確かに、原作ではいつの間にか名前で呼んでいますね。
京極 原作と同じように、さりげなく呼び方が変わるという手もあったと思うんですけど、あえてはっきりと入れたかったんです。しかも、「なでしこが寝ている状態で言う」という奥ゆかしさがリンのキャラクターをすごく引き立てるんじゃないかと思って。これを思いついた時はみんなで大喜びしました。面と向かって言わないのがリンらしいですよね。
声頼みのシーンは声優さんの力を思い知りました
――呼び方ひとつでもその演技が素晴らしかったです。キャスト関連では、ナレーションに大塚明夫さんを起用したことも話題になりました。
京極 ナレーションは最初から決め打ちではなく、誰にするか結構悩みました。でも、大塚さんに頼んで本当によかったと思います。
――どのセリフも渋くてよかったのですが、大塚さんに「ダンボール」と言わせるのはすごいなと(笑)。
京極 ノリノリでしたよ。「ぷちぷち」とか(笑)。
――すごさを感じたという意味では、第2話で東山奈央さんが「くぁwせdrftgyふじこlp」を音声化したことも驚きでしたね。
京極 すごいですよね。僕は元ネタがネットスラングだと知らなくて、適当に打った文章なのかと思っていたんですよ(笑)。これはどうやって読むんだろう?と思っていたら、東山さんはちゃんと練習してきて一発で決めていました。
――え!? これは一発録りなんですか?
京極 そうです。台本にはただあの文字の羅列が書いてあって、こちらからは特に指示もしていません。あれは完全に東山さんのオリジナルです。「とりあえずやってみましょうか」と言ったら完璧に読まれていました。
「ゆるキャン△」はそれほどセリフ量が多くなく、比較的絵のお芝居で見せていく作品なのですが、リンが「なでしこ」と呼ぶシーンなど、声のお芝居が重要となるシーンでは、まざまざと声優さんの力を思い知りました。この声でなければシーンは成立しなかったということがとても多く、本当に素晴らしいキャスト陣に恵まれたと思います。
――くしゃみとかも上手ですよね。台本の文字をそのまま読んでいるのではなく、キャラクターらしさがちゃんと出る音になっていて。
京極 そうですね。特に花守さんは非常に研究熱心で、ポッキーを食べるシーンではポッキーを持参されて実際に食べながら演じてくださったこともありました。結局、それは使われなかったのですが、すごく入れ込んで演じてくださいました。
――ちょっと気になったのは、第3話で流れるラジオの「DJ伊藤さん」です。彼はほかのシーンで出てくる伊藤さんと同一人物なのでしょうか? クレジットを見ると同じ方(樫井笙人さん)が演じられていますよね。
京極 同一人物です(笑)。そもそも、第1話で出てくる「伊藤さん」って何をやっている人なのか原作を読んでもわからないんですよ。それ以降出てこないですから。だったら、伊藤さんがいろんなところに時々出てきたら面白いんじゃないかなと。ちょっとした小ネタというか、全話かけてうっすらとしたギャグを入れているイメージです(笑)。
――小ネタは「へやキャン△」から取ってきたものもありますからね。改めて原作を読み直してみたら、いろいろな発見がありました。
京極 そうやって何回か読み直してもらって発見するような仕掛けを、思いつく限りはやってみようと話していたんです。
生活感や実在感を出すため、キャラクター以外の部分にもこだわりを
――仕掛けで言えば、第8話のオープニングでリンとなでしこのSNSでのやりとりが変わったことも話題になりました。そのほかにも、実は入れていたネタなどあれば教えてください。
京極 そうですね……たとえば、「(なでしこの姉の)桜の車のナンバープレートが変わる」というものがあります。各務原家は浜松に住んでいたので最初は浜松ナンバーなんですけど、山梨に引っ越してきて第6話からナンバーが変わっているんですよ。
原作でも第1話と後の話数とでナンバーが変わっていて、ミスなのかと思って先生に確認したら「どっちも正しいです。引っ越してきてナンバーが変わったんですよ」と。先生は普通に読んでいては気づかないような小さなところもしっかり考えていらっしゃるので、そこは再現しようと思いました。
――そういう仕掛けや小ネタは、あfろ先生が設定としてしっかり考えていたことを表面化したものもあるのですね。
京極 そうですね。僕らが考えた中で一番大きいのは伊藤さんですかね(笑)。あと、先ほどの第8話のSNSのネタも僕らが考えました。
――SNSのネタはすぐに気づかれると思いましたか?
京極 いつかは気づかれるとは思っていました。せっかくSNSのやりとりをしているので、ちょっと変えたら面白いんじゃないかと言ったら、「この忙しい時に」とみんなにすごく嫌な顔をされましたけどね(笑)。でも、無理を言って変えてもらってよかったです。
――あの文字は、中盤から後半への心情の変化にも繋がっていますからね。
京極 そうですね。原作でも「気づかれにくいけど、ちゃんとそこにはストーリーがある」という仕込みがたくさんあるので、原作を読み込むほど細部に描かれた仕掛けに気づかされ、それを映像化せざるを得なかったんです(笑)。おそらく、我々も気づいていないネタはほかにもたくさんあると思います。先生はこちらから聞かないと教えてくれないですし。
――そういうネタとは少し違いますが、細かな描写では第3話のビールケースが手描きだということもネットで話題になっていました。
京極 手描きにこだわったというわけではないんですよ。あのカットは演出上どうしても欲しかったので、僕が絵コンテの段階で入れたんです。ただ、そこはフィーチャーされるべきではなく、“自然に”見えなければいけないと思っていました。確かに難易度は高かったのですが、アニメーターの方ががんばってくださってとてもいいシーンになったと思います。
――話題になったから注目して見直しましたけど、最初に見た時は違和感が一切なくスッと見ることができました。
京極 そう言っていただけたら大成功です。原画も動画も素晴らしい仕事をしてくれました。本当に無理をさせてしまいましたけど(苦笑)。
そういう小さいところにこだわるというのは、作品として意識していたことなんです。キャンプ道具や料理など“キャラクター以外の部分”にこだわらなければいけないと。というのも、僕は「ゆるキャン△」の魅力のひとつとして、想像上のキャラクターではないというか、地に足が着いている感覚があると思っていて。キャラクターが触る道具や食べる料理をリアリティがあるように描くことで、生活感や実在感を出したいという狙いがありました。だから、当初から小さいことをていねいにやろうと話していたんです。
――第6話のコンパクト焚き火グリルや第8話のカリブーでの道具の描写なども見ているだけで楽しかったです。
京極 ありがとうございます。
みんなでキャンプがゴールではなく、ソロのよさもグループのよさも描きたかった
――ストーリーに話を戻しますと、第5話もかなり評判でしたね。
京極 やはり前半のひとつのピークになる話数かなと思っていたので、力を入れました。自分で絵コンテも書きましたし。
――特になでしことリンの夜景を見ているシーンが重なるラストは感動しました。
京極 あのシーンはちょっと特殊な作り方をしています。夜景のシーンが2つ出てくるんですけど、音楽の立山秋航さんがそれに合わせて盛り上がりを作ってくださったんです。なので、ちょうど夜景のシーンで音楽の盛り上がりが重なるように、うまく映像をコントロールしました。スタッフの皆さんに協力してもらったおかげで、見応えのあるシーンになったと思います。
――音楽はどの曲もシーンに合っていて素晴らしいです。そして、このシーンが「きっと、そらでつながってる」という本作のキャッチコピーに繋がっているのですね。
京極 そうですね。キャッチコピーはこのシーンを想定して作りました。
――そして、第11話と第12話はクリスマスキャンプ回。5人でのグループキャンプが描かれます。
京極 第1話はリンのソロキャンプから始まり、今度は初めてリンがグループキャンプをするお話なので、視聴者にグループキャンプの楽しさを感じてもらいたいなと思って作りました。クリスマスキャンプはこれまで別個に描かれてきたキャラクターが一堂に会するということで、僕も原作を読んですごくテンションが上がりましたし、みんなで集まるのもいいなと思ったので、その感覚を素直に映像にしています。
――グループキャンプの楽しさが描かれるのと同時に、最後のオリジナルシーン(なでしこがソロキャンに出かけ、キャンプ場でリンと出会うシーン)も素敵だなと思いました。
京極 クリスマスキャンプで終わったほうが切りはいいんです。でも、クリスマスキャンプで終わると結局「最後のゴールはみんなでキャンプ」になってしまい、「グループもいいしソロもいい」という作品のテーマがブレてしまうのではないかと。なので、クリスマスキャンプの後もリンはソロキャンプをするし、なでしこもソロキャンプを始める、ということを描きたいなと思ってオリジナルシーンを足させていただきました。
――第12話の冒頭には「へやキャン△」でなでしこが空飛ぶテントで登場するネタがあり、オープニングでテントが飛ぶシーンにも繋がっていますよね。これは最初から考えて作られていたのですか。
京極 そうです、と言いたいところなんですが、オープニングのテントは演出の神保昌登さんが原作を読み込んで考えたアイデアなんですよ(笑)。神保さんは空気を読み取る能力がめちゃくちゃ高いというか、素材の選び方が的確なんです。オープニングは全部神保さんにお任せしていました。
――てっきり最初から仕込んでいたのかと思いました。
京極 オープニングのことで神保さんから「(テントを)飛ばしていいですか?」と言われて、僕は第12話の脚本を読んでいて飛ぶことがわかっていたので「全然いいですよ」と答えたんです。でも、神保さんは第12話を知らなかったのに繋がっていたわけですから、すごい嗅覚だなと。ほかにも、演出家の方がいろいろとアイデアを持ち寄ってくれて助けられました。
――本当に皆さんの力で素敵な作品が生まれたのですね。それでは最後に、視聴者、読者へメッセージをお願いします。
京極 僕は本当にあfろ先生の原作に惚れ込んで、原作が素晴らしかったからこそがんばれたという思いがあります。アニメで「ゆるキャン△」を知ってくださった方はぜひ原作も読んでいただきたいです。そして、これから暖かくなりますので、キャンプに行っていただきたいです。そういう狙いもあってこの時期に放送をしたのですが、みなさんキャンプに行くのが早くて(笑)。この作品をきっかけにキャンプの魅力に触れていただけたら、僕らも作ったかいがあります。
Blu-rayやDVDには特典として、短いですが新規アニメーション「へやキャン△episode0」も収録されます。放送は終わりましたが、そちらも合わせてぜひ何度も楽しんでいただければと思います。最後までご覧いただき、本当にありがとうございました。
(取材・文・写真/千葉研一)
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