まるでアトラクション作品のような、楽しさあふれる「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」【Dolby Atmos & DTS:X】上映会レポート

2018年4月7日からスタートした「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」【Dolby Atmos & DTS:X】上映に先駆け、3月29日にイオンシネマ幕張新都心(千葉県)にて先行上映会が開催された。当日は、Dolby Atmos版が上映されたほか、音響監督の岩浪美和氏、録音調整の山口貴之氏、音響効果の小山恭正氏の3人によるトークイベントも開催。さらに進化したガルパンのサウンドを堪能した多くのファンによって、会場は大いに盛り上がっていた。そんな先行上映会の様子をレポートするとともに、後に3人に直接質問させていただいた話にも補足的に交えつつ、「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」【Dolby Atmos & DTS:X】の魅力について紹介していこうと思う。


上映終了後、イオンシネマ幕張新都心の支配人による呼び込みによってガルパン音響チームの3人、音響監督の岩浪美和氏、録音調整の山口貴之氏、音響効果の小山恭正氏の3人が登壇。まずは岩浪氏が平日にも関わらず集まってくれた300名のファンにお礼の言葉を書ける。そして「裏方のおっさん3人のみの舞台挨拶なんてほかじゃあり得ないのだけど」と笑いを呼びつつ、音響についてさまざまなエピソードを語ってくれた。


「いつも僕がしゃべってばかりだから、今回は2人(山口氏と小山氏)に頑張ってもらう!」と断言した岩浪氏だが、そういいつつも最初は岩浪氏みずから“どうしてもガルパンでアトモス上映”をしたかった想いについて語りはじめた。
「4年ほど前、Dolby Atmos制作された「ゼログラビティ」を見たとき、日本の映画音響は大きく差をつけられたと感じた。日本でも、Dolby Atmos作品を作っていかないといけない。だったら、音響について敏感に感じ取り、それを楽しんでくれる“ガルパン”ファンに届けたい」。

そう考えた岩浪氏だが、実際のチャンスにはなかなか巡り会えなかったのだという。

「さまざまな理由がありますが、ポイントのひとつとして、映画館の環境がありました。この会場(イオンシネマ幕張新都心ULTIRAスクリーン8)をご覧いただければわかるとおり、壁面にぐるりとスピーカーが配置されていることに加え、天井にも大型のスピーカーが2列、合計16本ものスピーカーが配置されています。こういった、Dolby Atmos対応のサラウンド環境を新たに整えるには、スペースの問題もありますし、コストも相当かかってしまう。また、日本は地震大国ということもあって、天井にスピーカーを設置する場合の安全基準が厳しく、さらに敷居が高くなってしまいます。そんな事情により、Dolby AtmosやDTS:Xに対応したスクリーンが増えず、結果としてコンテンツ制作サイドもDolby Atmos や DTS:X音源を制作しづらくなってしまっているのが実情です。しかしながら、エンターテインメントは常に最新技術を取り入れた意欲的な作品を作り続けなければならない、という個人的な想いがあり、劇場アニメのオファーがあるたびにDolby Atmosで作らせてくれないか、とお願いしてきた。その中でも、ガルパンのDolby Atmos上映は悲願となっていました」。


そんな状況の中、岩浪氏は、ガルパンに関してはできることから少しずつ初めていったのだという。

「立川シネマシティの極上爆音上映から始まり、4DXや7.1ch上映など、全国のさまざまな映画館のご協力を経て、それぞれの映画館にとって最適な音響を作り上げるという、これまでにないこだわりを持った上映を行うことができました。また、このイオンシネマ幕張新都心では、9.1chアップミックスの上映なども行っています。こういった上映に、たくさんのみなさんが足を運んでくれたおかげで、今回の【Dolby Atmos & DTS:X】上映に繋がったのだと思います。本当にありがとうございました」。

いっぽうで、小山氏からは、「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」がいかにこだわりの深い作品であるかの紹介もなされた。

「そもそも、本作品はOVAのイベント上映という形ではありますが、音響はもとより映像制作スタッフを含む全員が劇場版を超える作品にしたいという気持ちでした。画面の造りも4DXや立体音響を前提にしています。そして実際に、5.1ch上映、7.1ch上映が行われ、今回の【Dolby Atmos & DTS:X】上映へと繋がりました」(小山氏)

そして、ついに【Dolby Atmos & DTS:X】上映が決定。Dolby Atmos、DTS:X用のサウンドを制作することとなった。音響の制作は1月から準備され、2月に某所で1日かけて最終調整が行われたという。ちなみに、今回いちばん大変だったのは音響効果の小山氏だったという。


「はい、その通りですね、大変でした(笑)。でも、ここで勝負しないとアニメや邦画の音響の将来はないと思い、気合を入れて作りました。ちなみに、今回はかなり音を足しています。フラッグ車の旗の音などは、今までになかったものなので、違いがわかりやすいかもしれません。いっぽうで、音の位置を緻密に設定できるというDolby Atmosならではの特徴を、かなりわかりやすく生かすことができました」(小山氏)

ここで、岩浪氏と山口氏よりDolby Atmosについての解説が入った。Dolby Atmosは、縦、横、高さそれぞれが1000ポイントずつに設定されており、そのどこにも音源をおくことができるのだという。

「このスクリーンでいえば、バレーボールぐらいの大きさの音源を10億個の場所のどこにでも設定できるんです。これによって、Dolby Atmos対応の映画館であればどのシートでも制作サイドの意図通りの位置が再現できるんです」(岩浪氏)
「DTS:Xのほうも、システムが違うものの同じような効果が実現できます」(山口氏)


実際確かに画面外にいるキャストがどの位置から声をかけているのか、ハッキリとわかるようになっていた。また、別のトラックに音源が分かれたおかげか分離がよくなり、細かい表現までしっかり届いてくるようにも感じられた。

「音を重ねると潜ってしまうといいますか、音の粒が見えなくなってしまうことがあります。Dolby Atmosでは、音の位置情報を細く設定できるのでいろいろな音が届きやすくなります」(小山氏)

Dolby Atmosの醍醐味といえば、定位感でしょうか。わかりやすいのは、セリフの位置が画面外でも明確になります。スクリーンから外れている桃ちゃんが、何処から話しかけているか、よくわかるようになっていると思います」(山口氏)

「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」【Dolby Atmos & DTS:X】上映では、来場者特典として、杉本功さん描き下ろしによるポストカードの配布も決定している。会場では、ポストカードそっくりの写真を撮影、会場で披露していた。「夜中に調整来て何やっているんだか(笑)」と岩浪氏。


「しかも、映画館の何処のシートで聞いても同じ方向から聞こえる。本当に素晴らしい」(岩浪氏)

「いっぽうで、最近のハリウッド映画ではダイナミックレンジも狭くDolby Atmosの効果をあまり強調しない使い方をする風潮となってきているのですが、これは近年のハリウッド映画が劇場上映からあまり間を空けず配信などが行われ、スマホやタブレットなどで見られることが多くなったためだと思います。そういった(音響的に表現力の乏しい)メディアでは、極端な音響表現がしづらいので。だからこそ今回は、あえてDolby Atmosらしい表現にこだわり、違いがハッキリわかるよう作り込みました」(山口氏)

「もっとアトモスって、指示した(笑)」(岩浪氏)

流行りましたね、『もっとアトモスっぽく』とか(笑)。でも、結果としてはかなりよかったと思います。ガルパンの場合、チャンネル数が減ると音を削る作業になってしまうんです。ですから今回のアトモス版がガルパンの中でもいちばん音の多い上映スタイル、と断言できます」(小山氏)

当日の会場では、「ガールズ&パンツァー 劇場版 シネマティック・コンサート」についてもアピール。岩浪氏が自らフェーダーを握る機会は貴重と、山口氏、小山氏からもコメントが出ていた。


ちなみに、後ほどDolby AtmosとDTS:Xの違いについて山口氏にたずねたところ、Pro Toolsで制作したマスターはまったく同じもので、そこからの出力がDolby AtmosとDTS:Xでは異なっているのだという。両者の音の違いは、あくまでそれぞれのシステムに依存する部分、最低限のレベルに収まっているようだ。

「僕らのチームでDolby Atmosを手がけるのはこれで3作目となりますが、ガルパンならではの派手なDolby Atmos(とDTS:X)音響を作り上げることができたと思います。47分という映画としては短い時間であることもふまえ、あえて音のアトラクションのようなサウンドに仕立てました。映画って音でこんなに楽しくなると体感して頂けるとおもいます」(岩浪氏)

これは、日本映画にとっては大きなチャレンジだと自負しています。正直な話をしますと、皆さんにたくさん見ていただければ、今後もDolby AtmosやDTS:Xでの上映を行うことができます。それは、ガルパンの続きだけでなく、そのほかの作品にも大いに影響してくるはずです。ぜひとも、応援していただけたらと思います」(山口氏)

「映画館ならではのよさを生かした素晴らしいサウンドを作り上げましたので、ぜひご覧ください」(小山氏)


(取材・文:野村ケンジ)


(C) GIRLS und PANZER Finale Projekt

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