「ひそねとまそたん」青木俊直(キャラクター原案)×伊藤嘉之(キャラクターデザイン) スペシャル対談!「ひそまそ」キャラクターができるまで
樋口真嗣、岡田麿里、ボンズ……このビッグネームが結集したオリジナルアニメ「ひそねとまそたん」。
彼らの名前を見るだけで、どんな作品なのかと期待に胸を膨らませる人も多いのではないだろうか。キャラクター原案の青木俊直さん、メカニックデザインの河森正治さん、モンスターコンセプトデザインのコヤマシゲトさん、コンセプトデザインのokamaさん……そうそうたるデザイナーのビジュアルがひとつの作品で見られるというのも驚きでもあるが、これらの才能が同居できているのは、キャラクターデザイン・伊藤嘉之さんの手腕によるところも大きいだろう。
そこで、今回は青木俊直さんと伊藤嘉之さんに、「ひそねとまそたん」のキャラクターができるまでを語ってもらった。
ゆるい感じをどうしたらアニメで表現できるかと考えました
──今回、樋口真嗣総監督からのオファーで作品に参加することになったそうですが、どのような経緯で話が来たのですか?
青木 経緯というか、いきなりFacebookにメッセージが来たんです。最初「あの樋口真嗣が俺に何の用だ?」って感じでしたよね(笑)。樋口さんと言えば実写映画の人っていうイメージがあったので、どこかにアニメパートを入れるのかな?くらいに思っていたんです。でもいざボンズに呼ばれて行ってみると、「TVアニメーションのキャラクター原案をお願いしたい」ということで、俺なんだ?っていう。
──先行解説インタビューPVで、ドラマ「あまちゃん」のファンアートを見て、と言っていました。
青木 そうそう。「あまちゃん」の絵を僕がいっぱい描いていたのを見て、あの絵を動かしてみたいと思ってくれたみたいなんですけど、そのPVが出たあたりで、僕もそのことを知ったんですよね(笑)。「あまちゃん」だったんだ!って。
──打ち合わせで話してなかったんですか?
青木 何で自分のところに話が来たかは聞かなかった気がします。でも、樋口さんに岡田麿里さん、しかもボンズさんが作るから、ちゃんとしないとと思って、最初はきれいにデザインを描いて持って行ったんですけど、もっとラフに描いてくれと言われて。「あまちゃん」のときはラフに描いてたから、ああいう感じのが欲しかったんでしょうね。だからそれ以降はていねいに描かないようにしました(笑)。なので、すみません。
伊藤 いえいえ全然(笑)。
青木 ラフに描いた絵が、どう変身して画面に現れるのかを見たくて、もう試写会で2回見たんですけど、すっかりファンになっちゃいました。こうなるんだ~って新鮮で。
──伊藤さんが参加された経緯は?
伊藤 それはいつものように、ボンズの南社長に呼ばれ、次にこんな作品があるからやってと。
──伊藤さんは、ゼロからもキャラクターを作れる方だと思いますが、原案があるものをデザインしていくにはどんなことが大事になるのですか?
伊藤 原案があるものをキャラクターに起こすのは何度かやっているんですけど(「STAR DRIVER 輝きのタクト」、「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」など)、その時に一番感じるのは、原案を描いてくださる方の絵の味をどうやったら引き出せるのかということなんです。それにプラスして、多くのアニメーターが描かなければならないので、それが描けるのか描けないのかを精査していきます。今回、青木さんの絵を見たとき、樋口さんが「ラフに描いてくれ」と言った話は今知ったんですけど(笑)、意外とラフだなと確かに思ったんです。でもそのラフな感じが味なので、そのゆるい感じをどうしたらアニメで表現できるかと考えました。ただそのいっぽうで、この絵はピーキー過ぎて、誰もが描けるわけではないんです。僕自身も描けるかわからなかったので、そこを整える方向で、キャラクターが醸し出す雰囲気をできるだけ表現したいと思いました。なので、青木さんにキャラ表を見てもらって、添削してもらったりしながらキャラクターを作っていきましたね。
青木 すみません、いろいろ言わせてもらっちゃって。
伊藤 いえいえ。それもあって、自分的にはいい感じに青木キャラをアニメーションで表現できたかなって思っています。
──原案をアニメのキャラに落とし込めた時の楽しさがあるんですね。
伊藤 でもそれって結局、映像が上がってみないとわからないんです。キャラ表って設計図だから、キャラ表を描いているときってそんなに楽しくないんですよ。感情とか表情は本編の中でしか表現できなくて、キャラ表はただの記号でしかないから、感情が入っているわけでもバックボーンがあるわけでもないんです。
だから、本編で描いたときに、もっとキャラクターが生きるように、このキャラ表を見てアニメーターさんが描きたい!と思ってくれるようなキャラにはしたかったですね。どんな作品でもそうですけど、動いているのを見た時に初めて、楽しくなりそうだなって思うんです。
──キャラクターデザイナーと作画監督は同じじゃないと意味がないと聞いたことありますが、伊藤さんは総作画監督をしていますね?
伊藤 今回、作監はボンズのアニメーターにしてもらってるので、僕はそれをひとつにまとめる、交通整理みたいな感じです。青木さんの描いたラフスケッチをアニメ用にデザインして、それを本編にフィードバックするために総作監として入っている感じですね。と言いつつも、総作画監督は結局物量に追われるので、ひとシリーズ全部見ようとすると膨大なカット数になってしまうので、ひとりでは無理、というのはどうしてもあるんですけど(苦笑)。
──絵的には難しい部類に入るのですか?
伊藤 意外と慣れると描きやすいです。面白く描けるし、いろんなトライができるから楽しいですよ。青木さんのキャラって振り幅が広くて、ポテンシャルとして、こっちが意図している以上の表現力があったりするんです。それを見つけ出して描いたりするのは楽しいですね。
──青木さんのラフ自体も振り幅が広いですしね。
青木 マンガっぽい表情にしたいというのはあったんですよ。そういうのって今までのアニメでもあるのかわからないですけど、あったとしても昭和とかですよね。第1弾PVで、莉々子がトイレで足をちゃかちゃか動かしてるところがあるんですけど、ああいうのは僕も描いてない表現だと思うんです。ああいうのもその振れ幅から来たひとつの表現なのかなって思いました。これは懐かしい!と(笑)。
──絵にしても、最近の流行の真ん中ではないと思うんですけど、それが逆に、今来ている感じもするんですよね。
伊藤 そういう意味で、今回気を配っていたのがキャラクターを鋭角にしないところです。毛先にしても尖らせないっていうことを意識してます。なるべく丸みのある感じに収めていて、そこで青木さんのやわらかくてやさしい感じを表現しようと思いました。そこは今のアニメの流れとは違うんだろうなとは思います。
──リバイバルブームもある中で、懐かしいと思う人と、新しいと思う人がいるかも知れませんね。
青木 でも、コヤマシゲトさんがデザインしたドラゴンがいて、河森正治さんのデザインした戦闘機があって、樋口さんの雰囲気もあって、いろんなところにフックがある作品だと思います。
名緒ちゃんは、ヤンキーにしたら面白いんじゃないかと思って
──青木さんは脚本会議に出ていたそうですね。
青木 ええ、暇だったので
(一同笑)
青木 結局キャラクターはどんどん出てくるので、デザインはしないといけないんですよ。でも家に持ち帰るのが嫌で、会議でデザインしちゃおうと。その場で樋口さんや岡田麿里さんにイメージを聞いて、必要ならばイメージに合った役者さんの写真を見せてもらって、iPad Proを使って描いて見せるんです。それを見てこの場で決めていく。メールでのやり取りとかだと、すぐに返事が来るとも限らないので、ここ(会議室)でやっちゃうのが早いんですよね。
──じゃあ、会議で生まれたキャラクターもいる?
青木 ええ。一番最初だけでしたね、家でやったのは。もちろん全部はできないので持ち帰ることはありましたけど、多くの部分をこの会議で決めてました。あとシナリオの話をしている時にワンシーンの絵を描いては、勝手に送りつけたり(笑)。そんなことばかりしてました。
──それによって話もふくらんでいったり。
青木 そういうのもあるかもしれないですね。(貝崎)名緒ちゃんとかは、最初ヤンキーじゃなかったと思います。描いてるときにヤンキーにしたら面白いんじゃないかと思って絵を描いていたら、そこからヤンキーキャラになって、そしたら物語も動いていったと僕は感じたので。
──伊藤さんは総作監をするにあたって、一番やり取りの多いスタッフは誰になるのですか?
伊藤 アニメーションってひとりで作るものではないから、どこのセクションが欠けてもダメなんです。そういう意味では、どの部署とも連携してフィルムを作っています。最初にコンテが上がると、各話の作画監督と打ち合わせて、その後キャラクターの色を決める色彩設計さんとお話をする。フィルムが上がってきたらきたで、直しのオーダーを出したり、何度も何度もそういう工程を繰り返したりするんです。
──原画の直しだけではなく、かなり多岐にわたる作業があるんですね。
伊藤 そうですね。自分が作画においての最高責任者になるので、フィルムになるまでは、責任を持ってやっています。
──動かすにあたって、この作品で特徴的なところはありますか?
伊藤 今回はアフレコを先にやっていて、ある程度キャラクターの感情が表現できているので、そこからそれを各アニメーターさんや演出さんがふくらませて、僕もこっちのほうが面白いのではないかと提案したりしています。なので、本当にいろんな人のアイデアをまとめる作業をしているんですね。
──それもあってなのか、キャラクターがすごく生き生き動いていると感じました。
伊藤 まぁ時間がないときは、よくアフレコが先になったりするんですけどね(苦笑)。(役者の演技を)尊重するかしないか以前に、セリフが入ったところで、尺やコンテを調整できたので、それは大きかったと思います。通常カッティングは一度だけなんですけど、そこを踏まえて切り直したりもしているので、密にバランスを取っている作品だと思います。
青木 第1話の名緒がけんかを売るような顔の動きとか、ああいうところはすごいですよね。
伊藤 アニメーターさんが面白く動かしてくれるんですよね。
青木 ああいうのをどこまで動かすのかって、伊藤さんから先の作業になるんですか?
伊藤 アニメって、背景の原図を描くときに、動きのアタリも描くんです。キャラクターを入れて、動きのプランを監督や演出がチェックをしながら決めていく。それを最終的に僕のところで調整を入れたうえで、それを元にしてアニメーターさんに原画にしてもらうんです。だからいろんな人の案が入って、最終的にフィルムになっているんです。
青木 へぇ~。漫画を描いていると、全部ひとりの意思決定になるけど、いろんな人の意思が入ることで作品ができるというのもすごく面白いですね。自分が思ってもないようなことになっていたりしたから、それ含めて面白かったです。
伊藤 そういう意味で、今回は現場の小林寛監督が振り幅のコントロールをしてくれているので、それに合わせてこっちも絵を修正している感じですね。
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