フィギュア原型師・林浩己が“ストーリー性のあるフィギュアを目指す意味”を語る!【ホビー業界インサイド第34回】

フィギュアといえば“アニメやゲームのキャラクターを立体化したもの”と即断されがちだが、生きているかのような写実的なルックスのフィギュアを、根気よく作りつづけているプロ原型師たちがいる。林浩己さんは、その数少ない“リアル系フィギュア”を得意とするベテラン原型師だ。
なぜリアル系にこだわるのか? リアル系だけで商売になるのか? これまでどうやって生きてきたのか? 答えづらいであろう数々の疑問に、林さんが明快に答えてくださった。


タミヤ人形改造コンテスト、「バットマン」を経てプロ原型師へ……


──林さん原型の美女や美少女のフィギュアたちは、「アトリエイット」の公式サイトで買えますね。これだけ種類が豊富であるということは、それなりに需要があるわけですよね?

 昔から、ノン・キャラクターもののフィギュア商品は食いつきが悪くて、自分が好きだから作って販売している感じです。少なくとも、「売れるから」という理由で作っているわけではありませんね。一部の熱烈なファンの人たちに支えられて、なんとか個人ブランドのアトリエイットを維持できています。


──確か、1980年代からフィギュアのお仕事をされていましたよね?

 最初の仕事は、ホビージャパン誌に掲載させていただいた「メタルスキンパニック MADOX-01」のパイロット・フィギュアでした。その後、「バットマン」のマイケル・キートンとキム・ベイシンガーを作って、それ以降も実写映画の登場人物を、作例として何度か載せてもらいました。1~2年ほどホビージャパンで仕事した後、コトブキヤさんに原型師として売り込みにいって、初めて商品原型を作らせてもらいました。

──その商品は、やはり実写映画の登場人物だったのですか?

 いえ、OVA「戦え!! イクサー1」のキャラクターです。その当時は、フィギュア原型の仕事といえばアニメ関連しかありませんでした。ですから、アニメのフィギュアをとにかく設定に忠実に造形することで、信頼を勝ちとっていきましたね。

──1990年代に、レッズというメーカーから女子高生のソフビキットが発売されましたよね。林さんのお名前が原型師として記載されていたので、「やはりリアル系が得意なんだな」と思いました。

 僕が仕事として作ってきた原型はほとんどがアニメキャラでして、レッズさんが女子高生フィギュアの仕事を回してくださったことで、ちょっとだけ自分の興味に近いフィールドで仕事ができたんです。僕の個人的興味は一貫して、薬師丸ひろ子だとかミック・ジャガーだとか、実在の人物をいかにそっくりに作れるか……でしたから。


──そういった林さんのリアル志向は、何がルーツなんでしょうか?

 まず、小学生のときに知った「タミヤ人形改造コンテスト」ですね。山田卓司先生に憧れて、応募こそしませんでしたが、自分でもタミヤ製の1/35フィギュアを改造していました。その後、中学と高校ではフィギュアから離れてスポーツ系の部活に熱中していました。だけど、高校2年になったとき、将来のことを真面目に考えたんです。当時はアイドルの似顔絵を描いたりしていましたから、「自分は絵が好きだ、イラストレーターになりたい」と思い、高校2年の夏から美術部に移りました。結局はグラフィックデザインの専門学校に入って、デザイン事務所に就職したのですが、あまりの激務に「これは一生やる仕事じゃないな……」と痛感しました(笑)。
その頃、家ではファンド(石粉粘土)でフィギュアを作っていまして、中学時代からホビージャパンをずっと愛読してもいましたし、それまでのいろいろな流れが重なったんですよ。「やっぱり、自分は仕事としてリアルなフィギュアを作りたいんだな」と、気がついたんです。

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