「LOST SONG」が紡ぐ物語は王道なのか、それとも……!? 森田と純平監督が作品の魅力やこだわり、今後の展開について語る!
Netflix、TOKYO MXほかにて好評配信・放送されているTVアニメ「LOST SONG」。完全オリジナル作品として注目される本作は、鈴木このみさんと田村ゆかりさんがW主演を務め、2人の歌姫が織りなす幻想叙事詩(ファンタジーオペラ)だ。
どのような展開が待ち受けているのか、歌の力とはなんなのかなど、気になることも多いだけに、今回は「LOST SONG」入門編として森田と純平監督にインタビュー。作品の魅力や注目ポイント、さらには謎に包まれた今後の展開についてもお話をうかがった。
歌を取り入れた壮大なファンタジー作品
――森田と監督はアニメ作品としては初監督となりますが、これまではどのようなことをされてきたのでしょうか?
森田と 僕はずっと実写の人間でした。もともとは映画の世界で助監督などをやっていて、テレビでは自分で脚本を書いて監督もやっていて。ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティなどテレビに関してはあらゆるものに携わりましたね。今でも放送されているものでは、日本テレビの「アナザースカイ」を立ち上げから数年間やっていました。
――本作では原作・監督・脚本すべてを担当しています。制作に至った経緯を教えてください。
森田と アニメとしては以前「信長協奏曲」に携わり、MAGES.に入ってから「Occultic;Nine -オカルティック・ナイン-」のシリーズ構成を担当しました。そして、今回の「LOST SONG」は、弊社のプロデューサーから「ニッチを狙った作品ではなく、広く大きな作品をやりたい」「歌を取り入れてほしい」とざっくり言われて。そのぐらいのふわっとした始まりでしたね(笑)。
――どのような物語にするか考えた時に、すぐ今の形に落ち着きましたか?
森田と その2つのお題を考慮したら、アイドルが歌うような作品ではなく壮大なファンタジーがしっくりくるのかなと思いました。伝記やファンタジーは歌そのものを物語に入れやすいので面白いかなと。
――幻想叙事詩(ファンタジーオペラ)と謳っているように、王道ファンタジー作品なのですね。
森田と そうですね。架空の世界を舞台にしていて、言ってしまえば「ドラゴンクエスト」のような感じです。“剣と魔法の物語”ではなく“剣と歌の物語”といいますか、大きく言うとそういったカテゴリーになると思います。
――そのような世界観の中で、鈴木このみさんと田村ゆかりさんが演じる歌姫2人をメインとした物語が展開されると。
森田と 失礼な話ですが……僕はもともと実写畑というのもあって、あんまり声優さんやアニメソングに詳しくないままスタートしたんです。でも、彼女たちに出会って話をするうちに、これはすごいのができそうだと感じました。
――歌姫ということもあり、やはりキャラクターとシンクロする部分は結構あるのでしょうか?
森田と めちゃくちゃあります。鈴木さんが演じるリンはとにかく歌が好きで、日常生活に歌があっていつでも楽しく歌っていたい、というような子なんです。鈴木さんもそういう雰囲気のある本当にピュアな子で、歌が好きなんだなぁというのがすごく伝わってくるんですね。それはかなりシンクロしているなと、作りながら思っていました。
――田村さんはいかがですか?
森田と 田村さんのほうはもうちょっとエモいというか、少し影のある雰囲気を持っているなと。歌に関しても単なる歌唱力というだけでなく、そこにとんでもない表現力が上乗せされている感じがあって。まさにフィーニスにバッチリだなと思いました。「(フィーニスのキャラクターを)当て書き(※)していますよね?」とよく言われますけど、全くしていなくて。先ほど言ったように僕はそんなに詳しくなかったので、後でシンクロしていると気づいた感じですね。
(※当て書き:その役を演じる人をあらかじめ決めておいてから脚本を書くこと)
――では、フィーニスが17歳なのもたまたま? 先日のイベントでも田村さんはキャラと似ているところを「17歳」と言っていましたが。
森田と たまたまですね(笑)。みんながクスッと笑うので「なになに?」と思ったんですよ。
劇中歌は物語をそのまま表現
――より具体的な内容についてお聞きします。リンとフィーニスを軸にどのような物語が展開されていくのでしょうか?
森田と リンとフィーニスは本当に対照的な2人です。リンはすごい田舎で暮らしていて、ある大変な悲劇に巻き込まれてしまいます。悲しみを背負ってそこからどう這い上がっていくか、自分の生きる意味を見つける旅に出るというのがリンの物語です。
フィーニスのほうはきらびやかな王都にいます。そこでイケメンのレオボルトに出会ったり、ルード王子は危険な人物だなとおびえたりしながら、彼女もだんだんと戦争に巻き込まれていきます。そうやって世界情勢に巻き込まれつつ、それぞれの運命にあらがったり乗り越えたりしていく中で、“歌の力”を持つ2人はいつ出会うのか。2人が出会ったら……いい歌を歌うんでしょうね(笑)。
――第1話から「癒やしの歌」など劇中歌がありました。今後も歌はかなり期待していいと?
森田と そうですね。主人公の2人はいっぱい歌います。劇中歌はオープニングやエンディングとはまた違い、“物語そのままを歌で表現した”ぐらいの感覚です。「あー、いい歌」で終わりではなく、ストーリーに繋がっていたり、彼女たちの気持ちを表現していて。それはほかのキャラクターの歌もそうで、作品にとって本当に重要ですし、すごくいい歌を畑亜貴さんと白戸佑輔さんに作っていただきました。
――劇中歌に関しては、監督からどのようなリクエストをしたのですか?
森田と プロットの段階から物語の中に歌を入れ込んで作っていたので、ある意味で歌詞はセリフという感覚でいました。なので、作詞をお願いした畑さんにはそれをそのまま伝えて「こういう話にしたい」と発注しました。劇伴もすべて担当した白戸さんにも最初はざっくりしたことを話し、作りながら楽器などの細かいところを一緒に詰めていった感じです。ほかの作曲家の方だったら「いちいちうるせーな。あとは任せろや」と思われたかもしれないですが(笑)、白戸さんは「こういうやり方やったことがないから楽しいです」と言ってくださって。
――世界観を出すため楽器にもこだわったのですね。
森田と そうですね。楽器にはこだわっていて、僕が古楽器を使いたいとリクエストしたんです。現物はこの国のここにしかない、といった楽器を探して演奏させていただいて、この音を使おうと決めていきました。ぜひいい音で聴いてもらいたいですね。
――古楽器というのは、たとえばポニー・グッドライトが持っている楽器とか?
森田と そうです。ポニーのポルタティフ・オルガンもそうですし、ホルンなども昔のものを使っています。あと、演奏のシーンはモーションキャプチャーで動きをつけているのですが、現代にない形の楽器なのでダンボールや木で作ってモーションをとったんですよ(笑)。
――「歌詞はセリフという感覚」とのことですが、作詞の畑さんは天才肌の方ですよね。実際に一緒にお仕事されてみてどうでしたか?
森田と 僕の中で世界観や表現したいものがすでにできていたから、お願いした時は「(その世界観を)表現できたらいいなぁ……」ぐらいの感じだったんですよ。でも、畑さんは二次元ぐらい上のものをいきなり送ってきて、驚きでひっくり返りましたね。さすがに「概念」と呼ばれるだけはあるなと(笑)。ほんとに天才です。
――さすがです。それでいて普段は本当に気さくな方なんですよね。
森田と ニコニコしていて超かわいらしいので、大好きなんですよ(笑)。でも、送ってくるものがビタっと作品にはまっていて、想像を圧倒的に超えてくるのがすごいんですよね。
キャラクターの絵作りは“行動”を際出せることを重視
――歌だけでなく、背景美術などの映像にもこだわったそうですね。
森田と アニメでも実写でも、映像にとって背景美術ってすごく重要で、今回は、でほぎゃらりーさんにお願いしました。ここは映画「メアリと魔女の花」などで知られる背景美術スタジオです。そして、美術監督には大久保錦一さん。大久保さんはファンタジー作品から温かみのあるもの、「TIGER & BUNNY」や3D作品などもやっている、すごく柔軟性のある方です。できあがってきたものを見たら「これです!これです!」と、まさに説明した通りの色使いやタッチだったので方向性はすんなり決まりました。
――具体的にはどのようなことでしょうか?
森田と あまりギラギラでコントラストがバキバキについているのではなく、もうちょっとふんわりした絵といいますか。「ディテールを書き込むのが正義」と考えられる方もいるんですけど、今作ではイメージ先行でやりました。なので、普通のアニメに比べてふんわりしている印象を受けるかもしれないですが、物語の中で見ると説得力のすごく出る絵になっていると思います。
――キャラクターのビジュアル面についてはいかがですか?
森田と キャラクター原案は「ROBOTICS;NOTES(ロボティクス・ノーツ)」などを手がけられた福田知則さんにお願いしました。僕が単純に福田さんの絵がすごく好きだったので(笑)。それをアニメにする際に、金子志津枝さんにメインキャラクターデザインをお願いして彼女なりのアレンジを入れてもらいました。原案からアニメのキャラにしていくところも結構こだわっていて、普通ならもうちょっと萌え絵にするところを「いや、しなくていいです」と。そのさじ加減はキャラごとにやらせてもらいました。
――確かに、女の子がいっぱい出てくるようなアニメとは印象が違います。
森田と もしかしたら、そういうアニメが好きな方からすると「なんか眠たい絵だな」と思われるかもしれないです(笑)。でも、そういうキャラの目立たせ方をしたくなかったというか。“物語の中で生きている子たち”なので、行動が際立っていればいいなと思っていました。
――キャラを立たせつつも、キャラの見た目だけがひとりで歩く感じではないと。
森田と “こういうキャラだから面白い”のではなく、“このキャラがこれをしたから面白い”という絵作りをしています。
――物語の中で生きているということでは、周りのキャラクターたちもかなり重要になってきますよね。
森田と かなり重要ですね。田村ゆかりさんからも「普通は名前もついていないようなキャラクターに、こんな役割負わせないですよ(笑)」と言われたぐらい、いろんなキャラクターに人生設計まで考えて動かしています。モブとかサブキャラクターという考えがあまりないんですよね。それぞれにちゃんと役割があるし、“みんなで生きている感”をすごく出したいなと思っています。
今後はさらにすごい歌が出てきます
――キャラクターに命を吹き込むキャスト陣の演技はどうでしたか?
森田と 最高ですね! ほぼ全員オーディションで選ばせていただいたのですが、慣習にとらわれたくないと無理を言わせていただきました。(オーディション参加者の)お顔も見ずに、セリフは目をつぶって聴いて、「○、☓、△」をつけていったんです。「ありがとうございました」「よろしくお願いします」といった挨拶も今回はなしでいいと。オーディションのスタジオはブースにカメラがあって様子を見られるんですけど、見てしまうとご本人のイメージに引っ張られる可能性があるため、それも一切見ないようにして選びました。そのおかげで、思い描いた通りのキャラクターになりましたね。
――その中でも特にすごいと思った人はいますか?
森田と 皆さんすごいのですが、あえてあげるなら……ひとりは茅野愛衣さん。(メルとコルテの)2役の演じ分けがまずすごいです。リンのお姉さんであるメルはすごく重要なキャラですという話を直接して、台本を渡したら「いや、第1話で死んでるじゃないですか!」みたいに言われたりもしましたけど(笑)。でも、メルはリンにとっての行動意義にもなるので、生半可な芝居ではダメなんですよ。絶対に信頼のおける芝居ができる人にお願いしたいなと。
茅野さんは第1話で超絶な芝居をしてくれました。「私……リンの歌が大好き」というセリフは、聞いていて本当に大好きなんだなと感じましたし、何気ないひと言にも説得力があって。やっぱり彼女はすごいです。
――もうひとり挙げるとすれば?
森田と アル役の久野美咲さんは、僕が考えていたアル(の声)とは全然違うんですよ。ほかの方は本当にイメージがバチッときた人を選んでいるんですけど、実は久野さんだけはイメージと真逆の人を選んでいて。もうちょっとカッコいい少年というか、リンを引っ張っていく部分に重きを置いていたので、そういう声の人を選ぼうと思っていたんです。でも、オーディションの最後の方で久野さんの声を聴いて、「なんだ?幼女が来たぞ!??」みたいな(笑)。
――久野さんといえば、まずはあの独特のかわいい声を思い浮かべますからね。
森田と その声にちょっととまどいながらも聞いてみたら、これがすごく面白くて。「なんだ?このアル」と思って、ゲラゲラ笑っちゃったんですよ(笑)。ただ、イメージとは全然違うので、△でもなく☓をつけたんですね。つけたんですけど……すごく印象に残って忘れられなくなっちゃって。このアルと鈴木このみのリンが一緒にやったらすごく面白そうだなと思えてきて、これに賭けてみようと☓を花丸に変えました。
――その賭けは正解でしたか?
森田と 大正解です。この英断は自分を褒めたいですね(笑)。久野さんのアルは本当にすごくいいですよ!
――久野さんのアルに合わせて台本を少し修正したともお聞きしました。
森田と セリフのニュアンスや尺をちょっと変えています。久野さんのゆったりとかわいいしゃべり方に合わせて「このセリフは尺がかかるな」「削らないと入らないな」などと修正しました。
――鈴木このみさんは声優はほぼ初挑戦ということで、期待と不安の両方あったと思うのですが、成長という点も含めてどうでしたか?
森田と 彼女は声優としての出演が決まってから演技レッスンをしていたのですが、最初の頃はやはり歌と違う表現方法をどうしていいかわからず、楽しくないこともあったと思います。どこか自分を出し切れていないと感じたので、「もっとさらけ出しちゃっていい」と言ったんです。芝居のテクニックよりも気持ちの問題だと。うまくやろうとするだけでは伝わらないよと。「『歌上手いよね』と言われるのと、『歌伝わったよ』と言われるのはどっちが嬉しい?」といった話をして、最終的には本当にリンになってくれました。
――いろいろな面で期待ですね。それでは最後に、今後の展開や見どころをお願いします。
森田と 最初に“王道ファンタジー”と言いましたが……実は全然そうじゃなくて(笑)。
「いきなり歌う系ね」とか「ファンタジーで魔法とかドラゴンが出るんでしょ?」などと思っている方がいるかもしれませんが、出てきません(笑)。
物語はとんでもない展開が待ち構えていて、王道じゃないとクレームが来るぐらいの変化球もあります。ただ、この世界で生きているリアリティは失わずに作っています。そして何より、聴かないと損というぐらいのものすごい歌が出てきますので、ぜひ最後まで期待していただきたいです。
(取材・文・写真/千葉研一)
【番組情報】
■オリジナルTVアニメーション『LOST SONG』】
─ この歌は星の運命すら変える 2大歌姫による幻奏叙事詩(ファンタジーオペラ)
<配信>
Netflix先行配信 :2018年3月31日(土)より毎週土曜
Netflix全世界配信:2018年夏
<TV放送>
TOKYO MX :2018年4月7日(土)より毎週土曜25:30〜26:00
サンテレビ :2018年4月7日(土)より毎週土曜25:30〜26:00
KBS京都 :2018年4月8日(日)より毎週日曜23:30〜24:00
テレビ愛知 :2018年4月8日(日)より毎週日曜25:35〜26:05
BSフジ :2018年4月11日(水)より毎週水曜24:00〜24:30
<キャスト>
リン:鈴木このみ
フィーニス:田村ゆかり
アル:久野美咲
ポニー・グッドライト:たかはし智秋
ヘンリー・レオボルト:山下誠一郎
アリュー・ルックス:瀬戸麻沙美
モニカ・ルックス:芹澤優
コルテ/メル:茅野愛衣
バズラ・ベアモルス:小山剛志
ルード・ベルンシュタイン4世:鈴木裕斗
ドクター・ヴァイゼン:小形満
タルジア・ホークレイ:糸博
<スタッフ>
原作・監督・脚本:森田と純平(MAGES.)
キャラクター原案:福田知則(MAGES.)
アニメーションファシリテーター:櫻井親良
メインキャラクターデザイン:金子志津枝
サブキャラクターデザイン:原修一・藤澤俊幸
デザインワークス:バーンストーム・デザインラボ
美術監督:大久保錦一
背景美術:でほぎゃらりー
色彩設計:大西峰代
撮影監督:山本弥芳
作詞:畑 亜貴
音楽:白戸佑輔(Dream Monster)
音楽制作:MAGES.
制作:LIDENFILMS×ドワンゴ(共同制作)
オープニング主題歌:「歌えばそこに君がいるから」 歌:鈴木このみ
エンディング主題歌:「TEARS ECHO」 歌:フィーニス(cv 田村ゆかり)
©MAGES./LOST SONG製作委員会
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