価値の多様性が認められる時代において、人間の優位性とは? 想像以上に深~いテーマが潜むアニメ「俺たちゃ妖怪人間G」安達譲監督インタビュー!

伝説的ホラーアニメ「妖怪人間ベム」のキャラクターが繰り広げるコメディアニメ「俺たちゃ妖怪人間」が、装いも新たに4月より「俺たちゃ妖怪人間G」として帰ってきた!


ベム、ベラ、ベロら3人の妖怪人間が、人間になる日を夢見てトークを繰り広げる本作について、DLEの安達譲監督に本作に込めた想いやメッセージを伺った。

一見お気楽極楽な作品ながら、その裏に潜む想像以上に深~いメッセージを、ぜひとも受け取ってほしい!



なぜ妖怪人間たちがトークバラエティをすることに!?


──「俺たちゃ妖怪人間G」はどういった作品ですか?

DLE 安達譲(以下、安達) 前作の『俺たちゃ妖怪人間』から続けて観てくれている方もいらっしゃると思うんですけど、前作はアクションコメディで、「俺たちゃ妖怪人間G」はトークコメディに変わっているというのが大きな違いです。

ベム、ベラ、ベロの妖怪人間3人はこれまで、人間の世界に溶け込もうと頑張ってきました。でも、50年かかっても溶け込めなかった。そこで「一回冷静にならないとダメだ」ということで、細胞レベルに戻って、一歩離れた世界から人間社会を見ておしゃべりする形になっています。

──“人間になる”どころか、細胞にまで戻ってしまった(笑)。そもそも前作『俺たちゃ妖怪人間』が始まった経緯は?

安達 「妖怪人間ベム」50周年プロジェクトということで、原作のアサツー ディ・ケイさんからDLEにお話が来たのですが、監督である僕には「リミッターを外してくれ」といった話をされたのを覚えています。

僕自身、『妖怪人間ベム』がめちゃくちゃ好きなので、すごく嬉しかったです。ただ、生ぬるいことをして「リブートしたのにつまんないな」となるのが一番よくないと思ったので、オールドファンに対するリスペクトは持ちながらも、自分の持ち味であるコメディセンスや思い切りのいいストーリーを出し切りました。そうすれば、もし仮に失敗したとしても「安達のセンスが悪い」となって、「妖怪人間ベム」は傷つかないじゃないですか(笑)。


──「俺たちゃ妖怪人間」はパロディネタや下ネタも満載でしたが、原作からの反応は?

安達 「BL同人誌の絵が際どすぎる」とか、下ネタはよく指摘されましたね。ただ、なんだかんだ最終的にはOKを出してもらえています(笑)。

──パロディあり、下ネタありのアクションコメディだった前作から、「俺たちゃ妖怪人間G」はかなり方向転換した印象ですが、その理由は?

安達 手前味噌ですけど、前作「俺たちゃ妖怪人間」はそれなりに手応えもあって、評判がよかったんです。放送が進むにつれて、「また観ちゃった」とか「実は毎回観ている」っていうネットのコメントが増えてきたり。「実は」とか言わずに、胸を張って観てほしいんですけど……(笑)。

ただ、アニメ作品だと、大ヒットしないとなかなか続けていけない。そういった点も一度見つめ直して、「俺たちゃ妖怪人間G」としてのリニューアルに至りました。賭けではあるけれど、違った表現方法で新しい挑戦をして、もっと多くの人に「妖怪人間」シリーズを楽しんでもらえれば、と考えたんです。

──2017年10月〜18年3月まで放送していた前作の「俺たちゃ妖怪人間」ですが、パロディを扱ったギャグアニメも同じ時期に放送されていました。こういった作品を意識することはありましたか?

安達 もちろん意識はしていました。僕は「エンタの神様」やゴールデンのバラエティ番組の放送作家という、テレビ業界出身の人間でもあります。だから、世間のトレンドの逆をいく必要はないと考えていますし、「マスが何を感じているのか」ということも考えます。

ただ、そういった作品は薄く意識しながらも、「俺たちゃ妖怪人間」では、もともとアニメ「妖怪人間ベム」を見ていた30代後半〜50代といった層に刺さるようなパロディを意識して盛り込んでいました。

パロディネタは思いついたら入れてたんですけど、回を重ねていくうちにアニメーターさんもノリノリになってきちゃって、どんどん作画のクオリティが上がっていきました。24話のネタとか、結構クオリティ高いですよ。


──ただ、トークバラエティになると、パロディや下ネタは減ってきそうですよね。

安達 減っていますね。ただ、僕は別に下ネタがやりたいわけじゃなくて、たまたま思いつくのは下ネタが多いだけなんです(笑)。

「俺たちゃ妖怪人間」は舞台が「歌魔羅町(かまらちょう)≒新宿歌舞伎町」だったので、どうしても下ネタも多かったですね。

──ちなみに、「俺たちゃ妖怪人間G」では歌魔羅町や、前作で再登場を匂わせていた豚鼻崎ぱみゅぱみゅ(CV:小松未可子)などは出てこないのですか? 

安達 ……あ、でも歌魔羅町の匂いはあってもいいかもしれませんね。豚鼻崎ぱみゅぱみゅを細胞にして登場させてみたり。前作では伏線を張るだけ張っておいて、回収できてなかったんで(笑)。

──期待しています(笑)。ちなみに、タイトルの“G”とはどういう意味なのでしょう?

安達 グロース(growth/成長)とかゲノム(genom/一組の染色体)とか……。

でも、最初は間違えてグローリー(glory/栄光)って言っていました(笑)。

シリーズを通して描かれるテーマとは


──ちゃんとした理由があって、安心しました(笑)。近年ではバーチャルYouTuberなど、エンタメ業界では長尺の物語というよりトークバラエティなどの人気が高まっているようにも感じますが、そういった時代背景などは考慮されましたか?

安達 このスタイルが時代に合っているかどうかは考えていませんでした。

ただ、普通のアニメーションを作る場合、30分の作品だと企画制作から数えて、完成まで1年半くらいの時間がかかります。でも、DLEで作る作品は2分ほどの尺なので、頑張れば1ヶ月で作ることができます。そういったショートアニメの特異性を活かして、トークに反響の多かったものを取り入れてみたり、SNSと連動してトークテーマを募集してみたり……。例えばみなさんの意見を反映させながら、妖怪人間の細胞が進化していくという企画は、放送の半年間のどこかでやりたいな、と考えています。

そういった、視聴者のみなさんに育ててもらうといった企画をやりやすいのが、トークバラエティという器だったんです。

──実際に、制作する上での苦労などはありますか?

安達 トークのテンポにはすごく気を使って作っています。これは僕の班ならではの作り方だと思いますが、絵コンテを作った後、僕とスタッフ2人でで一回、社内の録音ブースを使って劇中のやり取りを録ってみるんです。それで「ここはこういった言い回しのほうがいい」とか、脚本を直したりします。

あとは、「俺たちゃ妖怪人間G」は今、がむしゃらに方向性を決めながら作っている段階なので、これからみなさんのリアクションを受けて、どう変えていくのか。そこは今後、苦労していく部分だと思います。

──それぞれの細胞がベム、ベラ、ベロを表しているということ然り、トークバラエティということで、前作でも声優を務めた杉田智和さん、倉科カナさん、須賀健太さんの力による部分も大きいのかな、と。

安達 トークのノリがありますので、細かい一言一句を大事にするよりは、わりとその場で感じた言葉で喋ってもらって、フリースタイルに録っている部分もあります。

「俺たちゃ妖怪人間G」はトークバラエティですし、極力お三方に集まってもらって収録しています。回数をへて3人の関係性が変わっていくにつれて、もっとアドリブなども増えるかもしれません。

──結果として、原作「妖怪人間ベム」と「俺たちゃ」シリーズはそれぞれ毛色の違った作品となっています。その中でも、「ここだけはブラさない」という軸はありましたか?

安達 僕の中で「妖怪人間ベム」と「俺たちゃ」シリーズで完全に共通しているものがあって、それはどんな状況でも真っすぐに生きる事の素晴らしさを描くということ。

“妖怪人間”っていうのは、マイノリティであったり、社会的に弱い立場にいたり、考え方がちょっと特殊な人たちの権化だと思っているんです。「妖怪人間ベム」という作品はそういった人々へのエールや暖かい愛情を感じるからこそ、50年も愛されるアニメになっている。その要素は『俺たちゃ妖怪人間』でも引き継いでいます。だから、「俺たちゃ妖怪人間」の舞台は歌魔羅町≒歌舞伎町なんです。

僕の中で歌舞伎町は、いろんな人生を歩んでいる人々みんなを入れられる器のある一番優しい街。ベムやベラは明日を生きるために風俗で働いたりもするけれど、その原動力は「人間になりたい」って事はもちろん家族を守ろうってことだったりする。つまり、希望に向かってひたむきに生きてるんです。ギャグとして描いてはいますが、彼らがどんな状況にもへこたれずに笑い飛ばしている姿を見て、視聴者の方にも「あぁ、くだらねぇことやってるな。俺もちょっとがんばろう」って思ってもらえるよう、作っていました。

──安達さんが“妖怪人間”に代弁される人々へ共感したのは、なぜでしょう?

安達 小・中学年の時、再放送されていた「妖怪人間ベム」を初めて観ました。その中で、女の子を助けたベロがその子とデートすることになるんだけど、女の子は父親から「あんな奴とつるむな」と言われてしまい、ベロが待ちぼうけを食ってしまう回が衝撃的だったんです。小さいながらにもそのメッセージが強くぶっ刺さちゃった。

このアニメは何か大切なことを教えてくれているぞ、と。

僕は昭和50年代生まれですが、生まれた街には戦中まで飛行機をつくる大きな工場があって、その名残で、住んでいた頃はまだ街には小さな町工場がたくさんありました。舗装されてない砂利道だったり、自転車が投げ捨てられた臭いドブ川やバラックもあるような街で。小学校には経済的な事情を抱える子もいたし、外国人もいた。イラン戦争の影響で亡命してきた子もいましたね。僕の家は特別貧乏だったというわけではないけれど、そういった場所で生まれ育つ中で「なんで差別される人がいるんだろう?」とか、やっぱり感じるものがあったんです。

──なるほど。「俺たちゃ妖怪人間G」でも、そういった想いが活かされている部分はありますか?

安達 そういう意味でいうと、「俺たちゃ妖怪人間G」はひとつ離れていますね。

この作品を作る時、もう一回“妖怪人間”について見つめ直したんです。それこそ「妖怪人間ベム」が制作された50年前は、人間こそが地球の頂点に立つ存在だった。でも、今は人間を超えるAIが出てきたりして、人間の立場が変わってきました。ベロのセリフや立ち位置にも反映していますが、「“人間になる”って本当に得なのかな?」という価値観の変化が起こってきている。

妖怪人間の3人にしても、今、個性が認められる時代になってきて、妖怪人間の方が、個性があって能力もあるから、別に人間にならなくてもいいんじゃない? って思うんです。多分、今なら妖怪人間には仕事もあるし、需要もあって受け入れられるはず。そうなった時に、これまではがむしゃらに“人間になること”がすべてだった妖怪人間は、「人間ってどんなところがよかったのかな?」「妖怪人間ってどういう立ち位置なんだっけ?」といった葛藤やジレンマが生まれてきた。

だから、一回3人とも細胞レベルにまで戻って、改めて自分たちの価値観や人間との距離感を考える。一歩引いた場所から人間を見つめることで「俺たちゃ妖怪人間G」はこれからの話が膨らんでくると考えています。

──……すごく失礼なんですけど、ギャグアニメとは思えない非常に深いお話でビックリしました(笑)。

安達 そうなんですよ! 僕、めちゃくちゃ真面目に考えているのに、社内でも「あいつ、何言ってるんだ?」みたいな反応をされるんですよ!!(笑)


なぜDLEを選んだのか?

──先ほど少しおっしゃっていたように、もともと安達さんはテレビ業界を主戦場とされていました。かわいい女の子がガチのメカに変形して話題となった「変形少女」なども手がけていますが、安達さんがDLEに入ってアニメに携わるようになった理由はなんですか?

安達 ありがたいことに、テレビのバラエティ作家として食べていけるくらいにお仕事をもらえるようになっていましたが、30代半ばになって、テレビ業界での自分の立ち位置が決まりかけているな、と感じたんです。だから、身体が動くうちにできる新しいチャレンジをしたかった。例えば、「生身の人間ではできないコント」といったエキセントリックな表現だったり。「それができるのはマンガやアニメだよな」と思って、DLEに応募したんです。


──中でもDLEを選ばれた理由や、安達さんの考えるDLEの強みをお教えください。

安達 DLEにお世話になったのは、、FROGMANの作る「秘密結社 鷹の爪」などを見て、低コストでも発想一つで勝負するやり方に共感を覚えたからです。僕個人としては、なんとなく作品作りのベクトルが近いかな、って思ったんです。「面白い」と思っている根本の方向性が違う会社にいっても、幸せになれないと思いますし。

DLEの強みでいうと、節操がないことじゃないですかね(笑)。でも、それはいいことだと思うんです。僕が監督で参加した「変形少女」も、うちみたいな自由な会社だからできた。

まともな会社なら、女の子が飛行機に変形して、飛行機を後ろから覗くとパンチラしてる

アニメにハンコ押しませんよ(笑)。

それと、美少女ものをアニメが好きな人以外も楽しめるものにしたい、という気持ちが強くありました。だから、「俺たちゃ妖怪人間G」もお茶の間を意識して作っているんですよ。

──トークバラエティだと、お茶の間でも楽しみやすいかもしれませんね。最後に、改めて「俺たちゃ妖怪人間G」の観どころをお教えください。

安達 ……ちょっと長い目で見てください(笑)。前作からいきなりスタイルが変わっていて、試行錯誤しながら作っていますが、そのうち面白くなる、ということは約束します! だから、半年間、僕に(一話分の尺である)2分ください!! くだらないけど本質を突くようなことをブツブツ喋っていて、深夜ラジオみたいなノリなので、ぜひ深夜のテンションで観てほしいです。どうせ、大金をかけて作るアニメには勝てないですし(笑)。

あと、画にもこだわっていて、ちょっと中毒性のある音楽と画になっています。喋っている言葉と全然違う動きをしていたりして、「思わず見入ってしまう」というのも演出のひとつのキーワードです。

──ある種のドラッグムービーのような……。

安達 そうです!! まさに、テクノ音楽を使ったりもしています。

──まとめると、安達さんは“お茶の間にドラッグムービーを届けよう”としているんですね。

安達 (笑)。僕、ずっと理想と手法が噛み合わないんですよね!(苦笑)

(取材・文・写真/須賀原みち)

【放送情報】

■アニメ「妖怪人間ベム」

(アニメ「妖怪人間ベム」-HUMANOID MONSTER BEM-」&新アニメ「俺たちゃ妖怪人間G」)

・TOKYO MXにて毎週水曜26時05分から、BS11にて毎週月曜26時00分から放送中

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